ぐう畜キャップ


 感想。シビルウォーってやっぱり難しい題材だったんだなぁって。


(超絶ネタバレあり)












 実は、シビルウォーについてはかなり前からブログのエントリでも書いてきたとおり、かなり注目していた。それはもちろん、原作でも一大イベントだったからだ。

 これを見るにあたっては、事前に考えていた評価ポイントがいくつかあった。
 まず最初に、某作品みたいに「仲違いを後ろで画策する悪役とかがいて、途中で誤解が解けて一緒にそいつと戦おうぜ、チャンチャン」だったら、よっぽど上手くまとめてない限り減点するつもりだった。
 また、スーパーヒーローというものそのものに対する考え方の違いが露わになるシビルウォーでの対立を、この作品だけで後に引っぱらず、なかったことにしてしまうんだったらやっぱり減点。原作のシビルウォーはそんなに半端な終わり方はしていない。

 これを踏まえて今回の映画を見たわけだけど──どちらの観点からも減点は免れたものの、いやむしろ免れたからこそ、料理の難しい題材だったことが改めて浮き彫りになった、という感じ。
 ぶっちゃけていうと、これ「アイアンマン4・シビルウォー」じゃなくて「キャプテンアメリカ3・シビルウォー」なんで、アイアンマンが悪役なのは覚悟してたけど、キャップがそれ以上にぐうの音も出ないほどの畜生すぎた(笑)。


・冒頭、前作(キャプテンアメリカ2)でヴィランとしての名前も出ないままやられたクロスボーンズとの戦闘。チームの新人であるスカーレットウィッチのてへぺろ案件で一般に被害が出る。これをきっかけに、原作でいうところのスーパーヒューマン登録法、本作では「ソコヴィア協定」が作られる。この協定を巡ってアイアンマンとキャプテンアメリカの意見が対立する。ここまでは原作と似たような流れ。
 どうでもいいけどこの作品で一番カッコいいの、翼で弾丸防御したりレッドウィング操作したりする、このシーンのファルコンだよな。


・ところが、協定締結の場で爆破事件が起き、提唱者であるワカンダ国の国王が暗殺され、防犯カメラの映像から犯人がウィンターソルジャー(バッキー)ではないかという疑いが。ってか、この国王、一般人代表っぽいのに妙に伏線張りまくるなと思ったら、なんとブラックパンサーの父ちゃんだったという。


・ウィンターソルジャーことバッキーに累が及ぶと冷静さを失うキャップ、今回もいつもの通りブチ切れてトニーと決別。いやこれ、自分が追っ手になってバッキー逃がした方がよかったんじゃね?


・突然「ウィンターソルジャーは俺だけじゃない」とか言い出すバッキー。どうも今回の「ヴィランっぽいヤツ」*1は、シベリアで眠っているその「バッキー以外のウィンターソルジャー(以下ソルジャーズ(仮))」を覚醒させて悪さしようと目論んでいる様子。ふむ。ヒドラの残党かなんかかな?


・その今回のヴィランっぽいヤツを追おうとするキャップたちの前に立ちはだかるアイアンマン。そりゃ爆破容疑者と犯人隠避の容疑者だし無理ないわ。


ブラックウィドウ&ファルコン「仲間なら心当たりがある」えええええええ! ホークアイを呼び戻すのはまだわかるけど、知り合いだからってだけでアントマンスパイダーマンを参戦させちゃうのかよ!(笑) なお、もちろん原作ではヒーローごとに登録法に対する考え方がちゃんとあった上で旗色を明らかにしている。


・空港で対峙する、アイアンマン・ウォーマシン・ブラックウィドウスパイダーマンブラックパンサー・ヴィジョンvsキャプテンアメリカ・ファルコン・ウィンターソルジャー・スカーレットウィッチ・アントマンホークアイ。こうして並べてみると一応人数だけは対等なのな。


