さて、前回書いたシナリオのアイデアを自分で見返したものの、このままでは恐らく2時間半程度でセッションが終わってしまう。プレイヤーから見ると感情移入する材料が足りず、GMから見るとPCの当事者性が足りていない。それは、NPCの描写が素気なさすぎるからである。
というわけで、対決フェイズと殺戮者のデータに行く前に、NPCの設定について掘り下げてみよう。
登場人物・補足
領主/ミハイル(コロナ)
本シナリオの依頼主。公人としては慈悲深く領主としての務めをそつなくこなし、家庭人としては妻を愛し、娘を溺愛する人物。GMの描写としてはプレイヤーに怪しまれないように心がける。依頼主が裏切るシナリオではないので、プレイヤーに疑われるとセッションが無用に長引く。ただし本シナリオを続き物としてプレイする場合、怪しまれないようにしつつ、娘への溺愛を強調しておくと良い。
領主の妻はエキストラであり、本シナリオには深く関わってこないため、あえて設定しない。変に設定するとプレイヤーから重要人物ではないかと疑われてしまう。
領主の娘/ダーナ(ステラ)
領主の娘。今回の変更で最も重要な変更は、彼女をシナリオヒロインに昇格させることだ。性格は快活で、父親に似て慈悲深く、育ちによる傲慢さを感じさせない。同時に好奇心旺盛で、警備の目を結んでは城下に出たり、危険に首を突っ込んでは父親に叱られたりしている。自覚していないが聖痕者であり、父の下にいる騎士からは「傍にいると力が湧いてくる不思議な人」と思われている(奇跡「活性化」の演出である)。
次回以降明らかとなるが、アルカナはクレアータ・ステラ・アングルスである。彼女を魅力的な人物として描けるかどうかが、このシナリオの成否の大半を占める。また序盤に次のようなシーンを挿入する。
シーン1.5
PC1が領地を巡検中、不意に魔物(詳細が必要なら聖痕を持たないオーク族とする)に襲われる。何とか撃退するものの、重傷を負ってしまい、身を休めるそうな場所を探していると、別荘に遊びに来ていた幼い頃のダーナに出会う。「大丈夫ですか?」そう言って彼女がPC1の血塗れの手を握ると、なぜか力が湧いてきて、傷もふさがっていく(「再生」を「活性化」している演出である。PC1がマーテルでない場合、そこまで言及する必要はない)。彼女が父親にPC1の庇護を懇願するところでシーンを終了する。
錬金術師/タウンゼント(デクストラ)
今回のシナリオのキーパーソン。単発シナリオの場合、事件の黒幕であるが、既に死んでいる、というのが重要な情報である。死体を登場させるのは「このシナリオに2人の殺戮者は登場しない」ことを、プレイヤーにはっきり示すためである。
才能に溺れる傲慢な人物で、元々はPC3の同僚で、天慧院に所属するアクシスだったが「自分はもっと高く評価されるべき」という自己顕示欲から、天慧院を追われ、知識を実用として使うデクストラに転向する。優秀なクレアータを作成して権力者に売り込み、富と名声を得ようとするようになった。
彼の作成するクレアータは、作成に複数の子供を素体として必要とし、さらに完成には聖痕が必要というとんでもないものだが、生命を弄んでいるという実感は本人には全くない。実際のところ、作り方が作り方なので、生まれるクレアータは誕生した瞬間からほぼ確実に殺戮者となる(連続シナリオの場合1人だけ例外がいる)。
連続シナリオにする場合、彼は姿を消している。もし彼の存在を警戒して、プレイヤーの行動が消極的になるようなら、GMは「このシナリオには彼は登場しない」ことを示唆してよい。
魔術師/グラスゴー(アクシス)
PC3同様、タウンゼントの元同僚。彼を怪しんでおり、密かに天慧院追放後の動向を追っていた。情報収集能力に長け、かつまともな倫理観を持っている。しかし、タウンゼントの危険性については見誤っており、追放後に何かやらかすだろうとは思っていたものの、自分の身に危険が迫っていることまでは気づいていなかった。タウンゼントの研究所の場所は掴んでいるが、彼の生死は知らない。
