さらばアイアンマン?


 見に行ってきた。とりあえず、今回の映画はアイアンマン2からではなくアベンジャーズから続いているストーリーなので、見れる人はレンタルででも見ておいた方がよいと思う。5/15追記、アベンジャーズとのストーリーの繋がりはそれほどでもありませんでした。ごめんなさい。


(以下超がつくほどのネタバレあり)













 私の中での評価は1>2>(超えられない壁)>3ということになりそうだ。
 思うところをいくつか箇条書きで書いていく。


・まず、冒頭にも書いたように、今回の「3」はアベンジャーズから続く物語。これはただ単に時系列がそうなっているというだけでなく、ストーリーがアベンジャーズを踏まえたものになっているという意味だ。確かに(上のとは異なる)予告編で「アベンジャーズの戦いより1年」なんて語られてるのもあるけど、私は実際に見るまでこれがアベンジャーズを前提にしたストーリーだとは思っていなかった。ナンバリングタイトルはそれ単体で独立するように作ってほしかった。
 というのも、アベンジャーズヴィラン(悪役)は「神」とか「異星人」で、これまでのアイアンマンシリーズのヴィランがあくまでも「人間」なのとは一線を画しているからだ。なお、今回のヴィランも人間である。


・今回のヴィランは実質「アルドリッチ・キリアン」一人だけである。事前情報では大俳優のベン・キングズレーが「マンダリン」に配役されていたり、「コールドブラッド」の本名である「エリック・サヴィン」がキャスト一覧にいたりするのだが、エリック・サヴィンはコールドブラッドとしてではなく、あくまでもキリアンの部下として登場するのみ。マンダリンに至ってはバットマン・ビギンズラーズ・アル・グールのように「影武者を演じているだけのただの役者」である。実は第1作にもマンダリンの「テン・リングス」にまつわる伏線がちょっとあったのだが、ガン無視である。事前に噂があったファイアパワーについては、いったいどこに出てきたのかすらさっぱり分からない。


・所々いいシーンもないわけではない。例えば自宅でジャーヴィスを使って現場検証をするシーンや、クライマックスでアイアンマン・スーツが勢揃いするシーンは心沸き立つものがある。のだが……。


・2のそれとは違い、今回の予告編にはミスディレクションが仕掛けられている。事前にアイアンマン・スーツが集結する場面を見れば視聴者は当然「これ、誰が着てるんだろう?」と疑問に感じると思うのだが、ネタばらししてしまうとあれは全部AIが制御する無人のスーツである。途中にエクストリミスの施術シーンを混ぜたバージョンが存在するのも、あたかもスーツ着用者がたくさんいるかのように勘違いさせる原因になっている。
 他にもトニーが「これが最後の戦いだ」なんていう場面が挿入されているバージョンもあるが、宣伝ポスターの「さらば、アイアンマン」に合わせた意図的なものだろう。あれは前後の流れだと(マンダリンとの戦いは)「これで最後にする」という文脈の台詞だ。


・そのアイアンパトリオットは単にウォーマシンを塗装し直しただけ。原作にあるノーマン・オズボーンとの絡みは一切ない。つまりスパイダーマンシリーズとは無関係のまま終わる。


・今回一番わからなかったのは新型スーツの「マーク42」。これが今回のキー・ガジェットなのだが「遠隔操作で装着できるスーツ」なんて必要には思えない(ちなみに私が一番好きなのは、普段はスーツケース型で変形してスーツに変わる「マーク5」。2に登場する)。元々飛行するのに使っているアームパーツやレッグパーツが空を飛ぶのはわかるけど、ヘッドパーツやチェストパーツが単体で飛行する意味があるんだろうか? 途中、スーツのパーツがバラバラに1300kmも飛行してトニーのところへとやってくるシーンなどは、思わず吹き出しそうになってしまった。あれどう考えてもギャグシーンだろ……。
 それでも、途中の襲撃シーンで自分ではなくペッパーにスーツを装着させて命を救うシーンでは「おお、なるほど。こう使うのかこのスーツは」と納得したのだが……?


