魔法使いは頑丈なのか?

ダンジョンズ&ドラゴンズ第4版スターター・セット

ダンジョンズ&ドラゴンズ第4版スターター・セット


 先日のエントリでちょっと書いたアリアンロッドの新クラス「ファランクス」について友人と話していて感じたことが一つある。
 どうやら、TRPGの原体験というのはプレイヤーに大きな影響を与えるらしい。

 友人は私に言った。「後衛ももっと殴られるようなバランスでいいと思うんですよ」と*1。しかし、それは私には考えられない台詞だった。私は「戦闘時に後衛が殴られることがあったら、前衛として、パーティとしては負け」という感覚だったからだ。
 確かにその友人がいうように、WIZのように前衛と後衛の役割分担がされているパーティ制のRPGにおいても、後衛が敵に殴られることは決して珍しいことではない。世界樹のようにターゲットコントロールのスキルが存在するシステムであってもだ。これがFF11だと、盾役を務めるPCの役割は「敵の攻撃を一身に集め、他のPCが攻撃対象にならないようにすること」であり、それができなかった時点で役割を果たせないということになるので、当然抵抗感がある。
 しかし、私の「後衛が殴られたら負け」という印象は、FF11をプレイし始めてから形作られたものではない。ずっとずっと前から、私は「後衛が殴られるのは巻け」だと思っていた。とはいえ、その友人と私とはかなり前から同じTRPGのプレイグループにおり、TRPGのセッション経験にもそれほど大きな違いはないはずなのだ。

 つらつら考えていくうちに思い当たった。その友人と私とのRPG経験における最大の違いは「TRPGを始めた時期」だということに。簡単に言ってしまえば私は赤箱組、彼はソードワールド組だったのだ。

ソードワールドの場合

 ソードワールドRPGは(当時のゲームとしては)後衛の死ににくいゲームである。今主流のゲームのように偶発的なPCの死を回避するような能力はほとんど存在しないものの、敵の攻撃を受けて即死するという事態は起こりにくい。
 一番防御力の高いファイターと、一番防御力の低いソーサラーを比較すると、その違いは「ダメージ決定のレーティング表の上下」によって表される。能力値はランダムであるため、理屈では「ファイターよりも頑丈なソーサラー」だってあり得なくはない(防御力では劣るが)。また、最終ダメージからは冒険者レベル(ファイターレベルではない)を減算できるため、この点についてはファイターであってもソーサラーであっても(レベルの上がりやすさの差があるとはいえ)前衛と後衛の違いはない。そもそもソードワールドRPGはマルチクラスシステムであり、前衛と後衛の差が少ないゲームであるとも言える。確かにソードワールドRPGの感覚であれば、後衛が数発殴られても即死するとは限らないし、何回か殴られていいんじゃない? という印象を持つかもしれない。

クラシックD&Dの場合

 さて、私のTRPGの原風景であるクラシックD&Dはどうだろうか。ご存知の方はもうオチが読めたかもしれないが、レベル1の戦士のHPが1D8、マジックユーザー(ここでは後衛をマジックユーザーに限定する。理由は後述する)のHPが1D4である。そして、敵のダメージは武器にもよるが、レベル1の敵であっても1D6〜1D8であることが多い。
 ここで重要なのが、CD&Dには「ダメージを軽減する手段がない」ということだ。「え、じゃあ鎧を着ても意味がないの?」と思うかもしれないが、CD&Dではアーマークラス、つまり防御力の高さは「敵の攻撃の命中率を減少」させるという効果を持つ。つまり、当たってしまえばダメージを軽減する術はないのだ。
 レベル1マジックユーザーの25%、1D4で1を振った悲しいPCは、敵の攻撃がかすった瞬間死亡が確定する。生死判定もなし、まさに即死である。また、さらに上の25%にあたるHP2のPCも、1D6ダメージを食らったら84%の確率で死ぬ。1D4ダメージでも75%の確率である。
 では、ダメージ判定の手前、命中判定はどうか? CD&Dでは、これをTHAC0(通称タコ)と呼ぶことがある。ToHitArmorClass0(ゼロ)の略、つまりアーマークラス0の人間に命中判定の1D20でいくつ以上を出せば攻撃が命中するか、を表す数字だ。これはレベルによって下がっていく(つまり低い目でも当たるということで、命中率そのものは上がっている)。
 実は、CD&Dはレベルが上がると攻撃の命中率は上がるが防御力はそれほど上がらない。つまり敵の攻撃はどんどん命中しやすくなっていくわけだが、裏を返せばレベル1でも(魔法の武具とマスタールールセット掲載の特殊な鎧を除けば)高レベルPCと同じ防御力を持っているとも言える。
 標準的なファイターの場合、プレートメイルを着てシールドを持つことで、アーマークラスは2となる。マジックユーザーのアーマークラスは9。これはダイス目に直接影響する。つまりTHAC0/20の敵がいた場合、アーマークラス2のキャラクターは18・19・20が命中、アーマークラス9のキャラクターは11・12・13・14・15・16・17・18・19・20で命中する。確率としてはTHAC0/22の敵が一番顕著であり、アーマークラス2のキャラクターが20面ダイスで20が出ないと当たらないのに対して、アーマークラス9だと13以上で命中してしまうのだ。命中率8倍である。
 先程も言ったとおり、ファイターの8倍の確率で攻撃が命中し、かすっただけでも死ぬゲームでマジックユーザーが攻撃に曝されるということは、即死の危険と隣り合わせであるということに他ならない。レベルが上がるとマジックユーザーでも幾分死ににくくはなるが、それでも死に安いことに代わりはない。わかりやすい例を挙げると、マジックユーザーがファイアーボールを撃つとダメージはレベルD6、レベルD4の自分のHPの期待値よりもずっと高い値となる。*2

