劇場版ダンジョンズアンドドラゴンズ/ラストバトルの話

 ここのところ、口を開けばドラゴンクエストウォークかダンジョンズ&ドラゴンズの話しかしてないような気がするが、今日もダンジョンズ&ドラゴンズの話である。この作品は伏線が周到に貼られているという話を前に書いたが、クライマックスシーンを例にとって説明していきたい。一応ネタバレになるので折り畳む。
















 まずはクライマックスの少し前、ちょうどエドガンがキーラを取り戻したあたりから。
 ここでソフィーナがハイサンゲームを利用し、町の人々をアンデッド化しようとするのが判明するシーンがあるが、これは物語の中盤で、ゼンクが回想としてザス・タムの反乱のエピソードを語るシーンが伏線になっている。このシーンではエドガンが「レッド・ウィザードが脅威であることはもう知っている」と言ってゼンクの語りを遮るが、ここでゼンクがザスタムの手口について具体的に話していたからこそ、クライマックスシーンでソフィーナの企みに気づいたのだと思われる。つまりゼンクの回想シーンは観客向けの情報であると同時に、後のシーンの伏線になっているというわけだ。
 次に、アンデット化の魔法の対象範囲であるハイサンゲームの会場から、どうやって市民を引き離すかというところ。フォージが不正に蓄財した財宝を会場の外にばらまくことで、市民の注意をそちらに惹きつけよう、という作戦になるが、ここもハイサンゲームの冒頭でフォージ自身が「市民の皆さんにギフトがある」と見栄を張ったのが布石になっている。



 それに加え、エドガン自身が口にしたとおり、ゼンクに対して「フォージが不正に蓄財した財宝は市民自身に返す」と誓ったシーンとも呼応している。さらにここで活躍するのが、作中何度活躍したかわからない「そこ・ここの杖」というわけだ。
 そしてこの「ソフィーナのアンデッド化の魔法から市民をを逃がすシーン」だが、これもフォージとの会話の中で「金持ちは一般市民を食い物にしてもいい」と発言した者たちは、ソフィーナからの距離が近すぎてアンデッド化の魔法を防ぐことができずに最初に犠牲になり、因果応報が貫かれている。

 この後戦闘に入る前、キーラに姿隠しのペンダントを使って身を隠すようにエドガンが言うわけだが、このペンダントの存在も物語の序盤で存在に触れられているために唐突感はない。そして、この「キーラが姿を消している」ということ自体がさらに後の展開に続いている。



 その後の戦闘も描写が非常に考えられている。まずこちらのキャラクターレコードシートを見ればわかるとおり、エドガン、ホルガ、サイモン、ドリックの4人は脅威度5、つまりレベル5の実力しかない。これに対し、前述の反乱シーンで既に登場しているソフィーナは、不老不死の存在であると匂わされている。長き時を経ているためか、そのレベルは15。つまりまともに戦えば、とても勝ち目のある相手ではない。


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 ソフィーナが開始早々に石像を魔物化して襲いかからせたのは、魔術師故に直接戦闘を避けるというのを表したのだろうが、後半4人がかりで襲い掛かっても、ソフィーナはこれを全ていなしている。この乱戦シーンは30秒ほどしかなく、目まぐるしく動く場面だが、細かい描写が結構多い。ソフィーナの近接戦闘能力が高いことの他にも、ドリックが得意の変身魔法を使っていないこと。これは恐らく仲間への誤爆を危惧したのではないかと思われる。逆に、初登場時あれだけ自信を喪失していたサイモンが、成長した結果、この乱戦シーンでも容赦なく遠距離魔法を使ってソフィーナを攻撃している。よく見ると、ファイアボールのうちの一発がドリックに誤爆してしまっている。また、この乱戦中にソフィーナがホルガに攻撃する効果音のみ金属音を発していて、これがその後の「ホルガがレッドウィザードの剣で刺される」ことを表している。
 さらに細かい話をすると、レベル5のサイモンとレベル15のソフィーナの実力差が、この場面ではっきり描かれている。実は、サイモンの呪文は最後まで1つもソフィーナに届いていない。直接的なライトニングボルトやファイヤーボールの呪文はもちろんのこと、搦め手である「石の手を作って相手に掴みかかる」というような魔法も、結局ソフィーナに全て防がれて有効打になっていない。サイモンの呪文で効果があったのは、ソフィーナの魔法を防ぐものだけだ。とはいえ、これだけでも実力差を考えたらすごい話で、ソフィーナメテオストライクを防いだのもこの一部だ。戦闘の最後で時間停止の呪文を止めるというのも、サイモンの時間停止がソフィーナに届いたわけではなく、あくまでもソフィーナの時間停止をサイモンが止めただけ。つまり圧倒的なレベル差というのは表現した上で、なお主人公たちが勝つという展開にしているのが凄い。
 では結局のところ、ソフィーナへの攻撃の決定打になったのは何かというと、それは「魔法封じの腕輪」を“ペンダントで姿を隠していた”キーラによって嵌められたことだ。その腕輪はどこから来たかといえば、ハイサンゲームに無理やり参加させられたエドガンたちに枷として嵌められたものを利用したものだ。それも恐らくソフィーナが入手してきたものだろうと思われるので、「主人公たち自身の力はソフィーナに及んでいないけれども、敵に与えられた制約を逆に利用して勝つ」という頭脳プレイの結果となっている。

 戦闘シーンだけでもこれだけ周到に展開が練られている。もちろんここだけではなく、全体を通して非常に丁寧にストーリーが作られているというのが良くわかる作品である。