・クライマックスで無人のまま飛んでくる無数のスーツ。凄いカッコいいシーンなのだが、よくよく考えると、これが可能なら最初からやっておけばいいじゃん! という疑問が消えない。AIによって自律行動が可能で、自動的にトニーの元にまで飛んできて、無人のまま戦闘も可能なスーツが何体もいるのなら、敵の屋敷に閉じこめられても別にピンチじゃないし、落下する飛行機から乗客を助けるのも簡単なはずだ。
 というか、途中でトニーの自宅が襲撃され、スーツを丸ごと爆破され、彼の手元に残る武器は試作品のマーク42だけであるかのような描写はいったいなんだったのさ。


・さて、今回のヴィランであるアルドリッチ・キリアン。こいつがまた酷い。
 例えば、1のヴィラン「アイアンモンガー」の動機は「気紛れなトニーに代わり自分が会社を切り盛りしてきたのに、自分には発明の才能がなく蔑ろにされたという恨み」。
 2のヴィラン「ウィップラッシュ」の動機は「自分の父親がトニーの父親と共同研究者だったにも関わらず、トニーだけが日の光を浴び同等の才能を持つ自分が闇の中にいるという恨み」でどちらも非常によくわかる。
 ところが、今回のヴィランの動機はなんと「トニーに待ち合わせをすっぽかされた」という「だけ」。人の命が関わっているわけでもなく、ただ自分の研究成果をトニーに見てもらえなかったというだけの理由だ。それだけの理由で暗殺の標的にされた大統領もお気の毒としか言いようがない。


・キリアンの動機が共感不能でマンダリンが噛ませ犬なので、今回のヴィランはトニーを危機に陥れる上に強敵であるにも関わらず、印象が薄い。ウィップラッシュのように心に残る台詞もない。しかもなんと「ペッパーに殴り殺される」というあまりにも残念な最期を遂げる。


・クライマックスシーンで次々とスーツを使い捨てにするのは格好良い(キリアンとの戦闘で破損する度に別のスーツを呼び寄せて着替える)のだが、キリアンが大統領を公開処刑するのに、なんでわざわざ大統領本人にアイアンパトリオットのスーツを着せる必要があったのかさっぱりわからない。キリアンは頭がおかしいって演出なんだろうけど、人質の隣に強力無比の兵器を並べておいたら、明らかに敵(トニーの親友、ローディ)に有利になるだろ……。実際スーツを使って救出された上に逃げられたわけだし。


・そして、一番納得がいかなかったのはエンディングだ。なんと、トニーの胸にアークリアクターが埋め込まれている理由である、あの地雷の破片を手術で抜き取ってしまうシーンがある。というか、それって手術で除去できるのかよ! だったら今までのアークリアクターはいったい何だったんだ! トニーの胸のアークリアクターは、彼がアイアンマンであるために必要な「傷」だ。それがなくなったらアイアンマンである必然性がなくなってしまう。
 それなのになんと、エンドロールの後で「トニー・スタークは帰ってくる」と流れる。いや、そりゃ原作の展開を考えれば帰ってくるとは思ってたけど、だったら地雷片は除去したらまずいだろ! エクストリミスに浸食されたペッパーについて「彼女は治療法を見つけた」とあっさり一言で済ますのも驚いたけど、地雷片の方がショックすぎてそっちはどうでもよくなった。


・今回のトニーは、アベンジャーズの事件が原因でパニック障害不眠症を患っていることになっている。作中何度もパニック障害の発作を起こすシーンがある。異星人の襲撃やヒーローとしての重責が心理的負担になっているというのがその理由で、そのために危うくペッパーを殺しかけるシーンもある。
 ところが、これだけ重要な設定なのに、事件後に状況はほとんど変わってないにも関わらず、最後に「こんなにゆっくり眠れたのは久しぶりだ」と述べられるだけで、いつの間にか克服したかのような描写がされる。あるいは、本当に最後のシーンで自分の悩みを「ある人物」に聞いてもらっているので、これで不安が克服できたということなんだろうか?(その相手はトニーの話を聞かずに寝ているだけなのだが)
 そして私はこの「ある人物」が結局誰なのかわからないままだった。アベンジャーズを見ていればわかるんだろうか? 今までの2作がエンドロールの後に仕掛けを用意している作品だったので、今回も一応席を立たないまま最後まで見たものの、なんだか消化不良のまま終わってしまった気分だ。


・今までのアイアンマンも、SHIELDの設定とかニック・フューリーとかが伏線なしにチラチラと意味ありげに出てきていたりしてはいたのだが、基本的には他の作品を見ていないとストーリーがわからないということはなかった。ところが今回はアベンジャーズの設定を引きずっているにもかかわらず、今一つそれを消化しきれていないように感じられた。今作の監督は今まで2作の監督とは別の監督となっているので、それが多少なりと関係があるのかもしれない。


・なんか、X−MENもアイアンマンも、マーベル作品って3作目でがっかりっていうパターンが多いような……。