長文注意、長文語り

 今日のエントリは長文な上に、TRPGに関する結構ネガティヴな話なので、一応折り畳んでおきます。そういうのが苦手な人は回避してくださいね。












https://twitter.com/gmtomono


 うーん、最初は下の発言について話そうと思ってたんだけど、TLを追っていったら別の部分が気になってしょうがなくなってきた……。

友野詳‏@gmtomono4月20日
 個人のセンスでいうと「ルールにダメって書いてないからやっていい」のがTRPGで、「ルールにできるって書いてないからやっちゃダメ」なのがボードゲームかな、と。もちろん、明確な線ではなく、曖昧な領域にへだてられているわけですが。


 今まで私のブログを読んできた人にはお分かりと思うが、言うまでもなく私はこの友野氏の発言には真っ向から反対する立場である。とりあえず、今たまたま手元にあったガープスルナル、ユエル、央華封神ゲヘナゲヘナ・アナスタシスを確認してみたが、ルールブック中にいわゆるアリアンロッド上級ルールにあるような、他人のキャラクターの行動を勝手に規定してはいけないとか、セッション中に寝てはいけないとか、雑談に興じてGMを無視してはいけないとか、これらの「危険行動」がちゃんと明記されているものは一つもない。
 そして、常識的に考えればセッション中に「やってはいけないこと」を全てルールブックに記載するのは不可能である。今挙げたアリアンロッド上級ルールではかなりの範囲をフォローしているものの、結局最後は「卓内のコンセンサス」に拠るところが大きい。例えば学年の差や立場の差を利用して強権を振るいGMの差配に口を出したり、逆にGMがプレイヤーの望まないNPC無双をしたりといった「禁じ手」を一々全部ルールブックに書いていたらきりがなくなる。つまり「ルールにダメと書いてなくても、セッション中にやってはいけない行動は当然ある」のだ。
 付け加えると、特にバブリーズをはじめとするSNEの古参メンバーはかつて「GMの裏を掻く」プレイングを多用していたが、この考え方の根底に、上記の発言にある「ルールにダメと書いてないことはやっていい──それがたとえGMを困惑させセッションを停滞させる行動であったとしても」という思想があったことは言うまでもない。


 とはいえ、ざっとTL上を見てみると、友野氏は別に他人のつぶやきに対して攻撃的でもないし(こうして書き連ねてきた私の方がよほど攻撃的だ)、ナイトメアハンターのくだりやエリュシオンのくだりなどを見ると他社のゲームも勉強しているようであるし、全体的には好感が持てる(ただ、TRPGと見ると他人のつぶやきに片っ端から反応するのはやめたほうがいいと思う。ご自分のためにも)。


 そんなわけで、私がひっかかったやり取りはむしろこちらの方だった。


とあるプレイヤー‏@toaru_jinro_pl4月17日
ソードワールドとかも手を出してみたいけど、ルールを覚えきれるか心配なのとできる人がいないってオチ。
クトゥルフとかパラノイアなら概要くらいは知ってる人結構いるけど、ソードワールドってどうなんだろ。富士見さんのTRPGオンセサイトみたいなのあるみたいだし、それなり? #TRPG


友野詳‏@gmtomono4月17日
@toaru_jinro_pl ソードワールドは日本でいちばんメジャーなTRPGだと思います(^^;)。あ、関係者なもので、突然すみません。


とあるプレイヤー‏@toaru_jinro_pl4月17日
@gmtomono そうだったんですか!如何せん周りの知名度がよろしくなかったので、「もしかして私だけなのかな?」と思ってたんですが•••周りだけなんですね!よかったです!
わざわざご連絡いただきありがとうございます!


