やっとみんな会えたね(4年間)


 「やっとみんな会えたね」……開口一番いきなり自虐で大草原。


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だからパズルはダメだと


 清〇氏の新作リプレイ。しかも題材がパズルとあっては、買わないわけにはいかなかった。
 例によって例のごとく辛口なので折り畳む。苦手な方はここでブラウザバックで。














 このリプレイへの感想として、私の結論は冒頭に書いてしまおう。前にも触れたことがあるが、私はTRPGのセッションでパズルを解かせるのは絶対反対である。
 一つ目の理由は、必要になるのがPCではなくプレイヤーの能力だからだ。読み書きがやっとのバーバリアンでもプレイヤーの頭脳が明晰ならあっという間に解けてしまうし、賢者の学院のエリートでもプレイヤーがパズルを苦手としていればいつまでも解けない。
 二つ目の理由は、パズルを解くことが、私がTRPGの目的だと考えている「物語の生成」に全く寄与しないからである。パズルを解くこと自体にはPC同士が協力し合う要素もなく、基本的に、パズルが面白かろうがつまらなかろうが、物語の面白さには全く関係がない。
 三つ目の理由は、これは本書の前書きでも触れられているが、パズルが解けなかった時にプレイが停滞するからである。

 一方で、複数人参加が前提のTRPGでは、謎解きに詰まり、時間を浪費することは大きな問題です。それぞれのプレイヤー、そして、GMにはそれぞれの都合がありますから、1回のセッション(ゲームのために集まり、一つの物語を遊ぶこと)時間は限られています。謎解きばかりに時間を空費すると、物語(シナリオ)を終わらせることすら難しくなるかもしれません。(本書8ページ11行目)


 と、ここまで書いておきながら、実はこの前書きには「時間を浪費すること」への具体的な回避策については一言も言及がない。リプレイ本文が実例集だと書かれているだけだ。本来こういう文脈であれば「回避策は〇〇である。以下リプレイで実例を示す」となるはずだが、この流れだと本文を読まないと回避策そのものがどういうものなのかがわからない。
 ちなみに、その回避策というのも割ととんでもなくて「NPCにパズルを解かせる」というものである。それも「最初はノーヒントな代わりに強いNPCが助力してくれる、次はヒントがある代わりにNPCが弱くなる、その次は答えを教えてくれる代わりにNPCの助っ人がなくなる」というものだ。


 その「強いNPCが手助けしてくれる」のを、自力でパズルを解いた「プライズ(報酬)」扱いにするのやめようよホントに。


 なんで自分のPCの見せ場をNPCが奪っていくのが「報酬」なんだ。水野氏がロードスやってた頃から「観戦モード」と揶揄されてたのに、全く進歩していない。これ、フェローのルールが追加された時に嫌な予感がしてたけど、公式がそのまま最悪な使い方してくるの本当に草。
 この点が、本書の二番目のツッコミどころだ。ちなみに一番目は言うまでもなく本書のタイトル。“魔域”×脱出て……。
 さて、以下はリプレイそのものへのツッコミになるが、パズルそのものの解法に対するツッコミは、エントリが長くなったので次回に。


・最初に驚いたのが、これがオンラインセッションだということだ。
 ハァ!? オンラインセッションでパズル!? そんなもの、プレイヤーの頭脳ですらなく、セッションやりながら答えをググれば終わりじゃないか! なお、本書に収録されているパズルをググってみたが、検索の仕方にもよるものの、そのまま答えが見つかるものが幾つもある。


・「ロングキャンペーンにするとっかかりになりそうなネタがいくつも。もったいないと言えばもったいない……けど拾う余裕はないなあ」いや、パズルやってないでそっち拾えよ……。


・「《小舟びしょびしょ亭》で今晩の飯にも困っている状態」「ひどい名前だなあ」「僕が決めた名前じゃないんでね」相変わらず人のネーミングセンスとか揶揄することは忘れないんですね先生……。


・PCへの最初の依頼はなんと「学院の教授に食料を届けろ」というもの。もちろん学院は魔物が出る訳でもなく、危険な場所でもない。文字通り本当にただのお使いである。プレイヤーにも「荷物持っていくだけだし」と言われている。初心者がこれを読んだら「へぇー。ソードワールド2.5の冒険者は、危険も何もない弁当運びまでやるんだ」と感じてしまうだろう。

