“偵察任務”はありかなしか?(前編)

 某所で話題となっていたとある言霊を見つけた。そろそろ元の掲示板でのほとぼりが冷めてきた頃かなと思うので、今さらながら個人的な意見など書き連ねてみたい。


     ◇


システムは割と定番のSW2.0
PCは6-7Lvの4人、純ファイター グラップラー−スカウト フェアリーテイマー−セ−ジ ソーサラー-ライダー
面子の都合で神官無しで妖精使いが回復役

依頼内容は「街の東側に広がる森で蛮族の目撃があるから偵察しろ」
目撃されたのはヒポグリフライダーらしい
この時“連絡用”と称して魔法使いの使い魔を剥奪の上、望遠鏡、方位磁石、乗用馬をほぼ強制的に購入させられる

シナリオは時間管理在りのマップ探索
移動時間と探索・隠密への修正、逃亡判定etcの多量オリジナルルールを提示され
膨大な量に比べて、確認の時間や質疑応答は程んどなくプレイ開始の為、詳細を把握しているPLは無し

マップは10×10以上あり、移動すると上下左右4方向の視界が広がる
1マス移動にかかる時間は30分〜6時間、通常移動の3時間/マスでは下手すると4日以上かかる仕様
時間経過を防ぐため、PLは馬に乗って目撃報告の在った方位へ急行(速度は早いが隠密はほぼ不可能)
高台のマスが在り「登れば遠くまで見える」と言うので登ったら、上空のヒポグリフライダー2体に発見されると言う罠
こいつらは、魔法が届かない上空にいるのでPCからの攻撃は不可
1体はPCの上空に残り、もう1体は飛びさった

1体が飛び去った方位の2マス程離れた場所に蛮族が工事をしているのを発見、後方には道が続いていた
GM曰く「警備・作業員含めて20体程が働いているのが見える」
既に発見されており、時間がたてば増援が来ると判断して突撃を選択

近づく途中で、-2修正の魔物知識判定
コボルト(1LV、雑魚)5体 
ボガード(3Lv、知能:低い、雑魚だが後衛に肉薄されると脅威)10体 
ダークトロール(8LV、蛮族の神官戦士 知能:人間並みPCと同格)1体
オリジナルの上位ダークトロール(10Lv知能:人間並み、単体でボス級)1体と判明

コボルトとボガードは作業員ということなので、敵2人なら勝ちめは在ると判断して突撃

戦闘開始時点で、コボルトは離散
トロールがボガード達にフレジィ(熱狂的に戦い続ける呪い)をかけ、作業員のハズがまさかの戦力化
設定的にトロールは誇り高いので、弱者を死へ駆り立てるこの行動は明らかに変
とりあえずトロール2人を抑えないと話にならないので、前衛が1人ずつ貼りつく
ここで、知能が低くて熱狂している筈のボガード達が手近な前衛を無視して後衛に殺到
さらに、上空のヒポグリフライダー×2も後衛を急襲、半分以上は撃退するも支えきれずに気絶する後衛×2

前衛の1人が特殊アイテムを使って駆けつけ、蘇生ポーションを飲ませ
魔法使いの範囲魔法で残りの雑魚を薙ぎ払ってひとまずの安全を確保
この時、敵が周囲に居ない為蘇生した後衛×2の回復は後回しになっていた

その後、追ってきたダークトロールと前衛が際接敵
この時点で後衛2人がダークトロールの攻撃魔法の範囲に入っていたが、システム初心者だった妖精使いはこれを失念
次ラウンド、警告なしで当然の様に攻撃魔法が飛び再び両者気絶
さらに上位トロールは1on1中の前衛に自分を攻撃できなくする神聖魔法を発動
トロールは誇り高い(ry

その後、気絶者と殴れない暇人を抱えたままだらだらと戦闘は続く
10R弱の攻防の後、比較的攻撃力の弱いスカップラがなんとかトロールを追い詰めた
ここでまさかの回復魔法×2

勝ち目が無いと判断した前衛2人は仲間を見捨てて逃亡せざるを得なかった

 
※報告者の感情的なフレーズなどを多少修正してあります。


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 さて、この掲示板そのものは報告者のその後の書き込みなどもありちょっと意外な方向に流れていくのだけど、それはさておき、この行動が是か非か──というのは今回のエントリの主題ではない。


“偵察任務はTRPGのシナリオに向いているか?”


 というのが今回の主題である。


 あなたはGMとしてあるいはPLとして、TRPGにおいて「偵察」を主目的とするシナリオをやったことがあるだろうか。セッションを50回以上やったことがある人なら、1回くらいは偵察シナリオを遊んだことがあるかもしれない。


 ところで、偵察には2種類の偵察がある。ウィキペディアによればこうだ。


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偵察には隠密偵察と威力偵察がある。隠密偵察とは敵に察知されることなく行う偵察行動であり、威力偵察とは部隊を展開して小規模な攻撃を行うことによって敵情を知る偵察行動である。


     ◇


 普通TRPGのシナリオで偵察というと、後者の「威力偵察」に近いものを想像する人が多いのではないだろうか。
 例えば「近くの森にゴブリンが出るから様子を見てきてくれない?」と村長から依頼され、ゴブリンを発見し、そのままねぐらに乗り込んで壊滅させる、というシナリオだったとすれば、最初の依頼内容は「様子を見る」ことで、極論すればそれは「偵察」と言えなくもない。威力偵察について、別のサイトではこう説明を加えている。


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 当然本格的な戦闘に発展する危険性をはらんでいるため、そうなっても良い態勢を整えてから行なわれたり、逆に本格戦闘が迫っているにも関わらず敵状が分からないときに行なう。


