「ジャーム化したPCの自害を認めるか?」


PCがジャーム化した場合シナリオ内で死亡させたいと思いますか?


 某所でこんな話題が取り上げられていたので、個人的な意見を書いてみたいと思う。なお、あらかじめ断っておくが、これはデザイナーの見解などとは関係ないし、もし私がどこかの卓に参加した時にはGMの判断に全面的に従う。


 最初に、結論から書いてしまおう。
「私がGMであれば基本的に認めない。プレイヤーだったら絶対に自分ではしない」である。


 ダブルクロスにおいて「クライマックスフェイズの最後に行うバックトラックが終了しても侵食率が100%を超えていた」PCは、セッション終了後「ジャーム」と呼ばれる存在になり、PLの手を離れてNPCとなる。ジャームは人間の倫理観を持たない。外見が異形に変化しているかどうかはケースバイケースなものの、PCと意思疎通が可能だったり、説得や交渉に応じるような相手ではない「和解不可能な敵」である。上級ルールブックには「ジャームと化したものが心を取り戻した例はない」とはっきり書かれている。
 ダブルクロスのセッションは、能力を使うたび、あるいはシーンに登場するたびに増加していく「侵食率」をいかに抑え、かつ活躍するかというジレンマを楽しむゲームである。しかし、セッションにおける侵食率の増減にはダイスによる乱数要素が絡むため、PLが完全に制御することはできない。運が悪ければ自分のPCがジャームになることはセッション中十分にあり得る。


 ジャーム化によってPCはGMの管理下に置かれることになるが、ここで問題になるのは多くのGMの場合、管理下に置かれるのが「ジャームになることが決定した瞬間」ではなく「セッション終了時点」であることだ。
 実はこの記述は、現在の3rdエディションのルールブックには見つけられなかった。しかし、2ndエディションのルールブックには「NPCになるのはシナリオ終了時」と書かれている。この解釈を継続する場合、ジャーム化が決定した段階ではまだPCはPLがコントロール可能な状態であることになる。この間に自害、あるいは他人に殺してもらうことで実質ジャーム化を防いでしまおう、というのが「ジャーム化したPCを自害させる」意図である。
 「思い入れのあるPCが人倫を外れた存在と化し、ましてかつての仲間であった他のPCたちの敵となって立ちはだかるのは見るに忍びない」だから「死んだ方がまし」というのは、気持ちとしては分からなくはない。


 では、なぜ私がGMの場合基本的にこれを認めないといったかというと、同じ2ndエディションのルールブックには「GMは闇に落ちるPCをかっこよく演出してやること」とも書かれているからだ。セッション終了時に「ジャーム化」したPCの状態を「死亡」に書き換えることは明らかに「演出」の範囲を超えている。しかもこの演出の主体はあくまでも“GM”である。
 クライマックスフェイズ終了時に侵食率100%を超えていたPCは、ジャーム化することが決定している。これはルール上の効果であって、演出ではない。このルールブックの記述は「ジャーム化が決まったPCを自由に演出してよい」とは読めるが「ルール上決定した結果を変更してもよい」とはどうやっても読み取れない。ジャーム化が決定したPCを殺す、あるいは自害すれば、ルール上の効果をもたらす。ゆえにそれは演出の範囲とは認められない。これが私の考え方だ。


 とはいえ、卓で一番大事なのはコンセンサスである。Togetterのまとめを見る限り、ジャーム化したPCを自害させることを認める人が案外多いことに私は驚いた。
 もし、GMとPLの間でジャーム化したPCを自害、あるいは他PCによって死亡させることで合意ができているなら、そしてその方がドラマが盛り上がるというのなら、その卓ではそれでもよいのだろう。実は、私自身どのリプレイのどのシーンだったか確認してはいないのだが、公式リプレイのエンディングで、ジャーム化したPCが他PLのPCに自分を殺してくれと懇願するシーンがある、らしい。それが本当ならなおさらプレイヤーの提案を拒むのは難しいかもしれない。
 ただ、少なくとも私は「力を使うことには代償が伴う」ことをテーマにする作品だからこそ、ジャーム化という結果は受け入れた上での演出を行うのがデザイン意図に沿うと考えている。

余談



 実は、ダブルクロスより前に発売された「ブレイドオブアルカナ」の場合、ジャーム化に相当する「殺戮者になること」と「死亡すること」には、明確な差が設けられていた(第2版までの話)。輪廻転生が世界設定上明記されているこのゲームでは、PCが死亡した場合、その使用経験点の半分を使用して「転生した」次のキャラを作成することができた。ところが、殺戮者になると輪廻転生の輪から外れるため、転生ができなくなる。つまり、死亡なら実質経験点が半分戻ってくるが、殺戮者になると経験点は全ロストだった。こういうシステムのゲームだったなら、殺戮者になることが決定した後に演出でPCの自害を認めるGMはいないだろう。
 また、PCの内部要因であるダブルクロスのレネゲイドウイルスと違い、ブレイドオブアルカナの殺戮者は「聖痕」という外部要因と大きく関わっている。極端な話、PLが「殺戮者になった仲間のPCを死なせてやりたい」と強弁した場合、そのPCは殺戮者と化した仲間の首を打ち落とした後、解放された聖痕全てを吸収して新たな殺戮者となり闇に消えていくかも知れないのだ!