ブレイドオブアルカナのシナリオの話(4)

 今回はブレイド・オブ・アルカナの「殺戮者」の話をしよう。



 ブレイド・オブ・アルカナのシナリオには、殺戮者の存在は必須である。ブレイド・オブ・アルカナのシナリオは、殺戮者との対決ステージがクライマックスであり、殺戮者を打ち倒すことによって終局となる。
 ブレイド・オブ・アルカナの初版が発売された当初、「シナリオに必ず殺戮者を登場させなければならない」というのが縛りに感じられた私は、シナリオに登場する最後の敵を殺戮者ではなく「刻まれし者」にしたり、あるいは奇跡を持たない通常NPCにしようとしたことがあったが、ことごとく失敗した。
 ブレイド・オブ・アルカナというゲームは、殺戮者を登場させることによってセッションがまとまるようにできており、これを除いてシナリオを作るのは非常に困難である。メタ的にルール面の話をすると、殺戮者が登場しないと対決ステージが終わった後の「聖痕の解放」が起こらないため、PC達が減ったDP(尊厳値)を回復させることができない。逆にいえば、敵が殺戮者ではない可能性がある間、PC達は自分が殺戮者となる可能性を避けるため、代償が必要な特技を使わなくなり、ブレカナの基本の判定システムが成り立たない。
 では、シナリオの途中まであたかも普通のNPCのように振る舞っていた人物が、最後に殺戮者となって敵に回るというシナリオはどうだろうか。これも、セッションの途中で「悪徳」という、殺戮者が自らの悪行を見せつけるシーンがなくなるため、PC側にとって非常に不利な展開になる。また、これは巷でよく言われる「可哀想な悪役」、このゲームにおいては「可哀想な殺戮者問題」を惹起する。

 「可哀想な殺戮者問題」というのは、「そのシナリオにおいて打ち倒されなければならない敵が、実は同情すべき事情、やむを得ない事情があった」という背景事情が明かされるというパターンである。
 ブレイド・オブ・アルカナは、トーキョーN◎VAと違い、利害が対立したNPCを物理的な戦闘以外で排除するルールを有していない。これはソードワールドも同じだ。ルール上戦闘でしか排除できないのであれば、敵側にどのような事情があれ、最後は戦闘で倒すしかないのだから、シナリオ上のスパイス以上の意味を持ち得ない。そういったゲームでは、毎回毎回過度に敵側に感情移入させるようなシナリオは、あまり想定されていないと言えるだろう。
 むしろ、そのような人間であっても闇の鎖に囚われれば、同情に値しない──というより、人として理解できないような悪行を働き、それが悪徳となって表に現れるのだから、分かり合うことはできない、つまり倒すしかないのだ、というのをはっきりとプレイヤーにアピールした方が、倒した時のプレイヤー側のカタルシスも大きい。


 では、なぜそこまでして殺戮者を登場させる必要があるのか。ルール的な理由以外に、どんな理由があるのか。簡単にいうと「殺戮者を登場させるとシナリオのまとまりが良くなる」のだ。例として、今まで私のブログで(主にネガティブな理由で)過去に取り上げたシナリオを挙げてみよう。一応、過去のシナリオだがネタバレもあるので折り畳む。

 以下で挙げるのは少々極端な例だが、殺戮者という存在を登場させることによって、シナリオにメリハリが生まれ、オチをつけることができるようになる。「シナリオに必ず殺戮者を登場させなければならない」というのは、かつてトーキョーN◎VAに「N◎VA軍」が登場した時と同じように、裏を返せば「殺戮者さえ登場させれば、あとは自由にやっていい」ということなのだ。殺戮者の存在にさえ心を砕けばシステム上盛り上がるようにできているわけだから、その後はどのように展開させるのも自由にできる。その意味では自由度はむしろ高い。自由に考えたシナリオに、ただ最後に殺戮者を登場させれば良いのだ。














ザルドルの闇に沈む


 このシナリオでは「行方不明になったNPCを探して欲しい」という依頼に基づいて探索を行うものの「シナリオ上にヒントも何もないのに、ギルドの幹部を探さなければならない」という唐突な展開が待っている。しかし、もしブレイド・オブ・アルカナのシナリオで、この幹部を麻薬をばら撒く殺戮者であることにすれば、仮に手がかりが少なくとも、「悪徳」は隠すことができない。展開ステージでPC達にヒントを与えることができるので、結果的に、そのヒントを追っていけば、ギルドの幹部までたどり着くようにシナリオを組み立てられる。


デリーレの谷で惑う


 前編に意味ありげに出てきた帝国の特別調査官が、PC達を導いているように見えて、実は「迷宮にPC達を誘い込み、その聖痕を奪い取って我が物にしようとする殺戮者だった」とするのが意外性もあって一番面白い。少年との心の交流をシナリオ前半で描いておきながら「それは殺戮者の真の姿を隠すための偽りの姿だった」となれば、1人残される少年をバックに、切ないエンディングも演出できるだろう。
 PC達を裏切ってエンディングというのが適切でない、と考えるなら、少年の両親を殺した暗殺者を魔神に心を売った殺戮者にすればいい。これを打ち倒すのがシナリオが目的で、それまでの間殺戮者に支配されている洞窟の住人たちにも白い目で見られるが、殺戮者を倒すことでその支配もなくなり、最後はPC達を温かく送り出す、ということでPC達の達成感もある。


魔域脱出


 これはもう簡単で、少年に憑りついている悪霊が殺戮者、恐らくは歪んだ知識を司るスーペルス・マキーナの眷属であり、少年に憑りついて悪行を働くという設定になるだろう。「学内の地位の高い人間がパズルに挑戦すると、難易度が高くなる」などというまどろっこしい展開はなしで、普通に学内で高い地位の人間が次々と殺され、その生き血でパズルが描かれる、と。これも悪徳シーンである。最後は自らの正体を表し、その歪んだ知識を自慢しながらPCたちに打ち倒されるとなれば、展開もわかりやすい。


オールグララン総進撃


 こちらも殺戮者を出すと、かなりシナリオの収まりは良くなる。麻薬をばらまくのは魔神に帰依した盗賊ギルドのはぐれ者の仕業ということにする。殺戮者を打ち倒しレシピをその手にしていながら、横流しして麻薬を広げるのに一役買ったPCは、殺戮者との戦闘で尊厳値がマイナスになったのだろう。麻薬のレシピを奪うと同時に、倒した殺戮者の聖痕をも取り込み、殺戮者と化したのだ。
 続くシナリオでは「欲に血走った目でPC達の前に立ちはだかる童人(バンビーノ。小人族のフルキフェル、つまりデミヒューマン)」という殺戮者が現れるわけだ。これも盛り上がる筋書きだ。