さて、あなたがアニメオタクになったきっかけとなった作品はいったいなんという作品だろうか。
この手の話題、時折まとめなどでも見かける。ハルヒ? けいおん? もっと古い人ならうる星やつら? それともガンダム?(ガンダム見てるからってオタとは言いにくいかもしれないが)
私自身がアニメオタクかどうかはともかくとして、そのきっかけになった作品があったとすれば、それはセーラームーンでもCCさくらでもない。昨日ウッドヘッド氏が言及していた“バブルガムクライシス”である。はっきり言って、バブルガムクライシスがきっかけでこの道に踏み込んだなんて人間、そう多くはないだろう。さらにいえば、私と同じ道のりを辿ってこの作品にたどり着いた人間など、恐らく他に誰もいないのではないだろうか。
これが、TRPGゲーマーの“サガ”か……
話せば長くなるが──
私はアニメより前からゲームにハマっていた子供だった。散々「コロコロ少年」で書いてきたとおり、小学校時代には既にTRPGにハマっていたと言っても過言ではない。ただ、私はごく普通の一般家庭に生まれ育った子供であり──端的に言えば、小遣いには限りがあった。
当時のTRPGはボックスセットで5000円クラスが当たり前であり、今のTRPGに比べてコストパフォーマンスが桁違いに悪かった。しかも、ちょうど日本のTRPGが市場として成長しかけていた頃でもあり、出版数は鰻登りに増えつつあった。子供の小遣いで賄いきれる規模ではない。だが「TRPGを集めたい」という欲求はとめどない。プレイ回数が限られる環境だっただけに、せめてルールブックだけでも、という思いがどうしても抑えられなかった。*1
そんな子供(いや大人も含めてだ)が少なからず取るであろう手段を、私も取ることにした。自分のコレクションに「縛り」をかけたのだ。収集する作品にルールを設け、それ以外についてはコンプリートにはこだわらないことにした。そうやって出費額を押さえつつ収集欲を満たそうとしたのだ。*2
私がかけた縛りは作品の“ジャンル”、“サイバーパンク”というジャンルである。同じジャンルでも“ファンタジー”で縛ってしまうと縛りをかけた意味がないほど作品数が増えてしまうし、“スペースオペラ”で縛るとトラベラー他数作品しかなくなってしまう。サイバーパンクも似たような状態だったが、ジャンルとして(TRPG業界としては)新しかったので興味があったというのもある。この縛りがなかったら、発売日にNOVAの初版を買うこともなかっただろう。
ここまでが「前置き」だ(笑)。
サイバーパンクへの道
私が最初に購入したサイバーパンクRPGは「メタルヘッド」。買って最初に困ったことが「イメージが掴めない」ことだった。当時はまだJMも公開されておらず、ブレードランナーも今ほど有名ではなかった。攻殻も単行本が出るか出ないか、劇場版などまだ影も形もなかった頃のことである。
そんな時、雑誌のインタビューでデザイナーの高平鳴海さんが答えていたのが目に留まった。曰く「メタルヘッドの参考作品は“A.D.POLICE”だ」と。とにかく映像的な資料に飢えていた私は、血眼になってその作品を探した。当時TVアニメしか知らなかった私が「OVA」なる存在を知ったのもA.D.POLICEが最初だった。
(これはリメイク版)
いわば私にとってのサイバーパンクのファーストコンタクト、ファンタジーでいえば指輪物語的な作品がA.D.POLICEだったわけだが……この作品、ひたすら暗い(笑)。1〜3まであるのだが、どれもバッドエンド。結末だけでなくそこに至るまでの途中経過も、空の見えない都市の情景も(恐らくブレードランナーへのリスペクト)、どれもこれも暗い。つまり、サイバーパンクムーヴメントが生まれた頃の文化的背景をそのままに活写した、基本に忠実な作品ともいえるわけだが……。
「ライバルの重役に『お前は生理のせいで仕事が出来ない』と言われた女性重役が、子宮を機械に変えたことをきっかけに殺人鬼と化す“ザ・リッパー”」
「殉職した警官が対暴走アンドロイド用の重サイボーグとして蘇るが、生の実感を失って薬に溺れ、最後に自らも暴走する“舌を噛む男”」
どれも後の「攻殻機動隊」などには見られない「肉体を機械に変えることで人間性を失っていく」というのがメインテーマになっている。*3このテーマがサイバーパンク作品のテーマから消えていった理由は他でもない。「実際に技術が進んで人工臓器が一般化し、研究が進んでいったことで、テーマ自体がナンセンスであることが立証されてしまったから」である。*4以降、最近のサイバーパンク作品のテーマは「広がるネットと人類の関係性について」がテーマへと変わっていく。その嚆矢はもちろん攻殻だ。なお、A.D.POLICEにはネットにアクセスするシーンはほとんどない。
