それは素晴らしい「また守矢か」


 この間、東方で好きなコンビは「寅丸星」と「ナズーリン」という話をしたけれど、むしろ私の好きな「命蓮寺のエピソードそのもの」が素晴らしい形で映像に仕上がっているのがこの作品。
 命蓮寺のエピソードについてはもう、とりあえずこの動画を見てくださいと言いたいのだけれど、東方星蓮船の基本ストーリーを知らないとこの動画を見ても意味がわからないかもしれないので、本当に本当に蛇足ながら少々解説を(ご存知の方は飛ばしてください)。

     ◇ ◇ ◇

 この動画は船幽霊・村紗水蜜(以下ムラサ)の視点で描かれている(冒頭は水難事故のため命を落としたムラサが怨霊となって、聖白蓮の乗っている船を沈めようとしているシーン)。その後は、白蓮に諭されて人に仇なす妖怪であることをやめ、白蓮に匿われて他の妖怪と共に幸せに暮らしていた。
 しかし、それは白蓮に妖怪退治を頼んでいた人々の意に沿わぬことであり、白蓮は魔女として魔界に封印されてしまい、ムラサも船と共に地獄へと追いやられ、身動きが取れない状態にされてしまう(「まじょがり」のシーンがそれ)。この時、妖怪であることを隠して毘沙門天代理人として人々に接していた寅丸星と、星の監視役として毘沙門天が送り込んだナズーリンだけは難を逃れたと思われるが、寺は信仰を失い荒れ果ててしまった。

 普通に考えれば、妖怪を退治すると称して匿っていた白蓮の行為は情状酌量の余地はあれど問題行為であり、まともに理性と分別の働く者なら白蓮やそれを慕う妖怪を封印から解こうとは思わないだろう。

 しかし、ここで「あの守矢」が登場するのだ。

 前作「東方地霊殿」のストーリーでは、守矢一家の八坂神奈子洩矢諏訪子がお9(バカ)……じゃなくて霊烏路空核融合の力を与えたことが騒動の発端だった。幻想郷の他の住人(レミリアや蓬莱山カグヤなど)が基本的に自分の欲望に忠実に、自分の目的のために生きて騒動を起こすのと逆で「傍迷惑な善意」が周囲に迷惑を振りまくというパターンだ。
 ところがである。地霊殿の騒動で間欠泉が湧いたせいで、ムラサたちは封印を逃れることができた(動画の3:10あたりで噴き出しているのがそれ)。ムラサたちと地上に残っていた星とナズーリンは力を合わせ、魔界に封じられた白蓮を復活させる……というのが星蓮船の大まかな流れだ。
 もし、神奈子たちが空に力を授けていなかったら、間欠泉が湧くこともなく白蓮が復活することもなかっただろう。
 私にとって東方の面白さとは、こういうところにある。善行は善とは限らず、悪行も悪とは限らない。萌え美少女にしか見えないスカーレット姉妹は人肉を食らう吸血鬼で、麗しきかぐや姫は月からの使者を自分の目的のために皆殺しにし、藤原氏の娘と永遠の殺し合いを続ける。
 風祝の気紛れは幻想郷を大混乱に陥れる傍迷惑な行動にしか思えないが、それによって救われた者もまた存在する。妖怪を退治するはずの導師は妖怪を匿い、匿われた妖怪は品行を認められて毘沙門天代理人となる。その代理人を監視するはずの毘沙門天の使いは、表向き代理人の部下という体でありながら上司にタメ口を利く生意気な鼠(寅と鼠の組み合わせは、さしずめトムとジェリーか)。しかし彼女はその上司に肩入れしてしまい、本来の命令よりも主人の命令である宝塔探しに奔走する。全ては裏腹、コインの表と裏。

     ◇ ◇ ◇

 それはともかく。MMDにはとても見えない紙芝居風のやさしげなタッチ、平沢進のRotus(もちろん聖白「蓮」のことだ)に乗せて流れるストーリーに、私は思わずセルフエコノミーモードになってしまった。今のところ、私の第8回MMD杯トップはこれである。