真のヒロインは誰だ

OVA ToHeart2 adnext DVD初回版 Vol.2


 ようやくToHeart2ADNEXTを見つけた。

 で、中身もさることながら、ついつい本編より先にオーディオコメンタリーを聞いてしまった。今回のオーディオコメンタリーは主役の二人、草壁優季役の佐藤さんと河野はるみ役の山川さん。組み合わせとしては珍しい、というか初めてではないかと思う。今流行のキャラオーディオコメンタリではなくて、中の人バージョンだ。
 優季役の佐藤さんはしきりに「今まで優季は隠しキャラ扱いで出番が少なかったがようやく主役になれた」とコメントしているのだが……嬉しいのはよくわかるけど、正直、OVA3巻、AD2巻、ADPLUS2巻、ADNEXT2巻、通巻9巻全体で見ると、むしろ優季は出番多かった方のような気がする。


 ToHeart2のPS2版が発売されたのが2004年の12月。それから6年……XratedやAnotherDaysの発売、ファンディスクやアニメ化などマルチ展開をしていく中で、TH2のヒロインは、ゲーム中に個別のルートが存在するキャラクターだけで18人もいる(準ヒロイン格のイルファを含めると19人)。
 ヒロインそれぞれが主人公になるちょっと変わった脚本形式──そして黒歴史と称される作画レベルの低さで知られてしまった旧TVアニメ版では、一応旧ゲーム版に登場した9人のヒロインが公平にメインを張った。

 ところが、その後のOVA版では作画レベルは比較にならないほど向上した代わりに、如実にキャラの取り扱いに差が出ることになった。

 それぞれのメインキャラを列記するとこうなる。


OVA1巻・イルファ、環、(雄二)
OVA2巻・愛佳、郁乃
OVA3巻・ささら、まーりゃん


AD1巻・環、このみ
AD2巻・由真、優季


ADPLUS1巻・はるみ、シルファイルファ
ADPLUS2巻・花梨、ささら、まーりゃん


ADNEXT1巻・愛佳
ADNEXT2巻・はるみ、優季


 もちろん、明記したキャラクター以外その回に登場しないというわけではない。例えばこのみと環はほぼ全ての回に登場しているし、OVA3巻とADPLUS2巻などはオールスター的なエピソードなので、ちょい役での登場も含めればもっと多くのキャラが登場している。異論もあるかもしれないが、ストーリー上の役割の大きさで判断したつもりだ。
 キャラ別に全体的に見てみるとこんな感じになる。

 
柚原このみ
 本来ゲーム版のメインヒロインであることを考えれば、優遇か不遇かでいえば不遇キャラに入ると思われる。なんだかんだで出番は多いものの、メインの回がないのが辛い。そして、登場シーンは環のそれとほぼワンセットである。


向坂環 
 このみと並ぶメインヒロインで、出番そのものは多い。それに加え、このみと違い一応AD1巻ではメインを張っているし、不遇とは言えないかもしれない。他のヒロインを軒並み一人で撃退する活躍シーンもあるし。ただ、人気キャラの割に回を追うごとに出番が減っていっているのが気になるが……。 


小牧愛佳
 なんと、メインを張る回が9回中2回もある恵まれたヒロイン。由真の回でも登場するし、環の回でも美味しいところをもっていく。とはいえキャラ人気の高さを考えればこの扱いも頷ける(ファンディスクのタイトルにまでなってるし)、まさに愛されヒロインである。


笹森花梨
 ToHeart伝統の「黄色は不人気」キャラと思いきや、なんとなんと、一回はほぼメインを張っている(その代わり他での出番が極端に少ないが)。AD2巻のおまけエピソードではほぼメイン。ADPLUS2巻のオーディオコメンタリーでは中の人が出番が少ないことを嘆いていたが……キャラ人気を考えれば、決して極端に出番が少ないわけではないキャラだ。