なお、このOVA版A.D.POLICE。パトレイバーの主人公コンビの中の人が2話で「警官役」として共演してたり、暴走サイボーグの中の人が若本さんだったり、*5そういう意味でも今から考えると興味深い作品である。
この作品、サイバーパンクというジャンルを知るための助けという意味では参考になったが、作品自体を好きになれたかと言われれば極めて疑問。それが正直な感想だった。
だが、一通り全てを見終わった後で気になったことがあった。全てのエピソードの冒頭に「Another story of Bubllegum Crisis」というテロップが出るのだ。最初は雰囲気付けかと思ったが、どうやら本当に「バブルガムクライシス」という作品があるらしいと知り、私は今度も八方手を尽くして探し出した。
──そしてこれが、私のアニオタへの記念すべき第一歩となった。
女必殺仕事人
両作品とも後にリメイクされているので、リメイク後の作品はそれなりに知名度もありそうだが……バブルガムクライシスをサイバーパンク作品と呼べるかというのはかなり微妙だ(笑)。
A.D.POLICEのメインテーマだった肉体を機械に置き換えるというテーマは特に存在せず、主人公たちは(かなり大雑把にいうと)パワードスーツを纏って暴走アンドロイドを狩る仕事人である。A.D.POLICEではタイトルそのものであり、アンドロイドと激闘を繰り広げていたアドヴァンスドポリスはこちらではただのやられ役で引き立て役。機械から伸びるケーブルが触手さながらにうねうねするあたりとか、性産業に従事するアンドロイドが出てくるあたりはかなりパンクなのだが……。
そして、このバブルガムクライシスの8巻でついに「青空の広がるサイバーパンク」という世界が繰り広げられ、カルチャーショックを受けたのは前にも書いたとおりである。
で、なぜこの作品がアニオタへの第一歩だったかというと。
この8巻目「スクープ・チェイス」を作ったメンバーが、「天地無用! 魎皇鬼」と「ああっ女神さまっ」のOVA版を製作するスタッフとなり、*6私はそのままそちらにのめり込むことになったからだ。
OVA 天地無用!魎皇鬼 第1話(公式Youtubeへのリンク)
今は考えづらいかもしれないが、あの時代はTVアニメよりOVAの方が遥かに作画・脚本レベルが高かった。特に作画については「スーパー・ハイクオリティアニメ」なんていう言葉自体が売り文句になっていたくらいだ。「スクープ・チェイス」はシリーズの中でもレベルがずば抜けて高く、そのスタッフが上の2作品を手がけたと聞いて、レベルの高さにさもありなんと納得した記憶がある。*7
以来私はOVAにハマる。“ソルビアンカ”“BurnUp”“万能文化猫娘”“吸血姫美夕”などなど……。TVアニメとは違い、恐らく普通の子供には存在も知られていなかったと思われる作品ばかりだ(その後メジャーになったものもある)。ゆかなさんのデビュー作“モルダイバー”も確かこの頃の作品。サイバーパンク的な作品としては“アミテージ・ザ・サード”なんてのもある。
あの時あのインタビュー記事を目にしていなければ、A.D.POLICEを探すこともなく、ひいてはバブルガムクライシスを知ることもなく、私がアニオタになることも──まぁ、遅かれ早かれなったかもしれないが(笑)、恐らくそれはずっと後のこと、きっかけはエヴァだったりしたことだろう。私にとっては、今に至るアニメへの導線を引いたのもまたTRPGの存在だったのである。
なお、昨日話題に出てきた「ライディングビーン」については、また明日。
*1:余談だが、あの頃の自分の精神状態を知っているだけに、ソシャゲが子供から搾取する図式が許せない、というのはある。当時私が購入したTRPGのルールブックのいくつかは、今でも私の手元にある。今のソシャゲが20年後に「大人になった子供」に残せるものがどれだけあるだろうか?
*2:結局大人になってから他のジャンルも集める羽目になったのだが……。
*3:サイバーパンク2020でもシャドウランでもこのテーマがシステム化されている。
*4:NOVAに該当するルールがないのはそのため。
*5:若本さんボイスで「俺を殺してくれェェェェェ!!」と絶叫するシーンはマジでトラウマものだった。
*6:ソースは当時の雑誌記事などだが、今読めるものだとこの辺とかこの辺とか。
*7:逆にOVAで人気になった作品が後にTVアニメ化されると、脚本・作画のレベルがメタメタになることもあった。