3DダンジョンRPGへの憧憬・女王の受難の続き

 ウィザードリィ外伝1「女王の受難」は、シンプルかつ良バランスだったがそれだけではない。ストーリーもまた秀逸だった。

 とはいえ、昨今のストーリー重視のRPGのように複雑怪奇なストーリーがあるわけではない。


精霊神ニルダの加護のもと、古くから繁栄を続けてきた、リルガミン王国。
リルガミンにはこれまで数々の災いが降りかかってきたが、その度に英雄が現れ、危機を乗り越えてきた。
しかし、女王アイラスの代において、リルガミンに再び危機が迫ろうとしていた…。


女王アイラスの即位から3日後、姉のソークスが突然失踪。
それ以降リルガミンには災いが降りかかり、王国を守護する神器「ニルダの杖」の加護も失われつつあった。
さらに追い打ちをかけるように、アイラスの側近である魔法使いタイロッサムがリルガミンに対し造反。
かつてリルガミンを窮地に追い込んだ魔人ダバルプスの生み出した地下迷宮に身を隠し、魔物を召喚し始めたのだ。


タイロッサムはアイラスの師ともいえる存在であり、年若い彼女を献身的に支えてきた。その彼による造反は
アイラスを打ちひしがせるに十分な出来事であったが、女王となった今、泣き言を言うのは許されない。
アイラスは町にお触れを出し、タイロッサムを倒す勇者を募ることにした。


かくしてリルガミンには冒険者達が集まり始めた。その中には、かつてリルガミンを襲った災厄に立ち向かった
英雄達の子孫もいたのである…。

名作・良作まとめwiki」より


 と、ほぼストーリーはこれだけしかなくシンプルである。が、古いウィズを知っている人間にとってこれは原作リスペクトに満ちた物語なのだ。

 まず舞台となる聖都リルガミンはウィザードリィ2、3の舞台となった場所でもある。魔法使いタイロッサムが立て篭もった「ダパルプスの呪い穴」は「ダイヤモンドの騎士」のダンジョンだ。「ニルダの杖」の加護の話も、旧作で触れられるエピソードである。この辺りは「知っている人が見れば納得でき、知らない人が見ても別に困ることのない」情報になっている。旧作を知らないと面白さ半減とか、クリア困難なんていうわけでもない。

 そしてさらに面白いのが、この物語の図式がそのまま旧作へのオマージュになっているという点である。

 ご存知のとおり、ウィザードリィ1のは「狂王トレボーのお付きの魔法使いワードナが、魔除けを盗み出してダンジョンに立て篭もった」というストーリーである。トレボーを女王アイラス、ワードナをタイロッサムに置き換えたら、そのまま図式は同じだ。
 ところがこの1の物語は、その後のウィズ4の展開や「奥に行けば行くほど敵が強くなるダンジョンの構造の問題」もあり、別の解釈がされることがある。「実は魔除けを手にして世界を征服せんとする悪人はトレボーの方であり、ワードナはそれを止めようとしたのだ」という説だ。「隣り合わせの灰と青春」を始めとし、この解釈を採る作品は多い。
 そして外伝1のストーリーはこちらもなぞっている。ストーリーの概略は先ほど紹介した通りだが、実はタイロッサムのところまで辿りつくと、真の悪人は女王アイラスの双子の姉、ソークスであり、タイロッサムはソークスを止める人材を見つけ出すべく冒険者を鍛えるために魔物を召喚していた、という事実が分かる。つまりタイロッサムがワードナであり、狂王トレボーに当たるのがソークスだ。
 ここで安易に「女王アイラスが裏切る」という展開にしなかったことも高く評価できる。前にも書いたが、主人公が喋れないゲームで味方に裏切られるのは非常にストレスがたまる。このゲームでは依頼人にあたるのが女王アイラスしかいないので、彼女に裏切られることは登場人物全員に裏切られるのに等しいからだ。


 このように、国産初のウィザードリィは原作リスペクトに満ちた素晴らしい作品だった。高い評価が下されたのにはそれなりの理由があるのだ。ストーリーそのものは単純だが、3DダンジョンRPGのストーリーはこれくらいでちょうどいいと個人的には思っている。