今日は真面目な話

 今日のエントリは、本当はあまり書きたい話ではない。ただ、このブログのこれからに関わる部分もあるため、一応書いておく。この話題については人と少し話したものの、今回のエントリの文責はすべて私一人にあることを予めお断りしておく。


 先日、アークライト、KADOKAWAグループSNE新紀元社、ファーイースト・アミューズメント・リサーチ(F.E.A.R)、冒険支援株式会社の関連出版社6社が、合同で「TRPGライツ事務局」を設立し、「二次創作活動に関するガイドライン」を発表した。


news.yahoo.co.jp


TRPG二次創作活動ガイドライン - トップ


 六社合同となっているが、同ページがアークライトの傘下にあることや、SPLLの運用を行うのが同社であることから、実質的にアークライトが中心的存在であると思われる。


 まず初めに大事なこととして、私自身としては、TRPGもまた、他の著作物同様、著作権者の権利は正当に守られるべきだと考えている。


 しかし、同ページの「二次創作活動の定義」の項によると、「シナリオ」が二次創作物に含まれることになっている。これは非常に微妙な問題である。何故ならTRPGは「自作シナリオ」なしでは遊ぶことが極めて困難だからだ。
 通常の一次創作作品においては、二次創作作品の存在は別段必須ではない。二次創作は一次創作ありきの作品であるが、逆は成立しない。二次創作があってもなくても、一次創作の消費者は関係なく楽しめる。
 ところが、TRPGにおいてルールブックを一次創作、自作シナリオを二次創作と位置付けると、「消費者自身が二次創作活動を行わない限り、実質的に一次創作を楽しめない」作品となる。にもかかわらず、その二次創作活動に対して制約をかけようというのが今回のガイドラインだ、ということになってしまう。

 しかも、今回のガイドラインにはかなりの穴があるように見える。ざっと読んだだけでもかなりの疑問が浮かぶのだ。


・まず重要な問題として「閲覧者の視認性を確保した上で、以下の権利表示を行ってください」とあるのに、今日時点で二次創作管理製品名リストに権利者の表記がない(!!??)。記載されているのは著者名と出版社だが、例えばソードワールドの場合、リスト上では著者が「北沢慶グループSNE」出版社が「KADOKAWA」となっているにもかかわらず、例では「グループSNEKADOKAWAが権利を有する」となっており、著者と出版社と権利者の関係が明確になっていない。


・また「製品名リスト」となっているが、「基本ルールブック」しか記載されておらず、その旨の但し書きもないため、当然含まれるはずのサプリメントの位置づけが不明である。


・「二次創作活動のガイドライン」となっているにもかかわらず、何故かガイドライン中に「対象著作物からの引用について」という項目を含んでいる。通常、著作権法に認められた「引用」は「二次創作」とは解釈されない。外書きすべき。


・SPLLにおける「1作品」の定義が明確ではない。同人誌を「分冊」したら1作品と見做されるのか。1年以内に「再販」した場合はどう扱われるのか。「総集編」を出した場合はどうなるのか。


・『「SPLL」の申請時にお支払いいただいたライセンス料から事務手数料を差し引いたものが原著作者に支払われます』とあるが、翻訳された著作物の場合、原著作の所属国の法律との関係はどう整理されるのか。


・そもそも、前述のとおりTRPGというホビーがこのガイドラインでいう二次創作を行わない限り実質的に楽しめないホビーであるにもかかわらず、製品購入時に明示されなかったガイドラインを後出しで適用するのはアンフェアではないのか。


 ……等々。


 もちろん、こういったガイドラインを定めるに至った経緯は分かる。冒頭のYahooニュースでも触れられているとおりだ。

例えば、人気シナリオの一つは、アニメ映画化に向けたクラウドファンディングを行い、数千万円を超える支援金が集まっているというケースもある。


premium.kai-you.net


 他者の著作物を使って数千万円ものクラウドファンディングを集め、しかも原著作者には1円の還元どころか、そもそも許可すら得ていない、などというケースが頻発すれば、それは黙ってもいられなくなるだろう。その点は非常に理解できるし、商業利用を行わない、通常のセッションの範囲において、ユーザーに負担とならないガイドラインであること自体は評価できる。
 しかし、だからといって拙速に物事を決定することは、業界にとって決してプラスにならないはずだ。特にTRPGは特殊な趣味である。一次創作と二次創作の境目が曖昧で、かつ微妙な問題を孕んでいる。

 前例がある。クラシックダンジョンズアンドドラゴンズを翻訳した株式会社新和は、権利問題を厳格に適用しすぎたため、ユーザーコミュニティの萎縮を招いた、と言われているのだ。

しかし、同社は「ビホルダー/鈴木土下座ェ門」のエピソードのように版権について厳しい態度をとる事でも知られていく。後には「同人つぶし」と呼ばれるような事態も数々発生した。ユーザーらによって国内未訳の関連商品が必然的に私家翻訳されるなどしていた為である。

こうしたことの背景には本国TSR社の意向も関係していると言われているが、一方ではユーザーのボランティア精神を利用し、他方では自主的な活動に制限を加えるような態度には批判も多かった。

 今回のガイドラインに対し、主要各社の中で唯一、D&Dを手掛けるホビージャパンだけが参加していない。WOC社の意向を待たずに判断ができなかったということだろう。その姿勢も、慎重という意味ではある意味正しいと言える。
 もちろん、ガイドライン自体もこれから改善していくものなのだろう。それを期待したい。TRPGの今後のために、是非メーカーとユーザー、双方が幸福になれる着地点を探ってほしい。これは1ファンの切実な願いである。

このブログの今後

 なお、このブログにおけるTRPGの扱い、特に引用記事については、適用日である12/1以降、基本的にガイドラインに基づき表記します。ただし著作物そのものに明示されていない項目(例えば「戦車レースの光と影」が掲載されたJGCチケットマガジンにおける「版表示」など)についてはこの限りではなく、またAmazonへの商品リンクを貼ることで明示される項目(著者名や書名など)についても記述を省略することとします。