アナログなデジタル


 元来、私は極めてアナログな人間なのだと思う。デジタルデータを色々いじってはいるが、未だに捨てられない、変えられない古い機材が山ほどある。
 とはいえ現実的には、同じコミックスの紙版と電子版を2回買うことに納得がいかないのであれば、読みにくさを我慢してでも最初から電子版を買うしかないのかもしれない。
 しかし、それならせめて古いコミックスではなく、新刊を電子書籍にしてもらいたい。それならば450円でも納得がいく。
 新刊を電子書籍にしたら本屋や流通が死んでしまうというのなら、本屋の店頭に専用のダウンロード端末を置いてもらってもいい。あるいは紙の書籍の代わりに電子書籍を本屋に置くのでもいい。もっとも、本屋や流通はこのまま行けば電子書籍に関係なくAmazonに殺されてしまいそうだが──少なくとも私は今のところ、店頭で買えるものは絶対にAmazonでは買わない。本にしろゲームにしろ、店頭での出会いというのは私にとって、とても重要なものだからだ。


 店頭で売る形態の電子書籍なんてないって? それがあるのだ。既にもう売っている(コミックスではなく文庫本だが)。
 これだ。


DS電撃文庫 イリヤの空、UFOの夏(通常版)

DS電撃文庫 イリヤの空、UFOの夏(通常版)


DS文学全集

DS文学全集

  
 
 なぜこの形態が流行しなかったのかよくわからないが、少なくとも私にとっての電子書籍の理想形の一つはこれだ。プラットフォームのDSは電子書籍に最適なハードだと思う(既存のフォントが使いづらいとか開発上の問題点はあるらしいが、私はソフト開発者ではないので印象だけで話をさせてもらう)。あの形状は本としか思えない。ブックカバー型のDS用ハードウェアカバーなんてものが売っているくらいだ。例えば一人の作者の全集で10冊入って5000円とかなら買うのに。
  

 たぶん、既存の流通や書店を守るために、DSを電子書籍のプラットフォームにすることとかを真面目に考えてこなかったのだと思うのだけれど、DSソフトというパッケージ型の電子書籍をちゃんと普及させていれば、iPadという黒船の来航にここまで脅威を感じずに済んだかもしれないし、舶来のキンドルに怯えずに済んだかもしれない。
 なぜなら、電子書籍に省スペースという価値を見出している(逆にそれにしか価値を見出していない)人間にとっては、オンライン販売の利便性など比較的どうでもいいことだからだ。そういう読み手は、本屋に行くのが面倒だから電子書籍を買いたいわけではないし、別に小売を殺したいわけでもない。本が高すぎるから値引きしろと思っているのでもない。繰り返すが、本を置く場所がないから電子版が欲しいだけだ。


 もしかしたら、店頭小売が生き延びる数少ないチャンネルの一つを、本は自ら閉ざしてしまったのかもしれない。これだけ優れた、そして1億台以上も普及したプラットフォームがあったというのに……つくづく惜しい。


 今回の新サービスに言いたいことは一つだけだ……もう、同じ手には引っかからないぞ。同じ本に対価を支払うのは3回で十分だ。