もう一つのバブルガムクライシス?

ライディング・ビーン [DVD]

ライディング・ビーン [DVD]


 ウッドヘッド氏が挙げたもう一つのタイトル、“ライディングビーン”。この作品、バブルガムクライシスとは姉妹作といってもいいのではないだろうか。キャラクターデザインは同じ園田健一氏。製作スタッフも製作時期もほぼ同じである。
 なお“おたくのビデオ”のことも考えると、アメリカ人は園田健一氏が大好きのようだ。昔のことだが、バブルガムクライシスをTRPG化した作品の北米原書版をイエローサブマリンで見かけたこともある。原作は日本の作品なのに、ゲームデザインもパブリッシングも全部アメリカというTRPG作品である。
 それはさておき。ライディングビーンそのものの知名度はそれほど高いと思えないが、この作品には後継作品が存在する。“ガンスミスキャッツ”だ。はっきり言ってしまえば、ライディングビーンはガンスミスキャッツのパイロット版的な作品なのだ。
 主人公はガンスミスキャッツに登場するビーン・バンデット。ラリー・ビンセントも登場するが、ガンスミスキャッツではインド系とされ、黒髪・褐色の肌である彼女が、こちらでは金髪碧眼。しかも役所は「ビーンの相棒」である。ガンスミスキャッツでビーンがしきりにラリーを勧誘するのは、一種のセルフパロディと思われる。ググると版権の関係でこうなったらしいという噂話が引っかかる。真偽のほどはわからないが……。また、この作品にはまだそれほどメジャーではなかった頃*1の林原さんが登場している。

奇跡的な出会い

 この“ライディングビーン”もまた、個人的な思い出と強く結びついた作品だ。


 まず、昨日紹介した“バブルガムクライシス”だが、8巻の“スクープ・チェイス”が最終巻である。昨日も書いたとおり、その後製作スタッフは別の作品に携わっている。シリーズそのものは別の制作会社が引き継ぎ、事実上の続編を発売した。“バブルガムクラッシュ”である。ところがこの作品が、どこにも見つからなかった。行きつけの店には何故か「2巻」だけがあり、1巻と3巻が見当たらない。
 行きつけといっても、当時私が回っていたセル・レンタルショップは合わせて数十軒はあっただろう。「店頭に見当たらないのなら販売店で注文すれば」と思うかもしれないが、当時の私は実家暮らしで「入荷の連絡」が受けられなかった。もちろん、まだ携帯電話はおろか個人のメールアドレスすら一般化していなかった頃の話である。そうなると、新製品しか置かないセルショップよりむしろレンタルショップの方が可能性は高かったが、こんなマイナー作品のリクエストはもちろん通らない。私は半ば諦めていた。


 ところが、奇妙なところに縁がある。


 ずっと後、私はとある大学の、とあるサークルに入ることになった。もしかしたらTRPGをやっているかもしれないと一縷の望みを託してのことだったが、そこではTRPGのTの字すら見かけることはなかった。歓迎イベントと称して他の部員や新入部員と一緒に部長の家へと招かれ、レトロアニメの劇場版鑑賞会を徹夜で敢行することになって、私は正直困惑していた。当時の私はレトロアニメにはほとんど興味がなかったし、素地もなかったからだ。
 部長は穏やかで紳士的な人格者だったけれど、レトロアニメについて語る時だけは別人のように豹変した。夜を徹して続くマシンガントークに憔悴した新入部員の様子を知ってか知らずか、部長は近所のレンタルビデオ屋に繰り出して別のビデオを借り、さらに鑑賞会を続けようという。
『まだやるんですか……』その言葉が喉まで出かかった私の前に、唐突に“幻の作品”が姿を現した。
 それまでどれだけ探しても見つからなかった“バブルガムクラッシュ”の1巻と3巻、そしてその隣に“ライディングビーン”。部長の家の近所のレンタルビデオ屋は、実は知る人ぞ知るマイナーアニメ作品の宝庫であったらしい。
 他の部員を前に会員手続きをするわけにもいかず、日を改めて私は店に出向いた。結局その店に行ったのは、その2回とビデオを返しに行った3回だけ。以後は他の部員も含め、誰も部長の家に招かれるようなことはなく、そこを訪れることもなかった。そして、他の店でこれらの作品を見かけたことも一度もない。そういう意味では、まさに奇跡的な出会いだった。

幻はなぜ幻になったか

 “バブルガムクラッシュ”の1巻と3巻については、一見して、なぜ他の店で見かけなかったかの理由がはっきりとわかった。要するに作画も脚本もダメダメだったのである(笑)。これは後年知った事情だが、2巻は元々前シリーズの9巻として企画され、作業が進んでいたものだったらしい。明らかに1巻や3巻に比べてクオリティが高かった。
 話の流れを見ても、1巻と3巻は旧作の悪役が唐突に復活したり、意味ありげなことだけ言って回収されない伏線だらけだったり、まぁ2回目を見ようという気にはならない出来だった。


 ところが、キャラデザ繋がりでついでに一緒に借りてきたライディング・ビーンは違った。明らかに園田さんが好きなものを書いてるんだろうな、というのが見ているだけでわかったのだ。
 “ガンスミスキャッツ”ではラリーがバウンティハンターの立場なので犯罪者に相対する作品になっているが、“ライディングビーン”はビーンが主役でラリーがその相棒の、犯罪者だろうとなんだろうと逃がす走り屋の物語でありピカレスク風の作品だ。冒頭からいきなり強盗を現場から逃がすエピソードで、むしろ警察は敵対的な立場であり、登場するパーシー警部もビーンを称して「轢き潰してやる」と怪気炎を上げているくらいである。この作品でラリーが使っている銃がCz75だったかは記憶にないが、作中の台詞でラリーが「44マグナムのKTWでいいかしら?」とビーンに問うシーンがあるので44マグを持っていることは間違いなかったはず。
 なお、後年“ガンスミスキャッツ”は単独でOVA化されているが、そちらにはビーンは登場しないし、ラリーの配役も交代している。こちらはこちらで、悪役がロシア人の女殺し屋というのがインパクト抜群で、私にとって怖いロシア人女性といえばバラライカ登場までは彼女のことだった。


 昨日書いた“バブルガムクライシス”については、いつか書こう書こうと思っていたエントリだった。“ライディングビーン”は逆で、長いこと忘れていたがウッドヘッド氏の言葉とともに古い記憶が呼び覚まされた、そんな作品である。

*1:らんま1/2の放映開始とほぼ同時期。