ジアティス帝国とアルファティア帝国(D&D)

 では、TRPGはどうだろう。

 TRPGの元祖、クラシックダンジョンズアンドドラゴンズ。その青箱、つまり日本語で遊べるTRPGの中でも、ローズトゥロードの「ユルセルーム」と並んで最も古くから存在した背景世界「ミスタラ」の場合…。



 帝国はある。悪役で(も)ある。そして、地図の北側には…ない。



 実は、のっけから変化球なのだが、ミスタラ世界には二つの帝国が存在し、普通に考えると片方がPCの味方、そしてもう片方が敵になるのだ。

 PCたちが旅立つ土地「スレショウルド」(始まりの地、とかいう意味らしい)周辺の地域一体を支配する「カラメイコス公国」。これは邪悪な国家ではなく、ガゼッタ(ガゼティア)で紹介された限りでは、公爵も公正な人物だ。

 つまり、カラメイコス公国はPCたちの後ろ盾になるべき国家であり、ソードワールドなどに出てくる国家と同じ、冒険の舞台となる「普通の国」である。

 そして、この公国のいわば「本国」にあたるのが「ジアティス帝国」である。

 田舎と都会程度の違いはあるが、公国とジアティスはもちろん友好関係にある。つまり悪の帝国ではない。

 対照的なのがジアティス帝国の敵対国家、アルファティア帝国である。こちらがいわば悪の帝国にあたる。しかしこのアルファティア、かなりのトンデモ国家だ。

 36レベルのマジックユーザー1000人の評議会があるというだけで、D&Dを知っている人なら耳から血が出るだろう。36レベルは人間の到達できる最高レベルだが、ソードワールドのレベル10とは意味が違う。D&Dの36レベルは神の一歩手前、神の見習いなのだ。

 それが1000人。

 ちなみにD&Dガゼッタ2「イラルアム首長国連邦」には、アルファティアの魔術師についてさらっととんでもないことが書いてある。



「イラルアム首長国連邦には、アルファティアの魔術師が一人潜んでいる。彼は今までに発売されたモジュール(シナリオ集)に登場する全ての悪役を背後で動かしていた人物である」



 D&Dのモジュールは、日本語に翻訳されただけでも26冊もある。しかもレベル25〜クラスのシナリオ集もあるのだ。その全ての黒幕など、簡単には想像できない。

 しかも、それすら1000人のうちの1人に過ぎないのだ!

 アルファティアが小指をちょっと動かせば、ジアティスなど虎の子の飛翔騎士団もろとも地上から消し飛ぶと思うのだが、何故そうしないのかは謎である。

 

 そのミスタラ世界も、公式に時系列が進んでさまざまな異変が起きたとされているが、公式に翻訳されて日本語で読めるようになったことはない(はず)。TSRの倒産と共にミスタラ世界のフォローはほとんどなくなり、ジアティスとアルファティアを扱ったトンデモガゼッタ「帝国の曙」は翻訳されることはなかった。

 よって、ミスタラ世界の魅力的な「悪の帝国」は、日本では結局その真の全貌を見せることがないまま展開が終了してしまったと言っていいだろう。