ウィザードリィにクトゥルフといえば

「Wizardry Online」に上位職と6人パーティシステムが実装! 気になる今後のアップデート展開について運営開発チームにインタビュー

岩原氏:
 まずストーリーですが,上位職など新要素の登場により,これまでと展開が変わります。実は「Wizardry Online」のストーリーのベースには,クトゥルフ神話があるのですが……。

4Gamer
 あれ? その情報は,岩原さんも運営開発チームも,これまで公式に言及していませんよね?

岩原氏:
 そうですね。公にするのは初めてかもしれません。もっとも,クトゥルフ神話に詳しいお客様は気づいていたと思いますが。
 これまでのストーリーでは,第二章の終わりに向けて,クトゥルフ神話との関連が少しずつ明らかになっていったのですが,第三章はさらにその色が濃くなっていきます。たとえば,異教徒が何をやっているのか,といった部分など,クトゥルフ神話に詳しい方なら納得する描写があります。

松田氏:
 実は開発チームのクエスト担当にも,クトゥルフ神話に詳しいスタッフがいて,指示がなくても小ネタを盛り込んだりしています。クトゥルフ神話を読み込んでいる人ほど,ニヤリとできるようなネタが多いですね。

岩原氏:
 私が「Wizardry」にクトゥルフ神話を組み合わせた意図は,最後に誰も幸せにならなかったり,皆死んじゃったりといったような,少しダークなストーリーを提供したかったからです。普通に皆が幸せになって,楽しいストーリーなら,世の中に溢れているわけですから。


 元ネタのウィザードリィにはクトゥルフから持ってきたネタなんてほとんどないんだけど。そもそも、ダークなストーリー=クトゥルフっていう安直な発想もどうなのさ。
 正直、クトゥルフ神話を読み込んでたって、全然関係ないウィザードリィのゲーム中でクトゥルフネタ出されてもニヤリどころかいいとこ苦笑、後述の作品やってたらむしろまたかと食傷なだけだと思うけど……。

岩原氏:
 2013年2月頃,設定資料集を書籍として販売する予定です。これはもともと,「Wizardry Renaissance」プロジェクトの開発者が世界観や設定を共有できるよう私が作った資料を,一般向けにリライトした内容になります。神話の時代から現在に至るまで,一つの歴史の流れがまとめられているのですが,これまで「Wizardry Renaissance」としてリリースされた各タイトルは,そこから特定の部分を切り出してゲーム化していたんです。

4Gamer
 と言うと,「Wizardry Online」のクトゥルフ神話要素というのも,もともとそこにあったわけですか。

岩原氏:
 そうです。神話というと,普通は天使と悪魔がいて……みたいなことになりますが,そこに私がクトゥルフ神話の要素を加えたわけです。

4Gamer
 これまで「Wizardry」の創作物というと,作り手個人の解釈に頼っていたわけところがありますよね。

岩原氏:
 ええ,それはそれで,私としては楽しいから構わないんです。ですから,この設定資料集でもあまり肉付けをせず,交通網はどうなっているのか,普通の住民はどのような生活をしているのかなど,バックグラウンドだけを提示して,さまざまな解釈ができるようにしています。


 私が加えたって断言しちゃってるよ、この人! それって紛れもなく「作り手個人の解釈」じゃん!

 いや、しかしこれで納得いった。どうしてウィザードリィルネッサンスの作品群がことごとくどれもこれもアレな出来だったのか。大本がこんな考え方だったんじゃむべなるかなだ。
 単純に考えて、どうしてウィザードリィにないクトゥルフの要素を付け加えた世界観が「原点回帰」になるんだ。「原点」にないものを勝手に追加したらそれは原点回帰じゃなくて「明後日の方向」だろう。

 しかし、ウィザードリィルネッサンスにしてもエルミナージュゴミ……じゃない、ゴシックにしても「難しいのがウィザードリィ! デッドリーなのがウィザードリィ!」と思い込んでいる人たちが行きつく先が、同じクトゥルフ神話だったっていうのが興味深い。
 これはTRPGにも関係ある話だけど、クトゥルフを使うということは「PCをシナリオ中で皆殺しにしていいんだ! バッドエンドにしてもいいんだ!」という免罪符になるわけではまったくない。
 例えばドラクエで最初に出てくるモンスターにスライムじゃなくてショゴスという名前がついていたら、いきなり全滅させられても納得がいくだろうか?
 FFで最初に出てくるモンスターがゴブリンじゃなく落とし子だったらストーリー展開が理不尽でも楽しめるだろうか?
 D&Dでダンジョンの入り口にガーゴイルじゃなくナイトゴーントが鎮座していたら、PCが初戦で壊滅させられても笑って許せるだろうか?
 もちろん無理に決まっている。どちらのデザイナー氏も批判された時「クトゥルフ使っておけばストーリーが暗い展開でゲームバランスが悪くても許されるんじゃね?」と思ったのかもしれないが、クトゥルフの名前を借りようがなんだろうが、理不尽なものは理不尽だし、ゲームバランスが悪いものは悪い。

 逆にいえば他人の創作物など借りずとも、例えば世界樹の迷宮のようにオリジナル色を前面に押し出して独自の世界を構築することはできるし、小宮山氏がやったように自分が一から作った神話体系を作品中で開陳しても、作品全体としての出来がよければプレイヤーに受け容れられる。そもそも彼らのような制作者にはクトゥルフ神話なんていう免罪符は必要ないのだ。だって、自信を持って面白い作品が作れるのだから。
 結局、何に題材を採ったかなどというのは大して関係がない。ゲームとして面白いかどうか、それが全てだ。