昨日ベスト5選を紹介した時点で勘がいい人は気づいたかもしれないが、今日はその続き、ワースト5選をご紹介しよう。
なお、ワースト5選はベスト5選以上に私の独断と偏見に基づくものであり、以下にあげるリプレイを楽しんだ方がもしおられるとしても、それ自体を否定するつもりのないことはあらかじめお断りしておく。
1.バトルテックリプレイ「魔女たちの饗宴」「女神たちの彷徨」
私が今まで読んだ数百冊のリプレイの中でも、読んだ時点で破り捨てたくなった最悪のリプレイ。一言で言うと、文庫本2冊分丸々使ってGMがプレイヤーを(PCを、ではない)ハメるというとんでもないリプレイだ。
概略をご説明しないとこの作品の酷さはわかりづらいと思うので、軽くご説明しよう(もうかなり昔の作品でうろ覚えの部分もある。記憶違いがあったらご容赦を)。作品の舞台となっているバトルテック世界では、ライラ共和国とドラコ連合という二つの国が戦争をしている。PCたち(アージェ小隊)は、ライラ側のメック乗りとしてその戦争に関わっていく……というのがストーリーの基本。この時代のメック乗りは半ば軍人、半ば傭兵のような存在である。
アージェ小隊はドラコ軍から逃れる避難民を守るなど基本的には市民側について戦うのだが、ドラコ占領下でデモが暴動に発展、ドラコのメック部隊が市民数万人を殺戮するという事件が起きる(テディベアを持って逃げる女の子とすれ違うが、あとでテディベアと腕だけになった女の子と再会するという欝シーンつき)。小隊はドラコのメックと戦い、これを撃破するが……なんと、アージェ小隊の上司(リサ2世、PC2の親友)が、事前にドラコ軍の動きを把握していながら、自分の地歩を固めるためにこれを黙認、利用し、結果として虐殺された市民を実質見殺しにしたことが判明する(なお、PC1の婚約者はドラコのスパイ)。
怒ったアージェ小隊は(当たり前だ)マスコミなどを通じてなんとか世間に真実を知らしめようとするが、その試みはGMの判断によってすべて失敗。結果的に小隊は全員リサ2世の権力争いに利用されるだけに終わり、真相は闇に葬られる。
え? これでストーリー終わり? と思われるかもしれないが、これで終わりである。PCたちは何もできないままだ。このシナリオの酷いところは、GMがプレイヤーとの知識に齟齬がある(例えば、プレイヤーたちはマスコミに真実を伝えれば状況を打開できると思っているがGMはそう思っていない、など)のを知りながら、それを意図的に利用してプレイヤーを罠に嵌めた点である。ダイス運が悪かったとかシナリオでの選択肢を間違えたとかではなく、またあらかじめそういった悲劇的な展開が待っていることについてコンセンサスを得ている用にもまったく見えない。
GMとプレイヤー2との「(リサ2世は)友達でしょうが!」「もうあんなん、友達違うー!」という叫びからは、その展開をプレイヤーが楽しめているようには微塵も受け取れない。
エンディングはさらに酷く、リサ2世がアージェ小隊の活躍を称える式典を開催し、逆上したPC1が銃を抜こうとしてPC3に制止されるというもの。PC3が制止した理由はリサ2世を許したからというわけではなく、式典で配られた拳銃からは弾丸が抜かれており、銃を抜いたらPC1が護衛の手で即座に蜂の巣にされるだろうと見抜いたからである。
このリプレイを読んだときの、私の開いた口がふさがらない気持ちがお分かりいただけるだろうか。GMにはプレイヤーを楽しませようという気も、一緒にストーリーを作ろうという気も感じられず、プレイヤーも本気でそれに怒っているようにしか読み取れない。こんなリプレイを公式リプレイとして読まされたら、読む方は「バトルテックではGMはプレイヤーを嵌めてもいいのか」と勘違いしかねない。
現にネットで調べたところ「バトルテックリプレイを読んで私は陰謀好きのマスターになりました」なんて書いてる人もいて「おいおい、マジかよ」という気持ちにさせられた。もちろんこんなプレイ、真似するのは厳禁である。
行間からGMのプレイヤーに対する優越感が滴っているように見えて、読んでいて気分が悪くなるリプレイだった。
2.シャドウランリプレイ「失墜の魔術師」(以下4巻まで)
これは現在続いている4版の展開ではなく、かつてグループSNEが展開していた2版に対応したリプレイである。最近も、イラストレーターさんがツイッターでキャラのイラストを久しぶりに描いたりしてちょっと話題になっていた。
一応言っておくと、私はいわゆる「原書派」ではないので、某○ッ○ー氏のように2版の日本語版展開は一切認めないとか、そういうつもりはない。ないが、このリプレイは酷すぎた。バトルテックリプレイほど長い話にはならないが、根本は同じである。
このシリーズではサブマスター制を導入しているのだが、それが「シナリオの知識をあらかじめ持っていて立場上有利なもう一人のプレイヤー」としての役割しか果たしていない。それが例え最終的に他のPCと敵対する立場であったとしても(だいたいそうなるのだが)、GMの負担を軽減できているようには到底見えないし、他のプレイヤーもサブマスターがいるおかげで助かったという場面がない。むしろ、他のプレイヤーとの知識に格差があるせいで、なんかやたら優越感に浸っててうざいプレイヤー、という程度の印象しか持てなかった。戦闘時の負荷が重いなら戦闘時のダイスだけ振ってもらってNPCを演じてもらう必要はないし、わざわざ敵側のNPCの一人にマスターをつける意味がない。
あと、このリプレイシリーズで非常に辟易したのは、前半なぜか毎回のように挿入される拷問(尋問ではない)シーン。銃を使って捕虜の耳を吹っ飛ばす描写とか読んでて不快になるだけで、シャドウラン世界には自白剤もないのかよ、と言いたくなった。いや、そもそも一々捕虜を拷問なんて非効率的なことをしなくたって、デッカーが抜いてくればそれで終了なんと違うの?
