- 作者: 北沢慶/グループSNE,輪くすさが・真嶋杏次
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2018/07/20
- メディア: 文庫
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さて、昨日エントリを分けるといった「フェロー」について。
ソードワールド2.5のルールブックをお持ちでない方のために説明すると、これは「SNSなどにアップされた他プレイグループのPCを使用できる」というルールである。
以下、かなり辛口の感想になりますので折り畳みます。
多分、ソシャゲの「サポートシステム」あたりを参考にルール追加したんだろうな、と……。SNSも活用するとかカッコいいよね! みたいな。
これ、同じグループSNEの大先輩が過去にやって大失敗してることを、製作者たちは知ってるんだろうか。何を言ってるかというと、ロードス島戦記リプレイ2と3に出てくる「読者投稿PC」のことなんだけど。
TRPGのPCというのは、そのプレイグループで共有された「セッションの記憶」と強く結びついている。設定も何もかも含めて。だからこそ「サンプルキャラクター」を使っても、それは各々異なるセッションの体験を経て「別人」になっていく。
他のプレイグループで使用されたPCというのは、その「共有された記憶」を持たない。つまり設定があるだけのNPCと何も変わらない。しかも、セッションにおいてはGMもプレイヤーも「今そこにいるPC」を優先する(しなければならない)から、外部から持ち込まれた「フェロー」とやらの優先度は下がる。「強すぎるフェローは使われにくいです」「箸にも棒にもかからないフェローは使われません」との記述があるが、そんなものは当たり前の話で、もしPCとまったく同等の強さを持たせたとしても、やはりPCの活躍の場面を奪ってしまう、非常に扱いに困る存在になる。
私は他のゲームのデザイン思想から、SNEはセッションの時間を短くしたいのだろうという意図を読み取っていたが、フェローの存在はそれに真っ向から反する。演出するキャラクターが増えれば、その分当然セッション時間は延びるのだ。
人手不足です
そもそも、何故フェローが必要なのか。実はこれを明記すると、ソードワールドの構造的欠陥を指摘することになるので、ルールブック内で言及できなかったのではないかと思う。ソードワールドは、セッション成立に必要な最低人数が多いのだ。
このゲーム、2.5版になっても相変わらず「必須技能」を明記していない*1が、実はリサーチフェイズだけでもセージ、シーフ、レンジャーがいないとかなりの確率で詰む。これらは互いに「代替不可能な能力」を持っているため、*2GMがこれらを必須とするシナリオを組んだ時点で、いないと話が終わってしまうのだ。これが他社のゲームだったら、セッション前に必要な技能を指定して摺り合わせるなどの工夫で詰みを回避できるが、このゲームにはその摺り合わせができる仕組みがまったくなく、推奨もされていない。
また、戦闘用とされる技能も「戦闘時の数値の高低」を弄るだけではない能力を持ち、これらも代替不可となるシチュエーションがあり得る。特に、主に魔法系の技能は「GMは持っていると想定していたのにPCが誰も持っていない」ことで、やはりシナリオが進行困難になる。サーチバルバロイなどが典型だ。
「複数取れるのだから一人で複数持てば」という人もいるかもしれないが、これらは活躍シーンや必要とするリソースが被っている。リプレイなどでも、一人で3つ以上の魔法系技能を持ち、かつ全てを活用しているPCはほとんどいない。つまり構造的に人が足りなくなりがちなゲームなのだ。
そこでフェロー、なのだろう。
実はD&Dにも「ヘンチマン」という、人を雇って能力を使わせるというルールがある。例えば黒野さんのラッパンアスクにも、ラシードというシーフが登場する。しかし、この雇われ人は基本的に演出されないか、あるいは演出は最小限に抑えられる。金で雇われただけの存在なので当たり前だが。これは「プレイヤーとDMのリソースを使用しない」というメリットがある。リムーブトラップするだけ、危険感知するだけの存在だ。これなら話は分かる。*3
フェローはそうではない。そこにはプレイヤーとは縁もゆかりもない他人が設定したデータが公開されており、これに応じてプレイヤーとGMの演出リソースを使うことを求められる。自分のPCやNPCが他にもいるにも関わらずだ。
するとどうなるか。冒頭紹介したロードスリプレイではどうなったかというと、ストーリーとはまったく関係なく『「黄金剣を知っているか!」と叫びながらフルプレートを着て海に飛び込むアホな読者参加キャラ』という演出しかやりようがなくなったのだ。恐らく、投稿者にはもっと深い設定があったのだろうが、黄金剣とはなんなのか、彼がどういった人物なのかはシナリオにまったく生かされなかった。当然だ。セッションにおいてはPCを優先しなければならない。「観戦モードの生みの親」ですらそうだったのだ。
しかも、このフェローは「絶対に不具合を蒙らず、死ぬこともない」とされている。*4他人のキャラを使うのだから当然だが。これを読んで私が最初に考えたのは「フェロー雇って弾丸避けにするかー」だった。当然デザイン意図には反するのだろうが、本来のデザイン意図がどこにも書かれておらず、読み取りようがない。
それどころか、製作スタッフによるサンプルフェローすら紹介されていないのだ。
「共有される記憶」。それこそがセッションの核心だ。だからこそ、他社のゲームにおいては「閉じられたセッショングループの中で完結しない」リソースは「経験点チケット」のような「客観化して数値化できるもの」に限っていたのだ。
ちなみに、先述のロードスの教訓を生かし、続編のクリスタニアにおいては「読者参加キャラをNPCではなく、各々のプレイヤーがPCとして使う」という方針転換があった。これは成功だった。なぜなら、そのキャラクターは各々のプレイヤーを通じて、その場で新たに共有される記憶を持ち、セッションを進行できるからだ。
思いつきで新しいアイデアを突っ込むのはいいが、それ以前に「何故先人は同じことをしなかったのか」。他社ゲームを学べとは言わない。せめて自社の大先輩の事例くらいは学んでほしかった。
r ‐、 | ○ | r‐‐、 良い子の諸君! _,;ト - イ、 ∧l☆│∧ よくライターやクリエイターが (⌒` ⌒ヽ /,、,,ト.-イ/,、 l |ヽ ~~⌒γ⌒) r'⌒ `!´ `⌒) 「誰もやらなかった事に挑戦する」というが │ ヽー―'^ー-' ( ⌒γ⌒~~ /| 大抵それは「先人が思いついたけど │ 〉 |│ |`ー^ー― r' | │ /───| | |/ | l ト、 | あえてやらなかった」ことだぞ! | irー-、 ー ,} | / i | / `X´ ヽ / 入 |
まぁ、次の次のサプリあたりでは存在そのものが抹消されてそうだが……。