今月のツッコミタイム(前編)

Role&Roll Vol.109

Role&Roll Vol.109

この記事は相変わらず


 さて、今回も「戦槌傭兵団の中世“非”幻想辞典」という記事についてだ。

 軍事的に弱体な宗教勢力が群雄割拠の乱世で命脈を保ち、影響力を保つ例はファンタジー世界にもありますが、ローマ教会のしなやかな強さは、よい参考例になりますね。


 残念ながら、少なくともTRPGにおいては、参考にならないケースがほとんどだ。


 この記事は相変わらず具体的なゲーム名を挙げて例示してないんだけど、はっきりいって「軍事的に弱体な宗教勢力が群雄割拠の乱世で命脈を保ち、影響力を保つ例」はTRPGの舞台になるファンタジー世界には少ない。D&Dはもちろん、ソードワールドアリアンロッドなどでもほとんど見当たらない。
 これにはれっきとした根拠がある。TRPGではクレリック≒プリースト≒神官が仕える「神」が“目に見える形で”実在し、信徒に“具体的な”加護を与えることが多い。このため「宗教勢力は世俗の権力とは別個」にしておかないと、人間世界の権力争いが多神教における神々の勢力争いになってしまう。あるいは逆に、まさに人間が神々の尖兵となって軍事力を保持し、神々の代理戦争を行うという世界観もある。前者の場合は宗教は国々の群雄割拠など我関せずを決め込むし、後者の場合は宗教勢力が宗教国家として軍事力を保持する。
 具体的には、D&Dのミスタラ世界やクリン大陸などは後者、フォーセリアだとアレクラストが前者でロードスが後者、ラクシア世界やアリアンロッドなどは前者にあたる。*1どのゲームでも、宗教勢力が俗世の権力争いに介入するケースでは宗教国家として具体的な軍事力を保持しており、保持していないケースでは権力争いにも関わってこない。神々が判りやすく加護を授けてくれる世界では、宗教はわざわざ俗世の権力など必要としないか、あるいは人々が宗教勢力に集まってきて国家を形成する方が、プレイヤーにとってわかりやすいからだ。


 ローマ教会とヨーロッパ諸国との関係は、当時の特異な事情によって成立した複雑なもので、まさにもう一度世界史でも学ぶつもりでかからないと理解しづらい。王が王を任命するという制度が登場するゲームすら、ほとんど存在しないのだ。*2TRPGの舞台となる世界は、プレイヤーにとってわかりやすいものではないとプレイアビリティの低下を招く。まして、宗教勢力と権力者の暗闘など、冒険者のレベルで関わることのできるゲームはほとんどないだろう。そこでわざわざややこしい図式を導入しても、ただのGMの自己満足になりかねない。ゲームクリエイターの多くはそれを知っているからこそ、世界設定からそういう要素を敢えて除いているのだ。
 もっとも、世界設定が現実のヨーロッパのパロディになっている、前回も紹介した“ブレイドオブアルカナ”*3では、もうずっと前にこの教皇と皇帝の暗闘をキャンペーンセッティングとして取り込んでいる。フォーゲルヴァイデのモデルがハプスブルグ家であること、シニストラリックがカトリックでウェルティスタントがプロテスタントであることは、プレイしたことのある人ならわかるだろう。このゲームではPCが冒険者ではない(例えばアルカナ「コロナ」を選べば支配者層そのものだ)ので、権力闘争も雲の上の出来事に終わらずに済む。


 逆に言えば、そういった世界設定やキャンペーン構造そのものが対応しているゲームでなければ、世界史の知識をそのまま単純にファンタジーRPGに生かすのは難しい。本来、テクニックやサポートが必要なのはこの記事では触れられていない、その「翻案」のやり方の部分なのである。


 後編はこちら

*1:ロール&ロールでサポートしているファンタジーRPGというと、あとは「深淵」だが、神々を魔族に読み替えれば後者だろう。

*2:ゲーム中に「選帝侯」という用語が登場するかどうかを見ればわかるはず。

*3:もちろん、ロール&ロールでは一切サポートされていないゲームである。