もう一人のピコピコ少年の思い出(8)

 あの有名な「犯人はヤス」というフレーズに象徴されるように、エニックスの堀井さんの初期代表作である「堀井ミステリー三部作」のなかでは一番最初の「ポートピア連続殺人事件」の知名度が圧倒的に高いと思われる。
 でも、私の思い出のゲームはむしろ「軽井沢誘拐案内」の方だった。



 というのも、友達がとある噂を聞きつけてきたからである。「軽井沢誘拐案内の第6章に、アドベンチャーゲームでもアクションゲームでもない新しいゲームが入っているらしい」と。これこそがまさに、同じ堀井さんによる後のドラゴンクエストに繋がる「コマンド選択式RPG」のプロトタイプであり、堀井さんが初めて作ったRPGと呼ぶべきものだったのだけれども、その時点では私の周りには誰一人コンピュータRPGの存在を知る者はいなかった。
 もちろん、PC専用であれば既にブラックオニキスは世に出ていたし、ウルティマウィザードリィも存在していたが、小学生にはハードルが高く、情報そのものが入ってきていなかった。私自身「ドラクエよりD&Dで遊ぶ方が早かった」類の人間だが、この時点で「軽井沢誘拐案内の第6章は、D&Dに連なるRPGというゲームだ」という認識はなかった。
 ただ「見たこともないゲームらしい」という噂だけを頼りに友人の家でこのゲームをプレイし、そして軽井沢誘拐案内ドラクエよりも早く、私が生まれて初めてプレイしたRPGに──ならなかった。


 理由は簡単、小学生二人の頭では第6章までたどりつけなかったのだ(笑)。どこで詰まったのかももう覚えていないが、結局第6章がどんなものかもわからないままそのゲームは友人宅の倉庫に眠ってしまい、私が生まれて初めてプレイしたRPGは「ハイドライドスペシャル」に相成った次第である。