ルーシー・マリア・ミソラ
 るーこは不遇だろう。旧キャラなのにメインの回はなし、サブヒロインの回もない。全部を通じて出番も非常に少ない。登場していても台詞がなかったり「るー」しか台詞がなかったり……1分にも満たない、AD2巻のおみくじアルバイトのシーンがほぼ唯一の見せ場って……中の人の夏樹さんも「本編のいい雰囲気はどこに行っちゃったの?」といっていたが、まさにその通り。夏樹さんがベテランで忙しいせいかと思ったけどコメンタリーにはちゃんと出てたし。せめて花梨の回でもうちょっと絡ませてあげようよ……。


姫百合珊瑚・瑠璃
 この二人はるーこに輪をかけて不遇だ。メイン・サブを張る回はなく、脇役での登場も多くはなく、数少ない出番はほぼ二人ワンセット。何より酷いのは、メイドロボ三姉妹がメインの回での出番がほとんどないことだ。珊瑚は三姉妹の産みの親なのだが……。


十波由真
 本編での印象の強さに比べると、出番は決して多くない。しかし、1話完全にメインを張る回がある(しかもかなりいい雰囲気で終わる)。あと、学校が舞台の話だと何げにちょこちょこと出番があるので、どちらかといえば不遇とは言えない気がする。


久寿川ささら
 XRATEDで遅れて登場したためTVシリーズでは出番がなかったが、OVAシリーズではメインを張る回がある。あと(ゲームをプレイした人はわかると思うが)ささらのストーリーに入るとこのみ、環、雄二にとある設定が追加されるのだが、OVA版はその設定を前提に話が進んでいるので、ただの学校のエピソードでもささらとまーりゃんは登場しやすい立場にある。今Toheart2のラジオパーソナリティをこの二人が務めていることもあって、出番はかなり多いほうに入ると思う。


まーりゃん先輩
 ここからはADキャラ。ADキャラは出番が多いキャラと少ないキャラではっきり明暗が分かれるが、彼女は多い方。メインを張るOVA3話だけでなく、要所要所で登場して美味しいところを持っていくキャラである。


よっちとちゃる
 二人をセットで扱ってる時点でお察しという感じだが……まーりゃん先輩同様、旧ゲーム版からサブキャラクターとして登場しているにも関わらず、ほとんど出番がない(9巻通して1回だけか?)という不遇キャラ。痛いのが「通っている学校が違うので学校のシーンに出れない」という点。逆に彼女たちにスポットライトを当ててしまうと、他のキャラを出しにくいというのもあるのだろう。


菜々子
 よっちとちゃる同様、学校のシーンに出れないためほとんど登場できない不遇なキャラ。19人の中でも、登場シーンの少なさでは3本の指に入るキャラのはずだ。ラジオで中の人もそれを嘆くコメントを残していた(生徒会長ラジオの100回記念放送お祝いコメント)。


小牧郁乃
 なんと、まーりゃん先輩やメイドロボ三姉妹を飛び越え、ADキャラで最初にメインをもらったキャラである(もちろん旧ゲーム版からサブキャラクターとして登場してはいたが……)。姉が愛されキャラなので得をしたとでもいうべきか、彼女の視点を通すと「愛佳を第三者視点で語れる」というのが便利なのだろう。学校シーンでは学年が違う上に、表向き主人公への好意をあからさまにしていないのであまり登場はしない。
 ……ところで、ToHeart2ファンディスクのRPG、ファイナルドラゴンクロニクルでは、このみと環に続き、姉を差し置いて3人目に仲間になるのがなぜか郁乃なのだが……スタッフに気に入られているのだろうか?