Soco2(粗忽P)‏@Soco2P4月17日
@toaru_jinro_pl 横レス失礼致します。SWはもうかれこれ10年くらい前の話ですが、人気ありすぎてうちのサークルでそれしか卓がたたず、撲滅キャンペーンが発生したほどの作品ですw 好きだからこそ大幅に内容が変わった2.0を受け付けないって人もいるほどで…


とあるプレイヤー‏@toaru_jinro_pl4月17日
@Soco2P リプライありがとうございます。SWのオンセやオフセに参加した事がなかったので、周りの知名度だけで身内卓を建てたりしていました。
根強い人気があるんですね!もう一度周りにあたってみます。ありがとうございます!


友野詳‏@gmtomono4月17日
クトゥルフはともかく、パラノイア知名度がソード・ワールドに比肩する(一部で)日が来るとは思わなかったが、この調子で、色々とどんどん広まっていただきたい。『パンティ爆発』とか『マッチョ・ウィメン・ウィズ・ガンズ』とか。(拙著『バカバカRPGを語る』をご参照ください)。


 個人的には「日本で一番メジャー“だった”TRPG」だろう、と突っ込みたかったがそれはさておき。この「とあるプレイヤー」さんの認識が、(友野氏が言うとおりTRPGゲーマーから見ると驚くべきことだが)動画からTRPGに入ってきた人間にとっては当たり前の認識だ、ということである。
 ソードワールドパラノイアが比較対象!? それだけでも我が目を疑う状況だ。そしてこの人自身が言っているように周囲の人も「概要を知っている」レベルで、詳細は知らないだろう。前にも書いたが、パラノイアは日本語版ルールブックが発売されていない。有志が翻訳したルールは存在するが。
 友野氏の最後のツイートを見る限りどうもよく状況がわかっていないのではないかという気がするが、恐らく動画からTRPGに入ってきた人たちは、パラノイアのことを「バカバカTRPG」だとは思っていない。動画のコメントでもそういったコメントを流しているのは昔のTRPGを知っている我々のような年寄りであり、その他に「パラノイアのノリで当たり前」というコメントが一定割合で必ず流れている。パラノイアが「普通のTRPG」の構造を逆手に取った一種のパロディになっているということは、普通のTRPGを知っているという前提で初めて成立する認識であって、普通のTRPGを知らなければパロディであるということも理解しようがない。クトゥルフをまったく知らない人間が途中から「這いよれニャル子さん」を見たら、ニャルラトホテプを惑星保護機構の宇宙人と勘違いすることだってあり得ないとはいえないように、だ。
 現に、私はとある場所で東方クトゥルフコンベンション(!?)なるものの募集を見かけたことがあるが、そこでは普通に「PCが残機制」だった。いくら東方がSTGだからって、普通のTRPGゲーマーならクトゥルフでPCが残機制などということは考えられないだろう。だが動画でパラノイアに親しんでいる人たちにとってそれは珍しいことでもなんでもないわけだ。


 しかし、ずっと前からTRPGを見てきた私は、正直なぜパラノイアなのかと天に問いたい気分だ。なぜならパラノイアこそは、私がTRPG業界で最も許せない人間に深く関わるゲームだからである。

許されざる男

 その人物の名前がこのブログに出てきたことは、実は今まで一度もない。なぜなら、彼はもう(恐らく)TRPG業界にいないからだ。とはいえ、私がこのブログであれやこれやとつついた人物は数多くいるが、彼に匹敵する負の業績を残した人物は他にいないのではないだろうか(近しい行為ならば何人もいるが)。

 彼は何をしたか? 一つのタイトルの日本語版を抹殺したのである。人気がなくて続編が出ないとかではない。確たる意図を持って消し去ったのだ。


【TORG発禁事件】

TORG発禁事件】

(俗語:TRPG
WestEnd社のTRPG"TORG"シリーズの邦訳版展開が中断した理由とされる、一連のトラブルの総称。
TORGが翻訳され始めた頃、原書のサプリメント『Tokyo Citybook』に、被差別部落を扱った設定が掲載された。このサプリメントは商業レベルで翻訳されることはなかったが、同書の執筆者として参加していたとある人物が、同書を個人で輸入販売したことから混乱が生じ、邦訳版出版元の新紀元社は商業展開を打ち切ることになった。
外国製の日本を扱ったゲーム及び関連出版物に、部落差別の歴史に関する記述が含まれていて問題になったケースは他にも何件か存在する。だが『Tokyo Citybook』が日本人の著者を招いたにも関わらずこの問題に大きく抵触したのは、TORG原書版の熱狂的な支持者として邦訳版を非難したことで知られている上記の人物が、確信犯として邦訳の妨げとなる記述を入れたからとされている。


