最高傑作の理由


 このゲームが「2D格闘ゲーム最高傑作」と言われている理由は、すごい単純な理由だと思っている。それはカプコンSNKも、この後にこれより優れたゲームを出せなかったからだ。両者ともこの後に大きく方針転換し、カプコンは2D格闘に力を入れるのをやめてしまったし、SNKは倒産して制作元が変わってしまった。そういう意味では、このゲームはカプコンとSNKの両方が2D格闘に最高のパフォーマンスを発揮できた最後の作品だからだろう。
 ただこのゲームが評価される時、バランスが良かったとはあまり聞いたことがない。キャラクターの選択肢が多いだけではなく、レシオとかグルーヴとか、選べる部分が多すぎて、発売前に全てのバランスを取って「想定外」を潰すというのは、恐らく無理だったのだろう。選択肢の多いゲームがオリジナルコンボでバランス崩壊する、という意味ではストリートファイターZERO3とよく似た運命を辿ったようにも見える。

無法すぎる


 久しぶりに酷いリプレイを読んだ……。例によってかなり辛口の感想、それもかなりの長文になるので、一応折り畳む。辛口の感想が読みたくないという方は、ここで回れ右してほしい。












 どの部分が悪いかについては簡単に言えるものの、原因となると結構根の深い話になる。
 指摘したい点は、主に2つ。
 まず1点目。概略を話すと、このシナリオは1話で「表向きは夜目が利くようになる薬、実は致死性(しかもアンデット/レブナント化する)、依存性のある麻薬」という薬が登場し、これを何とかしてほしいというのが1話の依頼であり、PC達のミッションである。これに対して何と1話のエンディングで「PC達が敵から入手した麻薬のレシピを盗賊ギルドに横流し」してしまう。このために、PC達の行動が原因で2話3話と犠牲が出続けるという凄まじい展開になっている。
 とはいえ、この展開については、リプレイの裏表紙に概略が書かれていたので、あらかじめある程度知っていた。

 分厚い鎧も着れず、魔法も満足に使えないグラスランナーだけの前代未聞の縛りパーティ“グラランず”が受けた依頼は、グランゼールの裏社会に蔓延する違法薬物の調査。しかし、グラランずはその薬物で一儲けをしようと画策し……? 頭を抱えるGMを尻目に、依頼の多重請けに失敗の証拠隠滅、果ては裏切りまで!? 面白ければ何でもアリ、大賞なのにシリーズ屈指の問題作!?


 これを読んで最初は「また癖の強いプレイヤーがいて、突拍子もない提案をして……」という流れかと思ったら、リプレイを読んでみると様子が違う。このレシピの買取は、なんとGMが提案したもので、プレイヤーが「画策」したわけではない。盗賊ギルドの人間が「レシピを買い取る」という提案をしてきたから乗っただけである。この後の展開、2点目の指摘のことを考えると、プレイヤーたちも必ずしも悪くないとは言えないんだけど。
 もし、麻薬のレシピを盗賊ギルドに買い取らせるのが想定外の展開だというのなら、そんな提案をNPCにさせるべきではなかった。雰囲気付けのためにダミーの依頼を出したいなら、あからさまに怪しい展開にするとか、手を出すと痛い目に遭うことが明らかに分かるようにプレイヤーにヒントを出さないと伝わらない。NPCが提案してきたということはGMが誘導してるんだな、とプレイヤーが考えても無理はない。
 GM自身もこんなことを言っている。

 GMのしたかった「犯罪者ギルドとのダーティなやり取り」ができて私はかなり満足だ。


 GMの望み通りの展開になったのなら、なぜ頭を抱える必要がある?
 さらに、第2話の幕間の部分で「メインデザイナーの北沢氏から連絡があり、このリプレイをコンテストで入賞させることが決まって、このリプレイの展開は公式設定に反映されるようになった」というエピソードをわざわざ挟んでいる。これと前後のPC達の行動を合わせて考えると、このリプレイを読んだソードワールドのプレイヤーは「なるほど、ソードワールドの世界というのは、ギルド公認の冒険者が麻薬のレシピを盗賊ギルドに横流ししても咎められない世界なんだな」と思うだろう。実際、PC達は作中で一切お咎めを受けていない。
 また、このリプレイが全員グラスランナーであることを売りにしているから「グラスランナーってそういう種族なんだ」という予断を与える可能性もあるだろう。
 百歩譲って「PC達は公認のギルドを追われたヴァグランツで、合法的な活動だけでは口に糊していけない。だから非合法な手段にも時と場合によって手を染めなければならないのだ」という悲壮感のあるキャンペーンならまだわかるが、そういうわけでもない。リプレイ中での麻薬の扱いはとんでもなく軽い。このリプレイの中に出てくる麻薬は使うと死ぬ。しかもただ死ぬのではなくレヴナント化/アンデッドになる副作用がある、かつ依存性もあるというとんでもない麻薬なのだが、プレイヤーとのやり取りはこうだ。

