メチャクチャ美化されてる


 なんかローラ姫がメチャクチャ美化されてるんだが……(笑)。

TRPGにおけるヴィランの話(その1)

 以前、コロコロ少年のエントリでヴァンパイアをヴィランにした話を書いた。そこでほとんど何の説明もなく「ヴィラン」という言葉を使ってしまったが、本来この言葉はTRPGではあまり使わない用語だ。それこそアメコミを題材にしたスーパーヒーローもののTRPGでもない限り、使われているのはほとんど見たことがない。
 では、どうしてヴィランという言葉を使ったかというと、他に適当な言葉が思いつかなかったからだ。
 「敵」というと、シナリオの障害として登場するモンスター等も含んでしまうけれど、ここではそれらは考慮していない。キャンペーンシナリオの最後の相手になることを想定した、PCを苦戦させる強力な存在を指したつもりである。前のエントリではかっこ書きで「宿敵」という言葉をあてたのはそのためだ。しかしこの言葉も、TRPG用語として使うことは一般的とは言えないかもしれない。
 今回はそんな「ヴィラン」の話である(以降このシリーズのエントリでは前述の定義に従ったものを「ヴィラン」と呼ぶことにする)。


 先日、例によってYoutubeのサジェスト再生が、懐かしい曲を再生し始めた。丸上げ系なのでここにURLは貼らないが、このサントラの9番目の曲だ。



 天地無用という作品の、神我人というキャラクターのテーマ曲である。このキャラ自体はTRPGと縁もゆかりもないが、私の個人的な体験においては、TRPGと深く結びついたキャラである。GMをしょっちゅうやる人であれば、自分がキャンペーンシナリオを作るときの類型(テンプレート)になるキャラクタータイプを持っている人も多いだろう。私にとっては彼がその一人だ。仲間内では冗談交じりに、ムアコック作品から採って「エターナルチャンピオン」などとからかわれることもあったほどである。

顔を見せるだけでも一苦労

 昔話をしよう。


 日本のTRPGの黎明期(もちろん日本語訳されて以降の話)、私たちの原体験となった作品には、大抵ヴィランが登場した。「D&Dがよくわかる本」に登場する「魔女ビアンカ」、「ロードス島戦記」の「カーラ」。*1D&Dの公式シナリオのモジュールにも「マスター」と呼ばれる、単発シナリオ内では倒されないことを前提とするヴィランが存在した。ドラゴンランスだけはちょっと事情が違ったが。*2
 ゲームブック「ソーサリー」に登場する「マンパンの大魔王」も、1冊目の「魔法使いの丘」ではどうしようもない相手である。ドラゴンクエストでいえば竜王ハーゴン。(当時の)少年漫画でいえば、教皇サガやラオウに相当するとでも言おうか。*3
 しかし、TRPGのセッションと、こういったヴィランの存在は、実のところ非常に相性が悪い。恐らくTRPGを遊ぶ多くのGMが同じ壁に突き当たったのではないだろうか。


 簡単にいうと「ヴィランが顔見せだけして退場する」というシーンの演出が非常に難しいのだ。


 プレイヤーから見ると、登場した敵がシナリオ一回限りの存在なのか、それともキャンペーンのラスボス、ここでいうヴィランなのかは見た目では判断しづらい。仮にプレイヤーがメタ的な理由で気づけたとしても、PCがそれを判断するのは輪をかけて難しい。敵が出てくれば戦おうとするのは当然の反応だ。ここで「PC全員」を「殺さず無力化」するのは、多くのゲームにおいて簡単なことではない。

 私が最初に挙げた2作品が両方ともクラシックD&Dを出典としているのは、決して偶然ではない。クラシックD&Dだけが、例外的にこういったヴィランを登場させやすい。「スリープ」という魔法があるためだ。


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 CD&Dにおけるスリープは、同作品の他の魔法(クラウドキルを除く)や、他作品の魔法と大きく異なる特徴を持つ。
「特定レベルまでの相手に対しては、100%効果を及ぼす」
「特定レベルを過ぎると、全く効かなくなる」
 これは「睡眠」という、相手を無力化する状態変化魔法としては異例の効果である。この効果であれば「かかった側が抵抗判定をし、成功すれば効果を無効化できる」というのがルール上の処理としては普通だし、実際ソードワールドロードス島戦記、その他の多くのゲームはそうなっているが、CD&Dにはそれがない。
 100%効くということは、ヴィランから見れば100%逃げられるということだ。レベルが上がると効かなくなるというのも、この魔法を戦術から除外できるという意味で敵味方双方にとって都合がいい。