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 つまり「偵察」と言われても、そのままなし崩しに戦闘になる可能性は否定できない、ということだ。
 なぜかというと、敵に気づかれずに行う隠密偵察を目的とするシナリオの場合、一つの疑問が生じるからである。


「偵察して敵がいることがわかったとして、結局その敵をどうするの?」


 PCが偵察を行い、一回引き返したところでセッションが終わり、その次のセッションで討伐を命じられる、という流れは当然あり得る。その場合「最初の偵察時に倒してはいけない」特段の理由がない限り、最初の偵察時に倒して何か問題があるのか? という話になる。
 特段の理由の例としては「偵察してみたら強い敵(ただし弱点あり)がいて、次のシナリオで弱点を用意して討伐」とか「一度に相手すると危険な敵がいることが分かったので、次のシナリオで敵勢力を分散させて各個撃破」とかそういうパターンが考えられる。
 また、冒険者のミッションが云々ではなく「戦争状態」が当たり前であるゲームの場合(天羅やブレカナ、カオスフレア、アリアンロッド・アルディオンなど)、「偵察の対象がPCが戦うべき相手ではない」場合もあるかもしれない。
「敵情がわからないから偵察してこい」と言われ、1万人の兵士が常駐する砦の存在が発覚するシナリオがあったとしても、まさか次のシナリオで「正面から戦って1万人の敵軍を壊滅させてこい」なんてシナリオにはならないだろう。システムで敵が明確に規定されているブレカナ、カオスフレアでは特にそれが顕著だ。聖痕者でもダスクフレアでもない相手をなぎ倒してこい、なんてシナリオは適切とはいえない。


 しかし…である。上にあげたようなパターンを除き、隠密偵察を命じるシナリオについては、どうしてPCがそのまま敵を倒してはいけないのかという理由がはっきりしていないと、PLとしてはもやもやするだろう。


 よくないのは某M野氏ではないが「偵察はPCの任務だが、敵を倒すのは超強いNPCの仕事」なんていうシナリオだ。わけても最悪なのはNPCと敵の戦闘の演出を延々と続けること。PCが関われない戦闘であれば結果を伝えるだけでよく、描写は勝った負けたの結果だけ、30秒もあれば十分だ。
 

 また、隠密偵察する場合の問題として、PC間の隠密能力に差があることも挙げられる。通常のクラス編成でいけば隠密関係のスキルが豊富と思われる盗賊系、インヴィジビリティなどの魔法が存在する世界であれば魔術師系が姿を隠す能力、移動能力ともに優れ、プレートメイルをガチャガチャ着込んだ戦士系は不向きだろう。何より「見て帰ってくるだけ、発見されたら失敗」で、そのままシナリオ終了だと、戦闘で活躍できないクラスは全く活躍できないままになってしまう。


 PCに隠密偵察をさせたいのであれば、一捻り必要となるだろう。シナリオの前半で隠密偵察をし、後半で討伐。あるいは偵察が終わって退却中に敵と遭遇する、などなどだ。


 今回のケースの場合、逃走関係のオリジナルルールを用意していたことまで考えるとGMは「隠密偵察」を想定していた可能性がある。その場合GMは戦闘を行うこと自体を想定していないため、敵戦力に関してはPCのそれを大幅に上回るように設定していてもおかしくない(見つかったらアウト、という意味で)。しかしPC側は、強行突破を選択したということは威力偵察に近いものを想定していたのではないだろうか?
 この齟齬が起こらないようにするため、GMが「戦ったら死ぬよ」とぶっちゃけてしまうという方法が元の掲示板では提案されていたけれども、方法はそれだけとは限らない。依頼の段階で交戦を禁じてしまえばいいのだ。敵に見つかってはいけないと言われれば、わざわざ敵と戦おうというPLはいないはずだ。
 なお「偵察任務と言われているのに敵と戦ったのがバカ」という論調もあったが、これは必ずしも正しくないと思う。なぜなら先ほど述べたとおり、偵察といっても交戦を前提とする偵察方法も存在するからだ。戦うのは正解ではない、というのであれば、任務を偵察とするだけでは不足であり、敵と戦ってはいけないというところまで言及する必要がある(もちろん報告者の報告にないだけで、依頼者が交戦を禁じていた可能性もあるが)。


 次に、PL側から見ると「敵側に移動力でPCを上回り、かつその移動をPCが阻止することが不可能なユニット」に発見された段階で「隠密任務は不可能」と判断したのは無理からぬところもある。具体的にはヒポグリフライダーの存在だ。ヒポグリフライダーを取り逃がしたことについては、報告からだけでは明確にPC側にミスがあったとは認められない。報告者もそう考えていることが文面から読み取れる。
 そもそも、知覚された時点で隠密偵察ミッションそのものの失敗がほぼ確定するヒポグリフライダーを配置していること自体、GMが「隠密偵察任務」ではなく「威力偵察任務」を想定しているのでは? とプレイヤーが判断しても、判断ミスとまでは言い切れない(そもそもPCの全員が攻撃不可能な位置にPCより移動力の高い敵を配置するという設定が適切かどうかは置いておくとして)。
 もしどうしても隠密偵察をさせたくて「戦闘に入ってしまったらもう失敗」というシナリオならば、判定1回で一切フォローが効かない状況はちょっと厳しい。

 
 さらに、このシナリオにおいては敵戦力の設定が「PCが勝てるかもしれないと誤認(?)」する程度の強さになっているのも、結末に至る伏線になっている。これがどうやっても勝てない強さの設定なら喧嘩を売るPLはいないだろう。


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