・でもこの対決シーン、映画の一番の見せ場だと思うんだけどよく考えるとおかしい。だってその今回の「ヴィランっぽいヤツ」の計画を止めたいなら、別にウィンターソルジャーが自分で向かう必要はないんだから。アイアンマンたちが確保したいのはウィンターソルジャーの身柄な訳で、爆破事件が冤罪だというなら捕まった後ででも無実は立証可能だし(実際そうなった)、それと平行して別部隊がシベリアに向かえばいい。この場面での対立は、実はソコヴィア協定に対する見解の違いとは直接関係がない(バッキーは爆破容疑者だから追われているのであって協定反対派だから追われているわけではない)ので、ヒーロー同士がここで激突してることの方がよっぽどロスだ。
 なお原作の場合、登録法を巡る衝突の原因は「登録法に反対する者の捕縛」と「捕縛されてる仲間の解放」なんで、基本的に避けようがない。


・いろいろあって大暴れするアントマン。こいつが最強だったんか……。「誰か必殺技持ってないか?」とアイアンマン。いや、ヴェロニカ呼べばいいんじゃ(笑)。


・そしてPVでもあった、墜落したウォーマシンを抱き抱えるアイアンマンのシーン。しかしその原因は、なんとヴィジョンがファルコンを撃とうとして外れた光線がウォーマシンを直撃したというもの。バッキーが撃ったんじゃなくて誤射だったんかい。これでキャップを恨んだら逆恨みだぞ、トニー(笑)。


エヴァ劇場版で見たような海上の要塞監獄に収監されるファルコンたち。マグニートーの時はペンタゴンの地下に牢獄作ってたのに随分変わったもんだ。ってあれを破られたから変わったのか(笑)。


・協定調印式の現場を襲ったのがウィンターソルジャーではないとAIフライデーに知らされて驚くアイアンマン。おいおいおい、殴りあう前にちゃんと捜査しなさいよ……。


・キャップとウィンターソルジャーがシベリアについたところで「ごめんごめん俺が悪かった、やっぱり手伝うよ」とアイアンマンが合流。嫌な予感がしたけど展開はその斜め上を飛んでいった。


・なんと、ソルジャーズ(仮)はご丁寧にみんな殺されていた。ヴィランっぽい人「俺の目的はソルジャーズ(仮)じゃないよ」は?


・突然アイアンマンことトニーの両親、ハワードとマリアがウィンターソルジャーに殺害されるシーンのビデオ映像が流れる。そりゃウィンターソルジャーはヒドラに洗脳されてたわけだし、前作でハワード夫妻がヒドラに殺されたことは明かされてたからさもありなん。


・トニー「知ってたのか?」
 スティーブ「ああ」
 ……え? ……え?? ちょっと待てスティーブ。あんたトニーの両親がヒドラの陰謀で殺されたことを話してなかったのか!!?? 真っ先に話しておくべきことだろ!
 あんた前作で、バッキーのこと秘密にしてたフューリー長官に切れてたろ? 情報は共有しろって激怒してたじゃん。シールド壊滅させたのもそれが理由だったよな? それなのにトニーの両親のことは、知ってたのに話してなかったわけ? 「俺たちはチームだろ」とか言っておきながら、なんでだよ! 秘密にする理由がないだろ! やってることがフューリーよりヒドいじゃんか!


当然ブチ切れてウィンターソルジャーに襲いかかるアイアンマン。それを庇うキャップ。ってかこの場面で庇ったらあかんやろ……。原因はあんたやで。ちなみにソルジャーズ(仮)が殺されてた時点で、キャップの「世界を救うため」とか「敵の陰謀を止めるため」という大義名分は成り立たなくなっている。繰り返すけど、この戦いはソコヴィア協定に対する立場の違いとも直接関係がない。


・今回のヴィランっぽい人「家族をソコヴィアで殺されたので復讐したかった。戦っても勝てないのはわかってたんで仲間割れさせた。それ以外の目的はないっス」
 げぇー!! こいつアメコミ的なスーパーヴィランじゃない、設定的にあかんヤツや!
 何がまずいって「私はただの人間です。目的は世界征服でも人類滅亡でもないです。スーパーヒーローへの復讐です。それももう完了したので満足しました」って言われると、トニーの行動に正当性がなくなるんだよ!


