これは興味深い


 「集計結果は(ダイスを振れば振るほど)平均値に収束するのに、勝ち越し期間、負け越し期間については二極化する」っていうのが面白い。
 これはTRPGでもよくある話だ。「今日のセッションはダイス運がいい」「今日のセッションはダイス運が悪い」というプレイヤーはよく見かける。「今日のセッションがダイス運が平均的だ」というプレイヤーはあまり見ない。これは単に印象だけの話かと思っていたけど、実際には数学的に根拠のある話だったということになる。

かなりデッドリー


 シティブックに続くシリーズということで買ってみた。しかし……正直に言ってしまえば、シティブックよりも扱いは難しい本だと思う(以下全て2021年出版初版に基づく)。
 この本が舞台とする場所は「砦、巣穴、隠れ家、洞窟、遺跡、迷路、墳墓、塔…」となっており、D&DAD&Dにおけるダンジョンと屋外の分類に慣れている身からすると「これってダンジョンじゃないか?」と初見で思ってしまった。


 全体を読んでみての第一印象としては、かなり殺意が高い。さすがは(悪?)名高い殺戮ダンジョン「ベア・ダンジョン」を作ったフライングバッファロー社の製品だといえる。これはイメージだけの話ではなく、実際に本文に書かれている。

(本書75ページ)
 パーティが楽々と塔から無事脱出した場合(GMにとっては不面目なことです)(以下略)


 最初に掲載されている山賊の砦ですら、序盤の序盤でいきなり「人糞の塗られた槍が仕掛けられた落とし穴」(P6)なんてものが登場する。ドリフターズ既読のプレイヤーなら震え上がりそうだがご安心を。あの混沌の渦ですら、破傷風についてはルール化されていない。
 その他にも、判定も示唆されず悪の性格の女性PCを乗っ取ろうとするラミア(P49)とか「比較的無害」な巨大蟻の蟻酸を浴びると失明する(P15)とか、とにかくサプリメント全体の殺意が高い。

汎用が厳しい

 さらにいうと、このラミアも巨大蟻も別の意味でも問題である。シティブックのような町の施設と違って、屋外の遭遇戦で扱うモンスターデータというのは対象となるTRPGのゲームシステムに縛られる度合いが強い。ラミアも巨大蟻も、そしてこのサプリメントに掲載された他のモンスターも、既存のTRPGタイトルの既存のモンスターに合わない部分が出てくる(ソードワールドのラミアは他者に憑依したり、不死の存在だったりはしない)。
 そうなるとオリジナルモンスターということになるが、前述のとおりこの本は、周辺状況も含めて敵が極めて手強く描写されている。これをオリジナルデータで設定すると、プレイヤーから見た時の理不尽感が強いのだ。

 巻末の安田氏の解説(P103)でトンネルズアンドトロールズ(T&T)を勧める理由もわからなくはない。T&Tならどれだけ強力なモンスターでもモンスターレートを決めるだけでよく、特殊能力を除けば数値一つしか設定がない上に、そのモンスターレートもパーティの戦闘力から簡単に算出できるから上記の理不尽感が比較的少ない。特殊能力にしても、セービングロールに失敗したら追加ダメージくらいだろう。
 その次がアドバンスドファイティングファンタジー(AFF)なのもわかる。AFFも設定データが少なくてオリジナルデータが設定しやすい。モンスター事典には沢山のモンスターが掲載されており、似たデータの敵を選び出すこともできるだろう……ただし、後述する理由から、そのまま敵のデータを置き換えるのではなく、あくまでも類似データを持つ別の敵としておいた方がいい。

 ただ、実はこのサプリメント。本当に想定されているのはD&Dではないかと思われる。それは、P60の訳注にあるように戦闘で20面ダイスを振るという表現が出てくるからというだけではない。P71に「コンティニュアル・ダークネス」と「ディスペルマジック」、P74に「インビジブル」と「ヘイスト」の呪文が登場する。これらの呪文はT&TにもAFFにもない。これらの呪文が全て登場するのはD&Dだけである。前述の「悪の性格のPC」という表現も、アライメントルールが存在するD&Dに特有のものだ。
 ただし、D&Dを想定しようとすると、敵データのオリジナル部分が厳しいことになる。例えばこのサプリメントの遭遇例13のうち3つが巨大昆虫……巨大蟻と巨大蜘蛛と巨大蜂であるが、いずれも単なる蟻でも蜘蛛でも蜂でもない設定を持っており、D&Dルールブック記載のモンスターデータとも異なる。蟻にも蜘蛛にも蜂にも知性があり、オリジナルの毒を使う上に、生態も一般的なものではない。オリジナルモンスターにしておいた方が良いというのはそういう意味である。
 また、冒頭の山賊のデータは「魔法を習得している盗賊」扱いであり(P9)、これもCD&Dを含むD&Dの複数の版で再現の厳しい要素である。


 そして、この解説で最も苦しいと思われるのがソードワールド2.5への適用の部分である。ソードワールド2.5への適用は「一工夫必要」となっているが、個人的には一工夫どころか基本的にはやめた方がいいと思っている。何故なら、ソードワールド2.5と「ウィルダーネス・エンカウンターズ」は雰囲気が違いすぎるからだ。ソードワールド2.5の雰囲気は、良くも悪くも牧歌的だ。あるいは暗い要素があったとしても、このサプリのような方向性を持った暗さではない。
 ウィルダーネス・エンカウンターズは暗いのではなくて、泥臭い。いかにも古い洋ゲーの雰囲気である。昔のゲームブックD&Dのシナリオが好きな人──つまり私のような懐古趣味の人間ならともかく、この間までキングスフォールを遊んでいたプレイヤーがいきなりウィルダーネス・エンカウンターズに放り込まれたら、困惑では済まないレベルなのは容易に想像がつく。
 解説に掲載された、比較的古いゲームであるロードス島戦記ですら「中立的なモンスターの巣に潜入して殺戮し(あるいは生け捕りにし)、金儲けに使えそうな素材を持ち帰ってこい」というシナリオフックを提示されたら「え?」となるプレイヤーが多いと思う。これは、単にデータが合うとか合わないとかそういうレベルの話ではなく、空気の違いだ。