GM/キリアス:「副作用のひとつ『依存性』……これは最悪、改良できなくてもいいかな、と」
グラランず (大爆笑)

(中略)

ゾーラ:水に依存性があっても問題ないのと同じやねぇ。


 全然同じではないし、笑ってる場合でもないが……。仮に副作用がなくなったとしても、このリプレイに出てくる麻薬は決して安いものではなく、依存症になったら、その麻薬を買い続けるために経済的に追い詰められて犯罪に手を染める人間が出てきかねない。そもそも1話で「依存症になったNPCの言動が常軌を逸している」という描写がされてるのに、なんで「依存症になるだけならいい」なんていう台詞が出てくるのか。繰り返すけれども、これはサタスペのPCでも、N◎VAのレッガーでもない。ヴァグランツが言っているわけでもない。冒険者ギルドの公認冒険者が言っているのだ。

 そして、この問題が根深いと思うのが、これはコミュニケーションエラーが原因だからだ。どういうことかというと、そもそもなぜGMは「盗賊ギルドの人間が麻薬のレシピを買い取る」などという提案をしたのかだが、これは盗賊ギルドの人間から情報を得るにあたり、PC側が渡すべき対価がなかったからだ。GM自身が言うような「ダーティな勢力との情報収集」、情報のやり取りを演出するのであれば、当然、情報提供側に対し何らかの対価が必要だ。そこでPC達が渡すと約束した対価が、麻薬のレシピだったという話なのだ。
 当然、GMとしてはこれは乗らないことを想定した選択だったからこそ、裏表紙のように「頭を抱えた」という記載になったのだろうが、PC視点で見るとそうとは限らない。何故なら、PC達には他に情報の見返りとして渡せるものがないからだ。プレイヤーとしては、提供せざるを得ない状況になったと感じても不思議はない。
 じゃあ、なぜこのような状況が発生したかといったら、交渉や情報収集に関するルールがないという理由が大きい。ルールブックに「プレイヤーがNPCの立場や性格、好みなどを考慮、推定し、適切に交渉を行って情報を得るのが原則です(ルールブック43ページ)」などと記載されてしまっているために、GMにもプレイヤーにも「アンダーグラウンドな勢力と取引をするには、それなりの対価を支払わなければならない」という先入観があるように見える。ちなみに、取引に乗る前後には悪ノリや金儲けを意図する台詞は皆無である。だから、この取引が成り立ってしまった理由はコミュニケーションエラーとしか読み取れない。そうでなければ、普通に図式だけを考えたら「麻薬患者を何とかしろ」というシナリオで「PCが盗賊ギルドに麻薬のレシピを横流しする」なんていう展開をGMから提案し、PCが承諾するなんて普通なら考えられない。
 この「情報収集がルールで処理されないことによる弊害」というのは、このリプレイがシティアドベンチャーを中心としているために、あちこちに出てきている。PC達が真犯人を勘違いしたというのも、原因は同じだ。ルール上判定が存在しないので、プレイヤーのチャレンジに対する報酬として段階的に情報を渡すということができないのだ。0か100かしかない。ソードワールドのシナリオにおける情報収集はどれも「想定されている質問をされたら想定されてる答えを返す」というGMの脳内を当てるような対応しかシナリオには書いておらず、当たり障りのない情報しか出せなくなりがちだ。従って裏事情の類を聞き出そうとすると詰む、という悪循環になってしまっている。

依頼は完遂しました(していない)

