75%の内訳

ファイナルファンタジーXIV


 友人が、FF14の通常版予約キャンセルが75%に上ったというネット記事を取り上げていた。私自身、その記事を読んで少々思うところがあったので言及してみたい。


 私は別にスクウェアエニックスの肩を持ちたいわけではない。しかし、この記事にはある重要な視点が欠けていると思う。それは何か。
「通常版の予約をキャンセルした人たちの多くは、FF14をプレイしていないのではないか」ということだ。実際、この記事を取り上げた友人自身がそうであり、私の周りにいるFF11プレイヤーのほとんどがそうだ。


 もちろん私の周囲の人間の行動がすべて一般化できるとは思わないが、理由を推測するのは簡単だ。
 FF14をプレイするために、事前にPCを買ったあるいは買い換えた人は、ソフトを買わないとPC代金がまったく無駄な投資になってしまう。だからとりあえずソフトも買い、ゲームを実際にプレイしている人が多い。
 逆に、PCを買わずにFF14のベータテストの評判や結果を見てからPCを買うかどうか決めようとしていた人たちは、PCを買わずにソフトもキャンセルするパターンが多い。


 何が言いたいかというとこういうことだ。
 今回のキャンセル率の高さについて、製作側がプレイヤーと信頼関係を結ぶのに失敗したからだ、と記事は結んでいるが、私はそれはあくまでも二義的な理由だと私は考える。
 あくまでも、第一義的な理由は「要求している環境が厳しすぎ、プレイするまでのハードルが高かった」からだ。


 もし、FF14がPS3で発売されていれば、発売前に多少の悪評があっても「とりあえず買ってみる」という人は少なくなかったはずだ。ソフト代は8000円かそこら、これくらいの価格なら「試しにプレイしてみてつまらなかったら課金をやめよう」という選択が可能だ。
 しかしこれが「20万円前後するマシンを組まないとプレイできない」となれば「様子見しよう」というプレイヤーが大勢出るのは当たり前だ。


「オープンベータテストで面白くなかったから買い控えた層があるのでは?」という意見もあるだろう。が、実際オープンベータがまともにプレイできているという時点で「マシンを買っている」ことになるわけで、20万円からの出費をたかだか数週間のベータテストだけで元が取れたと思う人は滅多にいないだろう。
 

 前のエントリで書いたとおり、ゲームは実際にプレイしてみて面白ければ、事前の悪評を吹き飛ばすことがある。オンラインゲームの場合はさらに、なんだかんだいってゲーム内で人間関係が築ければ、多少の不満があってもゲームをプレイし続けてくれる。実際14用にマシンを新調した友人は、いまだ誰一人として14を辞めてはいない。
 FF11がいい例だ。掲示板で運営チームがボコボコに叩かれ文句を言われていても、プレイすることが習慣となっている層はゲームをやめない。そう、事前にどんな悪評があったとしても、対応に不手際や間違いがあったとしても「とりあえず、ログインさせる」ことさえできれば、かなりの数のプレイヤーがそこに残るはずなのだ。
 予約をキャンセルした人たち、14に期待していたが今もプレイしていない人たちの多くは、まだPCを用意していない人たち、20万円の出費に躊躇していた人たちだ。
「実際にゲームもやってないのに面白いとかつまらないとか語るな」というのは見当違いの批判だろう。「ゲームを買う」時点でプレイヤーは対価を支払うことになる。つまらないからといって返金はできない。まして14のために組んだPCの代金をショップに突き返すことは不可能だ。製品を買う前に情報を集め、評判に耳をそばだてるのは至極当然のことだ。