・一つの作品が、作中で「復讐」という行為を肯定するか否定するか、それはどちらもあっていい。ただ同じ作中で復讐を否定するなら、もう片方で肯定することはダブルスタンダードになる。
 今回のヴィランっぽいただの人は復讐以外に目的がない。ということは、それを否定するならアイアンマンが両親の死に復讐することも否定されなければならない。逆に、アイアンマンが両親のためにウィンターソルジャーを攻撃することを肯定すると、今回のヴィランっぽい人が目論んだアヴェンジャーズの仲間割れも肯定せざるを得なくなる。


・さらにいうと、このヴィランっぽい人の行動も実は整合性が取れていない。アイアンマンとキャップをただ仲間割れさせたかったのなら、わざわざシベリアまで呼び出す必要はないし、冷凍されていたソルジャーズ(仮)を殺す理由もない。ドイツでウィンターソルジャーから事実を聞き出した時点でトニーに動画でも証拠でも送りつけてやればいい。むしろ仲間割れそのもの、もしくはハワード夫妻暗殺の映像そのものを衆目に晒した方が目的が達成できたはず。そもそもアイアンマンがシベリアに駆けつけたのは偶発的な出来事で、AIフライデーの解析がもう少し遅ければアイアンマンはシベリアに向かってすらいなかった。


・シベリアで人知れず殴り合うアイアンマンとキャップ&ウィンターソルジャ−。2対1だからいじめにしか見えん……(しかも、この場にアイアンマンを一人で行かせたのはキャップのサイドキックだという)。そして最後、アイアンマンの胸のリアクターをヴィヴラニウムシールドで叩き割るキャップ。今までどんなヴィランもそれだけはやらなかったのに……マジえげつねえ(笑)。


・去っていく二人に向けてアイアンマンが告げる「盾は置いていけ、それは父が作ったものだ」盾を投げ捨てるキャップ。いや……アイアンマンがマジで不憫すぎる。これ、半分以上キャップのせいやんけ……。そもそも、映画の1を見ればわかるけど、トニーの父親のハワードはキャプテンアメリカの生みの親の一人のようなもの。今までキャップを散々助けてきた盾を作ったのはもちろん、氷漬けになったキャップを最後まで探していたのも彼だったのに。


・さすがに悪いと思ったのか、エンディングでトニーに手紙を送るキャップ。「あ、でも捕まってるみんなは脱獄させるから」そっちを映像化しろよ!


・全体的な感想。空港のシーンまでは結構よかったと思う。そこからは「誤解だったとアイアンマンが悟る」→「投獄されているメンバーを脱獄させるアクションシーン」→「ソコヴィア協定についての考え方は違うけどお互いの立場で頑張ろう」じゃあかんかったん? それでもスカッとはしないエンディングだけど、今回のこれじゃトニーが可哀想すぎる。ってかダブスタがヒドすぎてキャップに全く共感できないんだが。まぁ、キャップも「どっちも悪人にできないけど、なんとかキャップとトニーを戦わせないといけない」っていう脚本の都合に振り回された犠牲者なのかもしれないが……。


・あと、スパイダーマン。話題性があるのはわかるけど、ぶっちゃけ作品の本題とは関係ないんで、登場シーンはもっと少なくてよかった。メイおばさんの下りはスパイダーマンでやればいいんじゃないかな。これはキャプテンアメリカなんで。


・作品ごとに設定をご破算にせず、前作でひっくり返した卓袱台の上にちゃんと次の作品を作る姿勢は評価するけど、キャプテンアメリカ2の時にも抱いた感想。「これはアベンジャーズでやるべき題材じゃないか?」話がキャップ一人で終わってない。


・あと、キャプテンアメリカ2の時の「自由と安全、どちらを取るか」みたいなテーマも見えにくかった。「復讐の連鎖はどこかで断ち切るべきだ」ってことなのかな? だとしたら今回の主役は復讐の刃を途中で納めたブラックパンサーだよな……。


・今回ほどフューリー長官とシールドの偉大さが身に染みたことはなかった。なんの特殊能力もなく、野心を隠すこともせず、ヒーローたちにも信用されてないフューリーだけど、やっぱり緩衝材として彼の存在は必要だった。彼がヒーローとヒーローの間、ヒーローたちと一般人たちの間を取り持っていたからアベンジャーズはうまくいっていたんだと。


・この映画を見る前、マーベルシネマティックユニヴァースを知らない人に「最後は仲直りしてチャンチャンで終わるんでしょ?」と言われたが──むしろ、これだけズッタズタになった状況から、どうやって次回作を作るつもりなのか、楽しみになってきた。

*1:原作ではれっきとしたヴィラン