 さて、先程後衛から僧侶、クレリックを抜いた理由は簡単だ。CD&Dクレリックはファイターと同じ鎧が装備できる。つまり前衛なのだ。むしろ、軽い鎧しか装備できないシーフの方が前に出るのは危険である(デクスタリティ最大値を振っていてもアーマークラスは標準で4)。身軽なシーフの方が攻撃が回避しやすそうに思えるが、CD&Dにおいては「回避を犠牲にしても、敵の攻撃が有効打になりづらい重い鎧の方が、回避が高くても敵の攻撃が即有効打になる軽い鎧よりも有利だ」ということになる。
 CD&Dにはターゲットコントロールやダメージ軽減の手段がない。そのため、当時は武器を振り回しつつ戦うのにギリギリの幅を確保し、だいたい2人くらいで最前列を固め(当時のダンジョンの通路幅がそれくらいだった)、バックアタックに備えて最後尾にも前衛を置き、真ん中にマジックユーザーを挟む形で隊列を組んでいた。マジックユーザーを守るため、物理的にマジックユーザーに敵の手が及ばないようにしていたのだ。正解は一つではないが、多かったのは最前列がファイターとデミヒューマンドワーフ、エルフ、ハーフリング。これらもキャラクタークラス扱いであり、全てファイター並みの鎧が装備できた)、中列にマジックユーザー、後列にクレリックとシーフ。罠を解除するときなどはシーフが前に出るという編成が多かったのではないだろうか。もちろんシーフとデミヒューマンは逆でもいい。*3ランタンやたいまつはシーフかマジックユーザーが持つ。もちろん他の人間が盾を持てるようにするためだ。
 当時発刊されたD&Dのよくわかる本でも、後ろからマジックユーザー*4が敵に襲われピンチになるエピソードがある。彼のHPもレベル1当時1であった。


 話が長くなったが、少なくとも私の最初のプレイグループでは、前に出て殴るマジックユーザーなど論外だったし、私がダンジョンマスターを務めるシナリオで最初に死人を出したのもマジックユーザーだった。*5私はその頃の記憶を引きずっており、もう時代も流れ状況が変わった今となっても、後衛が攻撃に曝されることには心理的な圧迫感を覚えるのである。

*1:話の流れ上、必ずしもアリアンロッドだけを指して言及した訳ではなくTRPGやMMORPGを含めたRPG全般についての話である。

*2:そのため、着弾位置から球状にダメージ範囲の広がるファイアーボールや壁に当たると反射するライトニングボルトを不用意に放つことは、文字通り自殺行為だった。

*3:しかし、ドワーフとハーフリングは戦闘時敵を殴るしかすることがないので、後列にいると前に出ないと何もできない。エルフなら後列から魔法が撃てるので後ろにいても問題ない。

*4:名前はダース・ヴェイダーだった(笑)。

*5:ドッペルゲンガーに襲われ、誤って仲間に斬殺されるという凄絶な最期だった。