 事前のトラブルやアクシデント、メーカーの不誠実な対応は製品の商品価値を下げる。ただ、商品価値は1と0、白と黒の二つではない。
「8190円なら今のFF14に払ってもいい。しかし20万円+8190円を支払うつもりは毛頭ない」という人間は、決して少なくないはずだ。
 FF14のプロデューサーは、5年後のPCの性能を見越してスペックを決定したという。確かにグラフィックの見栄えは美しい。しかし、そのためにプレイヤーはFF11用のPCの他にPCを買うことになる。
 これまた私の周囲のケースを一般化できるとは思わないが、例えば、FF14のサービススタートに際して「FF14のためにマシンを買い換える」と表明した世帯持ちは一人もいなかった。世帯持ちのプレイヤーのうち、配偶者をやっとのことで説得してFF11をプレイしていた者は、当然だがマシンに20万円も出費することはできないと嘆いていた。そうではなく、理解ある夫婦同士で一緒にFF11をプレイしていた人たちの嘆きはもっと深い。なぜなら、FF14を一緒にプレイしようとすれば50万円近い出費を強いられることになるからだ。FF11ならPS2の本体2つとソフト2本だけでよかった。その出費は10倍に達する。
 また、機械に詳しくないライトプレイヤーの女性陣もFF14を敬遠する人が多い。お金はあってもマシンが組めないというのだ。もちろん自作せずともショップ製PCを買えばいいのだが、そういった人たちは
「どこのショップでどんなマシンを買えばいいのかわからない」「近所の家電量販店に売っているパソコンではFF14は動かないらしい」=「PS3まで待とうかな」という結論に至る。


 繰り返すが、オンラインゲームで「実際にプレイすることはできないが評判だけ入ってくる」というのはとんでもないアウェイだ。往々にしてゲームの面白いところ、楽しいところは喧伝されず、ダメなところ、悪いところだけがスキャンダラスに広まる。スタートのハードルが高いというのは、おそらく製作陣が考えているよりも遥かに、とてつもなく不利なハンディなのだ。


 もう一つ、製作陣が甘く見ていたのではないかと思われる点がある。
 それは「中国」への拒否反応だ。


 このブログでは、基本的にポリティカルな話題と宗教の話題は扱わない。そのため今世間を賑わせている事件などに触れるつもりはない。
 しかし、そういったネット世論的な政治信条を抜きにしても、FF11のプレイヤーの大半は「中国」に対して拒否反応を示す。それは、FF11においてサービスエリア外であるはずの中国人の業者が暗躍し、普通に遊んでいるプレイヤーの活動を著しく阻害していたからだ。特定のモンスターの占有、競売での特定の品物の価格操作etcetc.
 彼らの行動を認識しつつ、かなり後になるまで対処をしなかったのは他でもない、今のFF14を運営しているスタッフだ。
 中国でのサービススタート、あるいはゲーム内用語が中国語を思わせる単語であることを理由に、プレイヤーから一斉にそっぽを向かれたとすれば、それは世情や時勢の悪さなどによる不運のためだけではない。過去の自分の業が自分に返ってきた、すなわち自業自得だ。
 

 記事は、今からでは信頼関係の醸成は不可能、手遅れだという。
 しかし、スタートから8年もサービスを継続しているFF11で、運営とプレイヤーの間に信頼関係は醸成されていたか?
 私は運営スタッフを信頼していた。しかし、ヴァナディールでは私のスタンスは多数派ではなかった。野良パーティで初対面の私に向かって運営スタッフへの罵詈雑言を吐くプレイヤーは何人もいたし、掲示板はいつも罵声の嵐だった。
 それでも8年も続いたのだ。
 運営会社が絶賛されているネットゲームなんて聞いたことがない。グラヴィティも、ゴンゾロッソも。


 大体、通常版をキャンセルした人は、ベータ版のテスターでない限りそもそもゲーム自体を遊んでいない訳で、ゲームサービスの提供内容について実体験に基づく信頼感も不信感も抱きようがない。
 全てはゲーム外からの「評判」だけだ。不満を抱かずゲーム内容に満足していれば、わざわざ外に向けてそれを発信しない人間がほとんどだ。なぜなら、その必要がないからだ。
 実体験が評判を上回れば、評価を覆しえたかもしれない。それができなかったのは、プレイするための必要環境が厳しかったから、最大の理由はこれしか考えられないのだ。


 要は最初の一歩だけだ。それをどう踏み出すか。踏み出したか。
 その意味では確かに手遅れかもしれない。信頼関係の醸成を抜きにして、FF14がビジネスになるかどうかという点について、全てが手遅れであるかもしれない。


 もしチャンスがあるとすればあと一度、PS3版の発売時が最後のチャンスになるだろう。