 しかし、これが「抵抗に成功すると無効化」という、フォーセリアのスリープクラウドのような効果になると話が変わってくる。低確率であっても、PCが抵抗に成功する可能性が出てくるからだ。*4当然のことながら、この場合は抵抗に成功する方が危険性が高い。無力化に失敗すれば、次の選択肢は「正面から戦闘」である。ヴィランはキャンペーンの最後近くの敵として設定されているとすれば、顔見せの段階ではPCより遥かに強いはずだ。成長してやっと倒せる相手なのだから、成長前、それもパーティメンバーのうち何名かが無力化されていたらとても勝ち目がないだろう。ローレシア城の周りにハーゴンが出てくるようなものだ。GMとしては戦わせたくないし、プレイヤーとしても戦いたくはないだろうが、その状況を避けるのが難しいのだ。


 では「顔見せの段階では戦闘を挑めるほど近くにいない」状況ならどうだろう。ゲームシステムにもよるが、その距離は会話すら不可能な距離である可能性が高い。例えば、CD&Dのマジックミサイルは射程距離50メートルである。

 ちなみに、この辺の演出は、比較的新しいFEAR系のタイトルであれば、昔のタイトルより処理そのものはやりやすい。登場や退場がルール化されているため、時間稼ぎにスリープなどを使ってPCを無力化する必要性が低いからだ。
 しかし、それでもヴィランの顔見せがお勧めできるかと言われると、必ずしもそうとは言えない。これはもう、明確にタイトルによって状況が異なり、ダブルクロス、NOVA、アルシャード、カオスフレア、ブレカナの順にやり難くなる。



 ブレカナは、シナリオの構成そのものが敵、つまり殺戮者(マローダー)の存在に大きく拠っており、登場するだけでも「悪徳」で闇の鎖が配られたり、奇跡を使うだけで束縛を起こすなどの効果を及ぼす。このため「当該シナリオの殺戮者」以外に殺戮者を追加して登場させると、PCが特に不利になりかねない。有名なキャンペーンシナリオ「暗天節」は、シナリオ上の殺戮者に加えてヴィランにあたるアリサを巧く演出しているが、同時にその存在そのものがルール上与える影響も大きかった。もちろんそこまで意図してデザインされているわけだが、自作シナリオでこれを真似してバランスを保つには工夫が必要だ。


 


 カオスフレア、アルシャードは位置づけが似ており、シナリオの構成がダスクフレア/奈落という敵の存在に拠る部分が大きいのはブレカナと同様だが、登場するだけでPCが不利になったりはしない。しかし、敵専用の強力なリソースを切ってくる可能性がある等の理由から、ダスクフレア/奈落が複数登場すると、プレイヤーはその分神経を使うことになる。当該シナリオで戦う相手でないことを早めにはっきりさせないと、プレイヤーはヴィランと戦う分のリソースを温存しようとして展開が長引く可能性がある。



 NOVAはシナリオの構成そのものに敵ゲストの与える影響は上記タイトルほど大きくないが、やはり神業というゲストの数に比例する有限リソースの存在が、プレイヤーにとってはネックだろう。登場するだけして、神業を使うだけ使って退場して逃げ、以降そのアクトに登場しないなどとやると、プレイヤーにはかなりのストレスになりそうだ(インパクトはあるだろうが……)。



 その点、ダブルクロスは敵の数に比例する有限リソースが神業や奇跡ほど強力でないため、プレイヤーは敵の人数をあまり気にしない(気にするのはシンドロームとエフェクトの種類、それと侵食率である)。顔見せのやりやすいシステムだと言えるだろう。


 なお、無印天羅というゲームはこの点でも独特で、相手と因縁を結び、それがリソースに転化されるという関係上、プレイヤーがヴィランの顔見せを大歓迎するという特異なゲームだった。


 天羅の話はさておくとしても、こうなると一番賢い方法は「名前だけは出てくるが、姿は見せない」となる。マンパンの大魔王も竜王ハーゴンもプレイヤーの前に姿を現すのは最後の最後だ。聖闘士星矢のサガも、最序盤で一度姿を見せてからは、聖域に入るまで星矢の前に直接姿を見せなかった。ディオも敵対してからはジョナサンの前に不用意に姿を現していない。サウザー戦でずっと姿を見せていたラオウが例外的なのかもしれない。
 ただ、この方法を採ると、プレイヤーに存在を印象付けるのが難しくなる。名前だけは出てきていても、姿を見せたことがなく、会話も交わしたことがない相手というのは、よほどうまく演出しない限り、なかなか印象に残らないものだ。


 ……話が長くなりすぎたようだ。神我人の話は明日以降としよう。

*1:ただし、ご存じの方には言うまでもないが「よくわかる本」ではビアンカとPCの決着は描かれず、ロードス島戦記の初代リプレイにはカーラとPCの決着のシーンはない。

*2:暗黒の女王タキシスは「神」であり、明らかにキャンペーンのラスボスとして設定されてはいない。

*3:ここで出てくる作品の範囲が非常に狭いのは、当時私の知識の範囲が非常に狭かったからである──今もだが。

*4:抵抗されるのを避けるために、ロードス第3部のバグナードは「スタンクラウド」なるオリジナル魔法まで駆使している。