また彼を聖痕者とし、その聖痕が敵(マクシミリアン)に奪われたと演出しても良い。対決フェイズで殺戮者が持つ奇跡のヒントになる。彼のアルカナはステラ・アクシス・レクスである。ただし目の前で殺害シーンを演出すると束縛が発生し、PCに不利になるため、あくまでもPCが動けるのは全て終わった後とする。すれ違う時にフードの外から覗く腕で3つの血塗られた聖痕が輝く、ぐらいの演出に留める。メタ的には殺害シーンは前のシーンであり、「天真」も「再生」も効果がない、とする。
殺戮者/マクシミリアン(イグニス)
今回のシナリオにおける殺戮者。タウンゼントに作られたクレアータである。アルカナはクレアータ・イグニス・エルス。使い魔はハゲタカである。
実はこれにはメタ的な意味がある。ハゲタカは屍肉を食らうものであり、対象を殺害する別の存在(マクシミリアン本人のこと)がいることを示している。もしプレイヤーを引っ掛けたいのであれば、あえて現在のアルカナをエルスにし、ハゲタカの存在を仰々しく演出しておけば、対決フェーズではこいつが襲ってくると見せかけて、実は本命は本体とすることもできる。この場合はマクシミリアンの武器は腕に隠し持った折りたたみ式のクロスボウとする。
あるいは逆に、現在のアルカナはイグニスのままで串刺しの遺体などを演出して、敵はイグニスであることを強調しておきながら、対決フェーズでハゲタカが突如襲ってくるという展開もあり得る。
マクシミリアン自身は、一見すると顔色が悪いものの美少年風の外見だが、近づくと濃密な死臭と血の匂いがする。「異形」は真っ赤な霧を纏った巨大なハゲタカの骸骨である。笑う、怒るなどの感情はあるが、倫理観は作り主であるタウンゼントと同様にぶっ飛んでおり、クレアータの材料として子供をさらうことにも、聖痕を刈ることにも微塵の罪悪感もない。
手法としては、身寄りがなくなった子供のふりをして村に入り込み、隙を見て村人を殺戮するという方法だ。タウンゼントがいない今、彼がいくら素体を連れてきてもクレアータは生まれず、彼のやっていることは完全に無駄であるが、そのこと自体は彼は気にしていない。PCがマクシミリアンに「タウンゼントはもういない、戻ってこない」旨を告げて説得しようとしても、マクシミリアンは首を傾げて「だから何? 養鶏場の主がいようがいまいが、これから殺される鶏に関係ある?」という反応を示すだけである。彼が動揺したり、反論したりという演出は望ましくない。それは人間的な感情の発露であり、殺戮者が説得可能な存在か、あるいは可哀想な殺戮者に見えてしまうからだ。殺戮者はフリーレンの魔族と同じで、見た目が人間のように見えるだけの、人間とは異質な存在である。
別のアイデア1
ここまでのアイデアよりさらに当事者性を増す手法として、領主の娘をPC1にしてしまうという方法もある。以降PC番号が一番ずつ後ろにズレる。推奨アルカナは「ステラ」または「アングルス」である。ただ、この設定を採用した場合、次に述べる続編シナリオの設定を採用すると、PC1の縛りが相当厳しくなるので、あくまでも単発シナリオの場合に限った方が良い。
別のアイデア2
本シナリオを連続シナリオとする場合、アルカナからお察しのとおり、本シナリオに登場するダーナはクレアータである。本物のダーナはシーン1.5に登場した後、病にかかり亡くなっている。娘を溺愛していたミハイルは、タウンゼントの評判を知りつつ、娘を蘇らせるために彼を招聘した。タウンゼントはダーナの遺体を素体とし、彼女自身の聖痕を使ってクレアータを作成した。それが本シナリオに登場するダーナである。
彼女が殺戮者にならなかったのは奇跡的な偶然の結果であり、以降同じ手法を採っても失敗している。しかもダーナ自身は記憶を失っている(過去のアルカナがクレアータに変更されたため)。正確には、ダーナの現在と未来の聖痕を得て誕生した、ダーナにそっくりの別人とでもいうべき存在である。
ミハイルは弱みを握られているため、タウンゼントに協力せざるを得ない状況になっている。タウンゼントはミハイルから得た資金を元に、別の場所で新たなクレアータを作ろうと暗躍する。それを知ったダーナがPCの協力を得て彼を阻止しようとし、対面したタウンゼントから自分の出生の秘密を知らされる、というシナリオとなる。殺戮者はタウンゼントである。