世界の車窓から ~ナイトシティ編~

 ナイトシティには公共交通機関がない――というと、プレイしている人たちから反論がされるだろう。電車の駅は登場するし、「節制」エンディングにはバスに乗るシーンもちゃんとある。
 しかし、こうは言える。「ナイトシティには公共交通機関の『風景』がない」と。



 電車の駅はファストトラベルとしての意味しかなく、バスはエンディングにしか登場しない。そこではバスに乗るチケットは「あらかじめ購入」されているため、ナイトシティのどこでどうやってチケットを買うのかすらわからない。もちろん停留所はどこにもなく、待てど暮らせどバスが来ることはない。つまり、ナイトシティでは「(普通は)自分が運転する乗り物以外乗り物に乗れない」。バスや電車に乗って、運転手に運転を任せ、自分は車窓から風景を眺める、ということができないのだ。もっともそれにどれくらいの需要があるかわからないが──少なくとも私は、他人の運転で流れるナイトシティの風景を眺めてみたかった。
 もし私と同じことを考えた人がいたとしたら、真っ先に考えるのは「NPCが運転する車に飛び乗る」ことだろう。言ってしまえば今回の結論もそれである。ただ、ここでいう「飛び乗る」は、文字通りジャンプして車の天井の上に乗ることであって、助手席に乗るとかそういう意味ではないのに注意だ。これによってサイバーパンク2077のNPCの行動ルーチンや、車両がどう描画されているかが推測でき、なかなか面白い。



 まず、車に飛び乗る際には銃を構えてはいけない。NPCが逃げ出して運転してくれなくなるからだ。同じ理由で、近くで銃撃戦を行っている場合、手配度が上がっている場合も車には飛び乗れない。たいていの場合クラクションを鳴らされるが、無視して乗る。赤信号で止まっている時を狙うのが一番良い。



 前提として、当然と言えば当然かもしれないが、2077のNPCの車は「目的地に向かって」走ってはいない。ナイトシティの駐車場は単なる風景に過ぎず、NPCが道路から駐車場に入って車を止め、車から降りてくるという情景は存在しない。つまり、NPCの車は「常に道路を走り続けるオブジェクト」である。
 普段自分の車両に乗ってばかりいると、NPCの運転に身を任せるのは新鮮である。普段通らない道に通りかかり、意外な風景が見れたりもする。ただ、このNPCの車への便乗は、半永久的に続けることはできない。ほぼ必ず、何らかの形で中断する。以下にパターンを挙げる。


1 同じところをグルグル周回しだす
 これは、シティセンターやワトソンのカブキマーケットのような、周回できるポイントの近くで車を捕まえた場合に起こりやすい。NPCの車が延々と同じ道をグルグル周回しだす。私の場合、これにはまると新しい街の情景に出会えなくなるため、早々に別の車に乗り換えてしまう。ただし、このパターンに入ると以下に述べる別のハプニングは起こりづらくなる。


2 車から落とされる
 これもよくあるパターン。車の上に飛び乗り、そこから動かないようにしていても、高低差のある場所やカーブに差し掛かる時など、少しずつ少しづつVが移動してしまい、車の当たり判定とずれて道路に落とされてしまうのだ。


3 車が事故を起こす
 最も意外だったのがこのパターン。パッチが当たる前に、アラサカセンターの傍で缶ジュースの分解に励んでいたプレイヤーは知っているかもしれないが、ナイトシティの車の運転は意外と荒い。アラサカセンタービルの擁壁に激突しまくっている。
 NPCの車に便乗していて分かったが、どうもナイトシティのNPCは、一定の確率で事故を起こすように設定されているようだ。それも、対人ではなく物損事故だ。これも観察しているとなかなか面白く、事故を起こすとNPCが「どうしてなの……」「なんで俺が…」などと呟き、それまで交通法規遵守だったのが、信号は無視し車線も無視し、スピードを上げて暴走しだす。
 挙句の果てが、どこかの壁にぶつかって車が止まるか、以下の別のパターンになるか、である。物損事故で車が停止すると、多くの場合、NPCは車内で死亡している。



 ちなみに、車が事故を起こしやすいかどうかは、捕まえた瞬間わかる。事故を起こしやすい車は、ノーズがふらふら揺れて運転が安定していないのだ。


4 銃撃戦に巻き込まれる
 車が向かった先で銃撃戦が発生していると、NPCが車を止めてしまう場合がある。こうなると、銃撃戦を片付けてもNPCは運転を再開しない。またこのパターンは、Vに生命の危険が発生する。自身が敵に撃たれるのもさることながら、車両を撃たれ、爆発に巻き込まれることがあるのだ。私のVは予備心臓があるので巻き込まれても生還できるが、持っていないVだと死ぬかもしれない。



5 車が止まる
 これが一番の謎だった。例えば、ジャクソン平原の道のど真ん中で、事故もなく、赤信号もなく、銃撃戦もなく、運転手も無事なのに車が止まってしまう。それもNPCの車に便乗していると一定の確率で起こる。このパターンに何度かハマり、色々観察や試行してみて推測したことがある。
 2077のプレイヤーなら、NPCの車が突然姿を現したように見えたり、忽然と姿を消したりするのに遭遇した人は多いだろう。前にどこかの記事で見たが、扱う情報が膨大になった現代のオープンワールドのゲームは、量子力学のように「プレイヤーが観察したところだけ物理演算をする」と聞いたことがある。プレイヤーから遠く離れた場所のオブジェクトを演算しても、リソースの無駄だからだ。車が突然現れたように見えるのも、消えたように見えるのも、観察範囲から入ったり出たりするからだ。
 つまり2077のNPCは、主人公であるVの一定範囲に入って描画された時点で、どこまで移動しどこまで表示するかがある程度決まっているのではないか、と。その範囲を越えて移動した時点で交通法規などもすべて無視してNPCは行動をやめてしまうのではないだろうか。1の「同じところを周回する」だとこれが起きないのもこれが理由な気がする。また、このパターンの場合、車を離れてしばらく行って振り向くと、車そのものが消えていることがあるのも、その証左に見える。
 ちなみに下の画面で信号待ちに凄い数のNPCが並んでいるのは、手前で車が止まってしまい、横断歩道が渡れなくなったからである(その状態で丸一晩放置してみた結果)。ナイトシティのNPCはなぜかこういうところは杓子定規だ。



 なお、同様にナイトシティで走行中の電車に飛び乗ることも、場所や時間が限られ難易度は高いができなくもない。しかし危険度については車に飛び乗るの比ではない(高高度の場所で前触れもなく判定が消失して落下し、即死することが多い。もちろん予備心臓でも蘇生しないのでお勧めしない)。