 これは著者の非常に悪い癖だ。前にこのブログで触れた「ザルドルの闇に沈む」でもそうだったが、本当にそのシナリオで解決しなければならない問題を依頼に持ってこず、別の依頼を用意し、シナリオの舞台となる場所まで誘導しようとする。
 種明かしをしてしまうと、この後の展開として「弁当を届けに行った学院で魔域が発生し、教師や学生が巻き込まれて大変な事態に陥っているので、それを解決する」というのがシナリオの主題。これを読んだGM経験者なら、普通は、教師や学生の関係者を依頼主にして「家族が学院に行ったまま戻ってこないので、何が起きているのか突き止めて、助けてほしい」という依頼にするだろう。むしろ、何故しないのかが謎だが、そこは著者自身が言及していないので推測するしかない。依頼を蹴られるリスクを減らしたいのかと思ったけど「弁当を届けろ」という依頼の方が蹴られるリスクは高そうだ。依頼型とホットスタート(巻き込まれ型)のハイブリッドな導入にしたいのかな、という推測も、結局このシナリオでも別の依頼主を用意して報酬を用意する羽目になってるので、二度手間だ。
 可能性として高そうなのは「事前に対策されたくなかった」という理由だ。「魔域を何とかしろ」という依頼なら、当然事前にそれに関する情報を集めて、対策を練った上で向かうだろう。普通はそれが望ましいはずだ。しかし「めんどくさいからこの屋敷燃やそう」とか「人質もろとも精霊魔法で塔を倒壊させよう」なんていうプレイヤーがいたりすると、事前準備されることにトラウマがあるのかもしれない。
 さらにここで考慮したいのが、プレイヤーの立場格差である。本書の著者は、所属する会社内では最古参に近い、やにおさんがいうところの「強い立場の人間」である。強い立場のGMに、弱い立場のプレイヤーからはシナリオの問題点を指摘しづらい。例え気づいていたとしても、だ。


 こんな迂遠な方法を取るデメリットは当然あり、シナリオの展開には非常に無理がある。最大の問題は、ほぼ強制的に二つの依頼をダブルオファーする形になっていることだ。これ、プレイヤーは気づいていてスルーしているのか、気づいていないのかわからないんだけど、通常冒険者にしろ何にしろ「一つの依頼を遂行中、未完了の状態で別の依頼を受ける」のは禁忌のはずだ。理由は当然、二つの依頼が衝突した時、どちらかを履行できなくなる可能性があるからだ。
 本書でもかなりニアミスしている。3本目のシナリオで、(プレイヤーも危惧していたが)憑代を殺さないと魔神を倒せないという設定だった場合、魔域を解除するという依頼を完遂すると、弁当を届けるという依頼が達成できなくなる。これを(私のサイバーパンク脳で)冒険者ギルドの視点から見ると「自分たちが紹介した依頼を遂行中に、勝手に自己判断で別の依頼を受け、それによって紹介した依頼が遂行不能に陥った」ことになる。そんな冒険者に次の依頼を用意するだろうか。しかし、本書においては二つ目の依頼を受けないと話が進まない。それでも私がプレイヤーなら二つ目の依頼は断るだろう。状況からいって、最初の依頼とコンフリクトする可能性があまりにも高いからだ。本書のプレイヤーたちは「報酬がもらえるなら」と飛びついているが。
 それにしても「お使いのついでにやるのはどうかと思ってた」っていうプレイヤーの言も、取りようによっては凄い皮肉だよな……。 


・戦闘に関しても相変わらず。良い子は真似をしてはいけませんと言いつつ、遠隔攻撃を行う敵を前衛に配置し、PCの後衛を狙うなんてことをやりつつ「防護点の低い魔法使いを集中攻撃してはなりません」と書いている。構造点のルールもそうだったが、なぜ「やってはいけない」ことをやるのか。敵が誰を狙うかなんて、敵の知能だけでなく、シナリオの状況やPCの行動、負傷具合などによっても変わってくると思うし、本当にやってはいけないならシステムで抑止すべきだ。貴方はゲームデザイナーなのだから。

 
 終わらなかった。続きは明日で。