 つまりこの人物は、TORGという一つのタイトルの日本語版の展開を永久に葬り去ったのだ。*1しかも、そのやり方は非常に狡猾で卑怯である。*2
 ちなみにこのTORGと同じように原書至上主義者の攻撃の的となったのがシャドウランである。なお、上で紹介した友野氏のTLで“今年の”4月20日にもそれに関するやり取りがある。これに関しては、私は100%SNEにご同情申し上げる。もうとっくに翻訳権すら持っていない(シャドウランの新版の翻訳権を持っているのは朱鷺田氏)にも関わらず、未だに槍玉に挙げられるのはさぞ辛いことだろう。*3


 それはさておき、パラノイアとその人物にどんな関連があるか? 実は、日本におけるパラノイア紹介の第一人者と多くの人間に認識されていたのが彼だったのだ。今でもパラノイアで検索すると、彼の紹介記事がかなり上位にヒットする。私としてはTRPGの日本語版タイトルを一つ完全に消滅させた人間が、他のゲームをしたり顔で紹介するとか笑止千万と言いたいが、ニフティのフォーラムで有名だった人物が彼の弟子を標榜しており、当時かなりの話題を呼んだ。*4
 こんないざこざがなかったら、もしかしたらパラノイアもいつか日本語版に翻訳されることがあったかもしれない。それは非常に残念なことだ。そして、私は流行した最初のパラノイア動画を作った作者の人に是非とも聞きたい。


「なぜ、貴方は数多あるTRPGタイトルの中から、あえて“パラノイア”を選んだのですか?」と。


 最後に、これは私の個人的な意見だが、パラノイアクトゥルフが動画として面白いのは、プレイヤーやGMが悪戦苦闘するからではないだろうか。前に緑一色さんのプレイレポマンガでも似たようなことを書いたが、今のTRPGは事故が起きないように設計されているものが多い。しかし動画の閲覧者たちは、旧世代のTRPGに起こりやすいその事故をこそ楽しんでいる。そしてそれは傍観者としての面白さであって、当事者としての面白さとは必ずしも一致しない。
 パラノイア動画を楽しめる人間がパラノイアのセッションを楽しめるとは限らない。プロのTRPGライターとして、友野氏には是非ともそこに言及してほしかった。これが、TRPGも動画も好きでありながらTRPG動画が今ひとつ好きになれない私の、正直な感想である。

*1:原書サプリメントの執筆者として寄稿したという立場なので「プロ」であると解釈し、このブログで取り上げる。H26.6.24日本語版再翻訳決定を機会に、この人物の実名を当ブログ内では伏せることとする。詳細はリンク先を参照のこと。

*2:これに嫌気がさしたのかどうか分からないが、この翻訳にあたった後のFEARの初期メンバーたちがこの後TRPGの翻訳をすることは二度となかった。

*3:D&Dでも似たような話があり、文庫版のルールを投げ捨てたとか電撃の社長に苦情を送りつけ激怒させたとかいう話が都市伝説のように今も残っている。真偽はともかく、彼らはそれくらいはやりかねないと思われるような論陣を張っていたのだ、とは言えるかもしれない。

*4:この「弟子」はプロではないのでこのブログでは名前を伏せる。なお、この弟子がもう一人師匠と呼ぶ人物が、当時シャドウランの原書至上主義者であり、ニフティフォーラムの主宰でもあった朱鷺田氏である。