想い出の値段

もし実家の物置から大量の“キン消し”が出てきたら……


 私も昔、他多数の男子の例に漏れず、キン消しを集めていたことがある(ビックリマンシールは世代がちょっと後で、私よりも4歳下の弟が熱心に集めており、私はアニメを見ていただけだったが)。
 今となっては、どんなキン消しが手元にあったのか、それに価値があったかどうかも思い出すことはできないけれど、集めるのをやめるきっかけとなった出来事だけは、今も鮮明に覚えている。
 小学生時代のある日。私は自分のコレクションを友人に見せたかったのか、あるいはトレードしたかったのか、袋に入れてキン消しを持って出かけた。ところが、袋にはいつの間にか穴が開いていた。自転車の後ろの荷台に置いた袋からキン消しはポロポロとこぼれ、気付いた時にはほとんどなくなってしまっていた。
 私は慌てて来た道を戻った。キン消しは袋ごと落としたわけではなく、ヘンゼルとグレーテルの帰り道を示すお菓子のように道沿いに点々と落ちていたから、戻りながら拾えば取り戻せると思ったからだ。
 しかし、ある曲がり角を曲がったところでキン消しはぱたっとなくなってしまった。それまで等間隔に落ちていたのに、そこで忽然と消えたのだ。記憶を遡ると、確か自転車に乗ってそこを通りかかった時、知らない子供たちがそこで遊んでいたような気がした。なんら根拠があるわけではないが、私は漠然と「ああ、自分のコレクションはあの子たちに拾われたんだろうな」と思った。盗まれたわけではなく落とした物を拾われただけだから、完全に自業自得の話であり、拾った人間が悪いわけでもなんでもないけれど。

 ただ、その時私はそれまで熱心に集めていたものへの執着心みたいなものがすうっと消えていくのを感じた。

 あれほど血眼になっていたのに何故急に熱意が薄れたのか自分でもよく分からなかったけれど、私はただ時流に乗っていただけで、本当は思い入れも何もなかったのかな、と、後になってぼんやりと思い返したことがある。
 しかし、今でも想像することがある。もしあの時私の袋に穴が開いておらず、キン消しを落とすことがなかったとしたら、趣味をころころ変えられない私のことだから、もっと後までキン消しを集めていたかもしれない。そうしたら……もしかしたら私は、後になってゲームを集めることに熱中することもなかったかもしれない、と。当時の私には不幸な出来事だったが、本当に出会いたかったものにその後出会わせてくれるきっかけの一つだったのだと考えると、むしろ幸運だったのかもしれない、と。