昨日の続き

 今日も大分辛口なので、一応折り畳んでおく。














ゲームマスタリーマガジン第3号

ゲームマスタリーマガジン第3号


 ちょうど数日前に、先輩と「どうしてソードワールド2.5は3.0ではないのか」という話をしていたら、本誌に答えが書かれていた。いやもう、冒頭の30周年記念インタビューからツッコミどころ満載で、読んでてゲラゲラ笑ってしまったのだが。

 まずはジャブから。「2.0で清松氏が黒子に回ってトロイカ体制が整った」って話が出てくるんだけど。いやあ、世間一般ではインタビューにしゃしゃり出てきて「2.0の判定システムを2D6に決めたのもレーティング表を残したのも俺だぜー!」ってドヤ顔アピールする立場の人を「黒子」とはあんまり呼ばないんじゃないか(笑)。
 次に、冒頭の「なぜ3.0じゃなくて2.5」なのか。これは11ページの北沢氏のコメントなどからすると「背景世界をそのまま継続するから」ということらしい。この話は、もうちょっと突っ込んで書く。実はこれ、結構根の深い話なのだ。

背景世界が変わったから2.0?

 同インタビューのなかで(本書9ページ)、2.0になった時背景世界を変えたのは、水野氏と山本氏が社外に出て世界設定をアップグレードしにくくなったからだ、と書かれていた(個人的には、清松氏が水野氏を呼び捨て、山本氏には敬称をつけているのが面白かった)。


 一見もっともらしい理由に見えるが、実はこれ、TRPG業界の慣習からするとおかしな話なのである。


 黎明期のごく一部のTRPGを除くと、一般的にTRPGのシステムというのはその背景世界と一体で考えられている。タイタン世界のないファイティングファンタジーはなく、グローランサのないルーンクエストはなく、ハイデルランドのないブレイドオブアルカナはない。ルールはその背景世界を表現するために存在する。
 10年前、ソードワールドが2.0に変わる時、背景世界を一新すると聞いて、私は随分思い切ったことをするものだなぁ、と思った。私自身はフォーセリアに思い入れもあったから残念だったし、この日記でも「フォーセリア対応サプリは出さないのか」と書いたりした。ただ、世間の時流を考えれば背景世界を一新することは恐らく正しい判断だった。井上純一氏がアルシャードで新世代スタンダードファンタジーを謳ったことと、恐らくは同一のベクトルに位置する話なのだろう。
 しかし、私の心中ではどうにも違和感が消えなかった。
 その10年来のもやもやの正体が、このインタビューを読んで視点が変わったことで、ようやく掴めた。
 「背景世界を変えたことが英断だった」のではない。「タイトルを変える英断をしなかった」のだ。
 先ほど書いたように、TRPGの背景世界はそのルールと一体のものだ。それを変えたのなら、新しいタイトルをつけるべきだったのだ。背景世界も異なり、ルールも違うのなら、それは本来別のゲームだ(クラススキル制が共通してるって? 同じベーシックロールプレイを使っていても、ルーンクエストクトゥルフを同じゲームだという人はいないだろう)。今回、海外製のゲームも含めて、手持ちのゲームで「版上げによって前の背景世界が遊べなくなるゲーム」を思い浮かべてみたが、一つしか思いつかなかった。
 その一つというのがD&Dだ。例えば、D&Dの5版では、かつてのミスタラやグレイホークはサポートされていない。しかし、そのD&Dでも(別ゲームとして独立したドラゴンランスを除いて)その背景世界が創られた版の少なくとも次の版までは、責任持ってサポートが続いているし、「WOCのD&D」としてみれば一貫して「フォーゴトンレルム」をサポートしていることに変わりはない。
 一回目の版上げで、出版社も変わっていないにも関わらず、背景世界を捨てたゲームは──あるいは、背景世界もルールも違うのに、同じタイトルをつけたゲームは──他には寡聞にして聞かない。

 では、ソードワールドはなぜ名前を捨てられなかったのか。理由は明白だ。「売るために前作のネームバリューが捨てられなかったから」だ。「(自称)日本で一番売れたTRPGの夢よ、もう一度」だったから、タイトルを変えられなかったのだ。
 そして、2.5にアップグレードしようという今も、やはりタイトルを変えられないでいる。
 ぶっちゃけ、2.0がこれだけ受け入れられた今なら、もうタイトルを変えてもいい、変えるべきだと思う。今の2.0はアレクラストともフォーセリアとも全然違う。当時のファンが継続して遊んでいる割合もそれほど多いとは思えない。

 ただ……非常に複雑な心境だが、1と2.0のどちらに「ソードワールド」という名前が相応しいか、と言われると、それは後者だ。ラクシア世界では、剣の存在が世界設定の中核にある。フォーセリアの場合、本来中核にあったはずのファーラムの剣は、プレイヤーの手に委ねられることは一度もないまま終わってしまった。フォーセリアは「剣の世界(ソードワールド)になり損ねた」のだ。1に相応しいタイトルは「フォーセリア伝説」とか「アレクラスト戦記」あたりだろう。

余談

 あと気になっていたのはソードワールドLARPの記事だが、6ページある記事の中で、個人的には一番重要と思っている「第三者への配慮」について「練習時には周囲の視線に気をつけましょう」とだけしか書かれていなかったので、評価は最低に近い。安全面に至っては「大きな武器を振り回したい気持ちも分かるので、兜を被りましょう」(意訳)である。本当にこれで大丈夫なのか。