柚原春夏
 出番は決して多いとは言えないだろう(ゲーム版でも、個別ストーリーはあるが攻略不可能なキャラだ)。なぜか、このみの出るシーンに登場するというより、主人公の自宅のシーンに多く登場する。イルファ系最上位キャラみたいな位置付けだ。中の人の本多さんが、ラジオで茶目っ気たっぷりに、しかし「もっと登場させろ」(意訳)と言っているのを聞いて、本多さんってこんな性格だったのかとちょっと驚いた。


シルファ
 メイドロボ三姉妹の一人としてADまで影も形もないキャラだったが、早々にメインを張っている。ミルファイルファラジオパーソナリティもやり、オーディオコメンタリーもあり、イベントで一方のメインも張った(もう一方はささらとまーりゃんの生徒会長コンビ)。最新作にも登場している。というわけで、どちらかといえば優遇どころかTH2の新しい展開では主役級ではないかとさえ思う。
 ただひとつ難点があるのは、彼女は学生ではないので学校のシーンに登場しづらいことだろう。


イルファ
 なんと、OVA1巻の主役である。妹たちの登場よりもずっと前に既にメインヒロインを務めている。そして妹たち登場の会ではだいたい美味しいところを持っていっている。旧ゲーム版では珊瑚と瑠璃とワンセットの扱いだったが、いまや彼女は創造主をも超えた存在感を放っている。最新作では妹二人が登場しているのに出番がなかったが、これは恐らく中の人の事情だろう(萩原さんご出産おめでとうございます)。
 ただし、彼女も学校がメインとなるエピソードには登場しづらいという難点がある。


(以下、ゲーム版のネタバレを含みます)












河野はるみミルファ
 ……というわけで、今回のヒロイン、河野はるみことミルファである。コメンタリーで山川さん自身も言っていたが、メイドロボキャラでありながら後の二人と違って学生でもあり、両方のシーンに出れる。加えて、由真、花梨、まーりゃんと同じ系統の引っ掻き回しキャラであり、主人公への好感度とテンションがマックス状態で登場するため扱いやすい上に存在感があって目立つという、美味しいところ取りのチートキャラである。
 本来ギャルゲだと「好感度は高いがそれを表に出していない(テンションが低い)」か「テンションは高いが好感度が低い」状態からどちらかを上げていくストーリーになるわけだが、彼女に関しては最初っからエンディング寸前みたいな状態で始まる。で、ゲーム版は「メモリーが消えて、好感度とテンションがゼロに戻る」ことから物語が進展するわけだが、それは彼女のストーリーのモロネタバレになるためOVAでは考慮されない。様々な複合的な要因があってミルファは「圧倒的に優位」な状態で物語に参戦してくるのである。


草壁優季
 さて、もう一人のヒロイン優季はどうかというと、いきなり思いっきりメインストーリーのネタバレから入る(名前をあげる云々のやり取りがある)。
 優季はたぶんメインとしてより狂言回しとして使いやすいキャラで、AD2巻は由真のエピソードなのに、親友の愛佳を差し置いてサブヒロインになっている。それもこれも「意味ありげな態度で意味深な台詞を呟いて煙に巻く」のがこれほど似合うキャラが他にいないからだろう。その意味では演じている佐藤さんには申し訳ないが、メインを張るよりサブヒロインの位置のほうが動かしやすいキャラだと思われる。
 そして実は今回のエピソードでも、最後の最後に見ている人間を「えっ?」と煙に巻いて終わるラストになっている。これはいかにも彼女らしい、ミステリアスな演出だ。


 一つの作品のメディアミックス展開が6年間も続くのは、決してよくあるケースではない。息の長い作品だといえるだろう。ゲーム版発売当初の爆発的な人気や勢いこそ今はないが、懐かしい作品が今もなおサポートを続けていることは、昔懐かしい店が故郷に帰ったら今もなお営業を続けているような、懐かしさと安心感を与えてくれる。確かにマンネリ化しているのかもしれないが、マンネリ化すらさせてくれない作品に手痛いパンチを食らった今の私にとっては、むしろこの変わり映えのなさが心地よい。


 そして、願わくばまた次のシリーズで彼女たちに再会できますように。