 長文になってしまったが、これでもまだ2つある問題点のうち1つ目しか語っていない。1つ目の問題点は第1話、2つ目の問題点は第2話にある。
 では第2話の問題点はどうかというと、こちらは完全にプレイヤー側の問題になる。第1話で「麻薬を何とかしてほしい」と言われていながら、GMの提案に乗ってレシピを横流しするという行動に出たプレイヤーたちだが、当然その状態では依頼目的を達成していないことになる。
 これに対して、プレイヤーたちは第2話で、明らかに今回はGMからの提案によらず自分たちの意思で、依頼を完遂できなかったことを不正行為によってごまかそうとする。第1話で麻薬を撲滅できなかったのは別の黒幕がいたせいということにしようとし、その黒幕を自分たちの手ででっち上げるという行動に出る。これは純粋にプレイヤーたちの悪意によるものだ。
 ここでまたソードワールドの問題点を指摘せざるを得ないのだが、前にもギルドの話で書いたとおり、ソード・ワールド2.0から、冒険者ギルドの仲介による依頼の場合、完遂したかどうかの確認をギルド側が取り、報酬は冒険者ギルドから支払われるという設定に変更された。このため、プレイヤーたちは依頼を完遂したと主張しているが、メタ的にGMが依頼が完遂していないことを知っているという場合どうなるか、という悪い面がこのシナリオで出てしまっている。
 しかも、その企みも不完全なもので「疑いを持った人間の目の前で、実際に横流ししたレシピから作られた麻薬を取り出す」などという大チョンボをやらかしたにもかかわらず、なぜかGMの側から救いの手を差し伸べてプレイヤーたちのミスをフォローしてしまっている。つまり、プレイヤーたちからすると「NPCを騙そうとしてミスを冒しても、GMがフォローを入れてくれる」と認識するという構造になってしまっている。要はプレイヤーたちの悪意に対して、ペナルティーを与えていないのだ。シナリオの目的を達成しているのにペナルティを与えまくるGMシー問題)とは正反対である。
 繰り返すが、1話目で盗賊ギルドの提案に乗ったのはあくまでもGMの示唆によるものだが、第2話において完遂できなかった依頼をごまかそうとしたのはプレイヤーたちの自発的な判断によるものである。しかもごまかすのにすら失敗してるわけだから、ちゃんと報いを受けさせるべきだった。具体的には、この間のサプリメントで追加された「ギルドからの除名処分」が適切だったと思う。新しい展開へのフックにもなる。
 しかし、GMはそういった判断をしていない。つまりこのリプレイの主人公たちは、自分たちが取った行動の責任を取っておらず、TRPG以前の問題として、このリプレイは物語として起承転結が成立していない。「オチてない」のだ。
 これも、言ってしまえばシステムの話でもある。何故なら、第1回の「麻薬の取引レシピを横流しする」件も、今回の「完遂していない依頼をごまかす」というのも、ルールに則ってプレイできるゲームはちゃんとある。やりたいなら、トーキョーN◎VAでもサタスペでも、そういった行動が推奨されるキャラクタークラスが存在するゲームでやればいい。しかしソードワールドはそうではない(次のエントリの冒頭「冒険者の矜持」を参照)。なのに無理やりそういった展開を通しているから無理が生じる。

 ところで、私がこのリプレイを買ったのは何故かというと、表紙のイラストが可愛かったというのもあるが、これが「製作スタッフであるグループSNE以外のメンバーが、ソードワールドをプレイしているリプレイ」だからだ。つまり、FEARのモノトーンミュージアムのテストプレイと同様、製作者たちが「製作意図はこうだよ」と説明ができないところで、ソードワールドのルールをどう運用するかが知りたかったのだ。しかも、「バブリーズのファンです」とまで自称するプレイグループのリプレイである。どういう展開になるのか、非常に気になっていた。
 当然というかなんというか、このリプレイで起きている問題点は、バブリーズのそれをそのまま引き映している。よってリプレイを読んだ感想も同じだ。バブリーズもこのリプレイも、笑いどころはGMとプレイヤーのコミュニケーションエラー、すなわち「失敗」だ。グイズノーの蘇生料金を間違えたことも、スケープドールの買い取り価格を忘れていたことも、ケイオスランドのラスボスがぞんざいな扱いになったのも、全てお互いの意図がうまく相手に伝わっていなかったことによる、一般的には失敗談だ(付け加えるなら、スイフリーのプレイヤーはGMの失敗をわざと誘発するような、非協力的なプレイスタイルを採っている。「屋敷を燃やそう」なんて言い出すのは典型例だ)。
 他人の失敗を笑うかどうかは個人の自由だ。しかし、コミュニケーションエラーを推奨するかのように公式リプレイとして売り出したりすることは、私は到底賛成できない。