ただ、先のバトルテックリプレイと違うのは、こちらのリプレイは反面教師になり得たという点。私はこれを読んで以来、サブマスターというのがプレイヤーからどう見える存在なのかを知ったので、サブマスターは一切使わないことにした。拷問シーンの描写についても、シャドウランのこれが嫌だったから「判定一発で情報収集ができ、拷問を強いられることもなく、気持ち悪い描写もついてこない」NOVAでマスタリングすることが多かったともいえる。そういう意味では価値のあるリプレイだった(バトルテックリプレイの場合、私はプレイヤーに悪意を持ってシナリオを作るという姿勢そのものを取ったことがないので、反面教師にすらならなかった)。
3.ルナルサーガリプレイ・第2部
このリプレイもまた、「GMとプレイヤーの間に信頼関係が感じられない」という、前二つと同じ問題点を抱えているリプレイである。筆者はシャドウランリプレイのサブマスターを務めた人だ。このリプレイはバトルテックリプレイより遥かにメジャーなので、知っている人も多いと思う。
このページでも書かれているが、そもそもルナルサーガシリーズは、デザイナーの思い描くセッションとシステムが乖離している。デザイナーはヒロイックなスタイルを明らかに好んでいるにもかかわらず、PCの作成CPは英雄より遥かに格下に設定されている(デザイナーの目論むようなプレイスタイルには、CPが倍は必要になる)。PCは弱いのにヒロイックなプレイングを強制されるのだ。そのせいかどうかわからないが、特にこの第2部ではPC1がGMに中指を立てるなど「GMのノリについていけてない」様子が仄見えた。
さらに悪いのが、このGMに対するプレイヤーの非協力的な態度に業を煮やしたのか、GMが報復行為として「NPCが暴行され殺害される」という結果をもたらしたことだ。これまた読んでいて気分の悪くなる展開である。もっともこれはバトルテックのそれと違い、キャンペーンのラストではないので物語全体に占める比重はそれほどでもないし、プレイヤーの態度にも問題があるのでそれほど理不尽には感じないが。加えて、前キャンペーンから継続して参加するキャラクターが、明らかに他のキャラクターに比べて贔屓されているように見えるのもいただけない。
違和感という意味では上や下の作品ほどではないにも関わらずこの作品を3番目に挙げた理由は他でもない、昨日のソードワールドとは逆に、このシステム面での乖離を埋められなかった結果、最後には日本語版の展開が途絶えてしまったという、リプレイのもたらした影響を考慮してのことである。
4.ウォーハンマーリプレイ「混沌狩り」
まず、これは出版されたリプレイではなく、ウェブに無料掲載されたものである。しかし公式リプレイなのでここで取り上げることにした。
このリプレイ、冒頭からいきなりライターとプレイヤーの皆さんの学歴自慢から始まるという、前代未聞のリプレイなのだが、他の4作と違い比較的最近のリプレイであり、しかも短いにも関わらずアリアンロッドでいうところの危険行動のオンパレードである。説明はたったカタカナ4文字で済む。
「セクハラ」である。
ウォーハンマーの敵役、混沌の一派に「スラーネッシュ」という派閥がある。知っている人が聞けばこれだけで「ああ」と納得するだろうが、スラーネッシュは性的快楽を司る混沌であり、描写は必然セクシャルなものを含むこととなる。TRPGが大人の趣味である欧米製のゲームではこれは珍しくなく、例えばグローランサにもユーレリアという性愛を司る神がいて、専用魔法を持っていたりする。
ただし、普通のプレイ環境では例え気心の知れた相手であっても細心の注意を払わなければならない題材であることは言うまでもない。のだが、あろうことかこのリプレイでは男性GMが現役女子大生プレイヤーの演じる女性PCにスラーネッシュを接触させ、PC乗っ取りから性的描写までやってのけるという、場外ホームランをかっ飛ばす。もちろんこんなプレイ真似てはいけない。
それだけでなく、この前のリプレイではエンディングの一番最後でPCの協力者であるNPCが何の前触れもなくいきなり殺されて終わるなど突っ込みどころ満載なのだが、それでも4番目にした理由はこれが無料で見れるリプレイで、出版されたそれに比べると知名度などの点で劣る上、ゲームタイトルを考慮すると影響力が少ないと考えたからである。