これはすごい


 謎の技術すぎる……。

昨日の続き


 昨日の続き。もちろん辛口、かつパズルのネタバレもあるので折り畳みで。











・本書の肝であるパズル部分についても、それを成立させるための条件に無理がありすぎる。「ラクシア世界は日本語や英語が使われている訳ではないから言語依存のパズルはすべて排除した」と後書きにあるが、ではラクシア世界には「準完全数」(53ページ)、xやyやzという多元方程式の概念やチェッカーボードは存在するのか、してもいいのかについてはあっさりとスルーしている。おまけに「スーパーマーケット」などという用語まで当然のように登場する始末である(余談だが、スーパーマーケットが歴史上はじめて登場するのは1930年代である)。
 しかも「パズルの難易度は学内の地位の高さに比例するので、外部の人間である冒険者に解決を頼みたい」って……知力や魔力じゃなく、学内の地位? 私なら「じゃあまず学科長を降格しろ」と主張するだろう。本書では誰も指摘していないが。
 ちなみに、本書を最後まで読んでも、なぜパズルがこのような不可解な法則で出題されていたかについては、理由も根拠もまったく明らかにされない。ラスボスによれば、パズルを出題していたのは憑代の特性だというが、ではなぜそんな面倒な憑代はやめて他の憑代に変えなかったのか(学科長にとりついた方が遥かに有用だったはず)など、シナリオの核になる部分については完全にスルーである。
 もっと言えば、パズルを主体とすることが決まっているシナリオで、PCたちよりパズルを解くのが得意な(とPCが推測するであろう)教授や学生がたむろする学院を舞台にするのは悪手以外の何物でもない。「頭のいい俺たちがやるよりお前たちが相手した方がパズルが簡単になるからお前たちがやれ」というのは、PCの矜持や誇りをまるで考えていない申し出である。


・パズルそのものにもツッコミどころが満載だ。まず最初のパズルからして、私がGMだったらこの解法は認めない。というか、不完全である。何故なら、この問題は「二つの長方形を直線一本で二等分する」問題ではなくて「二つのケーキをナイフを一回だけ入れて切り分ける」ものだからだ。「二つの図形の中心を結ぶように直線を引く」では答えとして十分ではない。「ケーキの中心を求める方法」がわからないからだ。これが長方形なら、対角線を引いて交点を求めれば中心は求められるが、ケーキの中心はどうか。対角線を引いていいのか。そういったルールについて一切言及がない。長方形でなくケーキを前提とする問題であるならば、むしろ最初にプレイヤーが言った「水平に切る」が正解だと思う。


・最初からしてこうなので、次以降も言わずもがなである。オンラインセッションで「紙テープと糊と鋏を用意しろ」と言い出す下りに至ってはもう……。


・また、これは私の個人的な感覚だが、ラスボスについてのGMの言及が非常に気になった。このシナリオのラスボスは、当初3人目の助っ人として登場するNPCに憑依している。ところが、このNPCについてプレイヤーから聞かれた時、GMは「このNPCには戦闘能力はない」と断言しているのだ。これはアンフェアではないか? もちろんここで戦闘能力があると答えてしまうとプレイヤーから勘繰られるので、ないと答えるしかないのだが……。


・このリプレイの後書きにある「TRPGとパズルについて考え続けて30年」というフレーズを目にした時の私の脱力感がご想像いただけるだろうか。というのも、割と初歩的なミスを犯しているようにしか思えないからだ。単純にパズルの数が多すぎるのである。
 計算してみよう。このリプレイはエピソードが3話あり、それぞれにパズルが3つある。パズル1回につき何故か戦闘も1回あるので、セッション1回についてパズル3つ、戦闘3回だ。GMは途中で「想定しているセッション時間は4時間」(13:00~17:00)と言っている。
 では、GMはパズル一つの所要時間をどう計算しているか。助っ人が来るまで一人当たり5分。二人目で答えがわかるので10分……は計算が甘い。パズルの説明にかかる時間と回答を説明する時間がかかるからだ。それぞれ5分として20分。つまりパズルだけで1時間。戦闘も1回20分かかるとすると(これでもかなり短い)、戦闘とパズルだけで2時間かかる計算である。つまり、導入や他の状況説明に割ける時間が2時間しかない。しかもこれ、ただでさえ長くなりがちなオンラインセッションである。これでは「設定を拾う時間などない」と答えざるを得ない。しかし、TRPGに本当に必要なのはむしろそちらなのだ。著者自身が後書きで「TRPGの華はキャラクター性でありロールプレイングの楽しみ」と書いているではないか。このセッションに果たしてそれらが存在するだろうか。シナリオの進行に関係ないおまけパズルなど出している場合ではないはずだ。

 パズルを主題にしたセッションといっても、パズルを沢山出す必要はない。要はセッションの肝にパズルが使われていればいいのだ。ならば、1セッションにインパクトのあるパズルを一つ用意すればいい。戦闘をセットにする必要もない。時間を長引かせるだけだ。
 そもそも、せっかくファンタジーRPGでパズルをやろうとしているのだ。機械的にパズルを連発するより、世界設定に組み込んだ形でパズルを出した方が雰囲気が出る。

 例えば、一つ目のパズルを使うならこういうセッションが考えられる。
「カールの生まれ育った村を治める領主が高齢で、今にも亡くなろうとしている。領主には二人の息子がおり、それぞれ長方形の領地を治めている。領主は二人の息子に『二人の領地を一本の直線で分割し、等分せよ。この課題を解けるものにしか家督は譲らない』と言っている。息子たちは頭を抱え、旧知の冒険者に助けを求めた……」
 三つ目のパズルを使うならこんなのはどうだろう。
「孤児院を出たナディーンを育ててくれた教会で、信者たちの寄進が盗賊に盗まれてしまった。どうやらナディーンと同様孤児院から教会に引き取られた者が手引きしたらしいが、手口がわからず口を割らない。手掛かりは二枚のコインだけ……」
 
 キャラクター性を生かし、ロールプレイングを楽しみ、かつパズルをセッションの主題に据えるというなら、最低でもこんな感じでなくては、キャラクターの魅力もパズルそのものも全く印象に残らないだろう。
 私のアイデアは凄いだろう、などというつもりはない。これは、カール、リタ、ナディーンの設定と、パズルを組み合わせた三題噺のようなものだ。得意なGMなら、私なんかより遥かに素晴らしいアイデアをすぐに考え付くはずだ。


・長くなってしまったが、結論は前の「滅びのサーペント」と同じである。このリプレイ、反面教師としては役に立つ。やってはいけないことのオンパレードである。ただし、一つだけ誤解を呼びそうなところがある。本書はTRPGにパズルを組み込む手法に問題がありすぎるので「これなら俺の方が上手くできるわ」というGMが多数出そうなところだ。その認識は恐らく正しいが、それはそれとして、パズルを巧みにセッションに組み込む力量があるGMなら、パズルなしでも優れたセッションができるはずだ。