セッション中に対話できるゲーム?

【TRPG】『打ち合わせ』を活かしたシナリオ作成方法。対話の中でアイディアをまとめる!


 議論の中で話に上がっている「TRPGについて肯定的に捉えている第三者とセッションについて打ち合わせを行う」っていうシチュエーションが、なかなか成立しないと思う。TRPGに対して肯定的ってことは、すなわちTRPGプレイヤーであり、しかも第三者ということはセッションに参加しないメンバーだ。つまり、セッションで卓を囲むメンバー以外で打ち合わせに参加するメンバーを見つける、ということになる。しかし、そんな恵まれた環境でTRPGを遊んでいる人間はそうそういないだろう。2卓以上立卓する大きなサークルで、しかも一度使われたシナリオは二度と別メンバーとはやらない、みたいな規定でもない限りは。


 もちろん、私だってGMとしてプレイヤーから情報収集はする。次どんなシナリオがやりたいのか、どういうPCを使いたいか、どんなシステムで遊びたいか等々。これらを一切事前に確認しないでセッションに臨むことは、まさにコンベンションでもない限り滅多にないだろう。しかし、GMから情報を提供することはあまりない。なぜならそれは普通「ネタバレ」になるからだ。
 当然、上記の議論でもその辺りのやり取りは出てくる。「ゲーム会社の社員が自社ゲームを作るためにネタ出しをする」のと「TRPGのシナリオを作るためのネタ出し」では、状況がかなり違うのだ、と。ただ、コンセンサスを得た上でアイデアをブラッシュアップしていけばいいシナリオができるのは確かで、そのために多くのGMが採る手段は「1つのシナリオを複数の卓で使い回す」ことではないかと思う。公式シナリオでテストプレイの際の卓の動向が紹介されているものもあるが、自分で作成したシナリオについても事前に別のメンツでセッションした経験があれば、プレイヤーがどう考えるかどう動くか、ある程度傾向を掴むことができるだろう。


 昔、NOVA・Rをプレイしている人たち20〜30人が集まってセッションしていた頃は、シナリオ作成者がRLとなり、RL候補者を集めて1回目のセッションをやり、情報交換をした後日を改めて複数卓同時セッション、という手法を取っていた。学ぶところの非常に大きい、興味深いセッション体験だったと思う。
 しかし、私自身は同一のシナリオを別のメンバーで使い回すことは基本的にほとんどしない。というのも、メンバーを想定してシナリオを当て書きしてしまうことが多いからだ(公式リプレイでもしばしばある手法だが)。そのため、一つのシナリオを何度もプレイして経験値を高めていく手法は取ることができない。


 TRPGを遊んでいれば、シナリオの展開というのはGMが作ったとおりに進むものではなく、プレイヤーの反応によって千変万化するものであることは誰もが経験があることのはずだ。とはいえ、プレイヤーがどこまでシナリオの展開にアクティブに関われるか、についてはシステムによる違いも存在する。例えばNOVAなどは、神業というあらゆる判定を覆せるリソースが存在するため、ストーリーへの寄与度は大きい。
 とはいえ、シナリオの作成について打ち合わせとまではいかなくとも双方向のやり取りができる、と断言できるシステムはそう多くなさそうだ。私としては一番に挙げたいのは無印天羅である。*1
 なお、私は無印天羅の熱狂的な信者なので、以下の記述についてはその点を割引いて読んでいただきたい。

無印天羅の場合

 無印天羅のPCの行動は「因縁」によって規定される。因縁に沿った行動を取ることでPCは「気合」を得、セッションで活躍できる。そしてこの因縁は、プレイヤーが設定し、GMが許可する(ここが零以降と異なる。零以降の因縁は基本的にGMが提示する)。これによって、GMは「プレイヤーがセッションをどう捉えているか」をはっきりと目に見える形で確認できるのだ。


 わかりやすく例を挙げよう。「PC1の故郷が○○国に雇われた××というサムライによって滅ぼされ、家族が殺され、妹が行方不明になった」というシーンがあったとする。今のゲームのほとんどは、この時点でPCのシナリオに対する関係性をGMの側から提示する。「生き別れになった妹を探す」などだ。
 しかし、無印天羅ではこれをプレイヤーの側から提案する。
「○○国を打倒する」「サムライ××を倒す」「家族の敵を討つ」「妹を探す」「故国を復興する」などなど。目的ではなく感情でも因縁を設定できるので、パターンはさらに広がる。同じサムライ××への因縁でも、「サムライ××への憎悪」と「サムライ××を超える」では意味合いが全く異なる。
 そして、プレイヤーから提案された因縁で、GMはプレイヤーが次にどのようなセッションを望んでいるのかを推し量れる。「サムライ××を倒す」と因縁を取っているのに「サムライ××がいつの間にか野垂れ死にしていた」だの「NPCのサムライに倒された」だのというシナリオは(さらなる変化球を用意しない限り)プレイヤーの希望を無視していることになる。それならば最初から因縁の取得を許可するべきではない。
 逆に「故国を復興する」だとか「妹を探す」という因縁を取得したならば、大袈裟な話サムライ××は二度と出てこなくてもいい。出したところでPCは因縁ロールができるわけではない。プレイヤーはサムライ××との絡みを望まなかったということだ。
 一番まずいのはGMが「サムライ××を倒す」の因縁の取得を許可していながら「××の再登場は10シナリオ先で、それまで因縁を昇華することもできず無視することもできない」というパターンだ。無印天羅のPCが保持できる因縁の数には限りがあるため「持ってはいるけど使えない」という因縁が一番プレイングを圧迫する(ルールブックではこれは「死んでいる因縁」と称される)。
 プレイヤーが因縁を設定することで自分なりの希望を提示し、GMがそれを許可することで先のセッションのビジョンに反映させ、セッション内のロールプレイを通じて因縁が次の因縁へと変化する。そうやって「因果は巡る」。これが無印天羅のセッションだ。また同時に「ブレーキのないF1カー」と評された理由もそこにある。この巡る因果のどこかが狂うとセッションがガタガタになり、他のシステムと違って軌道修正がほとんど効かないからだ。
 ともあれ、無印天羅のセッションはプレイヤーとGMの双方がシナリオの展開として思い描く未来のビジョンを提示し、それを擦り合わせていくのだと考えると、セッション内で打ち合わせを行っているのに近い。今の普通のゲームの場合は無印天羅に比べるとGM側のセッションに対する支配力が強いはずだ。その方がトラブルが発生した時収拾させやすいからである。 

*1:このブログでは今まで「旧天羅」と呼んできたが、無料版が公開され天羅・零や天羅WARよりも入手しやすくなった今となっては、「旧・新」で呼び分けるのも不適切かと思うので、これからは「無印天羅」と呼ぶこととする。