綺麗な歌だけど本当は怖い?


 このところずっと第9回MMD杯出場動画を紹介してきたので、この辺でちょっと違う動画でも。
 ポップでおしゃれなPV風動画だが、元はPortalのエンディングテーマ曲らしい。綺麗な歌声に反して歌詞の内容が物騒だったので、思わず気になって調べてしまった。


still alive


 結構深い意味があるらしく、プレイ済みのプレイヤーの間でも、解釈についてはいろいろあるようだ。
 これをアイドルマスター、そして春香に翻案しようと考えたセンスに、まず脱帽する。

この機会だから

 そして、ニコマス全般について歌っているこの曲を聞いて思い出した、前々から気になっていたことをここで書いておく(私は法律の専門家でもなんでもなく、以下の記述は全て私の個人的見解であることを最初にお断りしておく)。

 前にも別のエントリでちょっと書いたが、著作権法が改正される今年の10月以降、ニコニコ動画というサイトがどのように変わっていくのかまだわからないけれど、いわゆる御三家ジャンルで一番危ないのがアイドルマスタージャンル、つまりニコマスだと私は考えている。最悪、今の楽園は9月30日(あと1ヶ月ちょっとしかない!)をもって消えてなくなるかもしれない。
 改正される著作権法では、違法と知りながらアップロードしてある音楽や動画をダウンロードした場合、刑事罰が科される可能性があるとされている。もちろんニコニコ動画全体が危ないという意見もあるが、JASRACと包括的使用許諾契約を締結し、その範囲内に含まれるとされる歌ってみた動画などについては違法とされる可能性は低いだろう。
 また、初音ミクについても著作権者であるクリプトン(セガでもバンナムでもない!)が、二次使用に関するガイドラインを制定しているため、その範囲内の使用であれば法に抵触する恐れは低い。ミク動画は映像部分がMMDなどの有志による自作あるいは手書きイラストなどであることが多く、音楽がミクによる歌ってみたなので、個々の要素を見てみても問題は起こりづらそうだ(例外は、バンナムセガのゲームから素材を持ってきている場合である)。
 東方ジャンルも同じで、一次著作権者であるZUNさんが定めた二次使用に関するガイドラインを踏み越えない限り二次創作が認められていると解釈できる。東方もミクと同じく映像素材は自作や手書きが主で、BGMはZUNさんが作曲した曲のアレンジを使用した動画が多いため、動画一つ一つはともかくとして、少なくともジャンル全体としてはそれほど危惧する必要はないと思われる。

 問題はニコマスだ。まずニコマスの場合、PVなどでゲームから切り出した素材をそのまま使用する場合がある。これが「動画の無断アップロード」に該当する可能性がある。個々の事例に関しては判例でも出ない限り判断のしようがないが、素材がゲームであってもムービーなどのように「動画」としての側面が強い場合、法に抵触するのではないかと考えている弁護士もいるようであり、問題がまったくないとは言えない。
 また、MMDや手書きのイラストを使用したとしても、BGMとして市販の、二次使用が認められていない音源を使用した場合はやはり著作権者から告発される可能性がある(ニコニコ動画の包括的使用許諾契約は著作権者が利用を許諾した場合ダウンロードが認められるというものであり、元々の曲を著作権者に無断でアップロードしている場合は無関係である)。これはPVだけではなくノベマスなどにも当然言えることだ。
 今回の改正はキャラクターの著作権などにはまったく関係ない、純粋に映像と音楽に関するものだけ(映像も連続した動画でなければ該当しない)なので、自作の動画を使い、フリー素材か自分で作曲した曲、あるいはボカロに歌わせた曲などを使用している場合には問題はないはずなのだが……御三家ジャンルのうち、この条件が最も当てはまらない、つまり公式素材を使ってしまっているのがニコマスなのだ。

 さらに、一番肝心なのは一次著作権者であるバンナムの二次創作に対する姿勢である。ZUNさんやクリプトン社は、一次著作権者として二次創作のガイドラインを設けるなど、ある程度寛容な姿勢を示している。ではバンナムはどうか? もちろん、バンナムが寛容であったとしても、例えば使える曲はBGMだけになる(それぞれのアイドルが歌っている曲についてはバンナムだけが著作権を持っているわけではないから許可は難しいだろう。超NovelsM@sterの時に公式のBGMだけが使用可能だったのは恐らくそういう事情だ)とか、動画素材は最新作の物を使ってはいけないとか、いろいろな制限が加わることが考えられるが、そもそもの姿勢として寛容なのか、非寛容なのかというのは制作する側にとっては大きな影響を及ぼす。そしてもちろん、著作権法は(今のところ)親告罪である。

 ここで思い出されるのがディレクターである石原氏の2年前の発言だ。ここで彼は、バンナムはユーザーに頼った企業活動はあり得ないといっている。つまりこれは「二次創作などどうでもいい」という意味であり、二次創作活動に非寛容な姿勢を取る可能性は十分あり得る。今さら2年前の失言をあげつらうのかという人もいるかもしれないが、これは失言ではない。生放送中につい口走ったとかとは訳が違う。これは雑誌のインタビュー記事で、9月18日の公開時刻まで指定されていた。つまり、バンナム側は当然事前チェックもしたであろう原稿なのだ。そこで考えもしていないことを口走るとは到底考えられない。反対にあり得るとすれば「つい本音が出た」だろう。実際、この発言に関しては現在に至るも撤回も訂正もされていない。
 もちろん、ニコマスというジャンル自体、今のところバンナムからお目こぼしをもらっているジャンルである。だから寛容だ、という解釈もできなくはない。しかし、会社としての姿勢は明らかではない。明らかではないということはリスクがあるということだ。今までとは違い、動画が削除されるというだけではない、ことは動画作成者が逮捕されるかどうかというリスクにまで及びかねないのだ。


 私はニコマスが好きだ。動画作成者の方たちには本当に頭が下がるし、心から感謝している。だから、バンナムの告発でニコマス動画作成者が逮捕されるなんて悲しい事態には絶対になってほしくないのだが……。