可哀想な人の話

 昨日の続き。下衆の勘繰りである。







http://togetter.com/li/41232


 昨日のエントリについては、井上純弌氏の文章があまりにも鮮やかな反論となっていて、追加するべきことは一言もなく、これ以上言いたいこともないのだけれど、反論以外で言いたいことが二つある。


 一つは、このazukiglg氏は何者で、何をしたいのか、ということだ。
 実は、彼は以前ブログで「自分は昔コンプRPGの副編という罰ゲームをやっていた人間」であり「今のTRPGのことはよく知らないが衰退している」と書いてコメント欄を炎上させた人物である。よって、今度もこういった話題を提起すればどういう反応が起きるのか、まともな感性を持っていれば予想できるはずなのだ。


 なぜ、反感を買うことがわかっていながらわざわざこんなことをするのか?


 そのヒントは彼の職業にあると私は考える。彼はかつてコンプRPGの副編集長という立場にあり、今も編集業に携わっている人間だ。その彼がやたらと「大手出版社から関連誌が3誌以上発行されていること」にこだわる。(*1)
 もし、これが彼の仕事の一環なのだとしたらどうだろう? それならば叩かれようが繰り返し繰り返し話題を蒸し返すことにも説明が付く。
 彼が「今のTRPGはそれなりに売れてますよ」「今のTRPGは昔より進化してますよ」と指摘されているのに無反応なのは、それが彼のような人間にとって一円の利益ももたらさないからだ。
 もちろん、TRPGだって商売にならなければ困る。利益が出ないのでは先が続かない。しかし、井上氏がいうように、ルールブックやシナリオ集を売る限り、TRPGは商売になりうる。
 ところが、彼自身はゲームデザイナーでもなければシナリオライターでもない。だから、いくらルールブックやシナリオ集が売れると言われても反応がないのだ。なぜならそれでは編集である彼自身は全然儲からないからだ。だから彼はやたら雑誌という媒体にこだわるのである。(*2)
 とはいえ、例えばアンディとエフェメラの見開きイラストだの「虹の影の秘密!」なんていう特集記事があったとして、それをTRPGのセッションにどうやって生かせというのか?(個人的には友野氏の作品が一番公式設定を生かしにくかった。公式設定に「解釈の幅」がまったくなく、シナリオに使うと後で絶対公式設定と矛盾を起こすことがわかりきっていたからだ)。
 これはコンプRPGだけの話ではない。結局発売されることのなかったTRPG(白狼伝とかジェイドキングダムとか)の特集記事とかその小説、後から考えればTRPGとはまったく関係がないものが、酷いとページの半分以上を埋めていた(末期のRPGマガジンだとTRPG関連記事が10ページ前後しかなかったりもした)。これがTRPGバブルの実態だ。
 私が、今の方がTRPGの環境は恵まれているというのはそのためだ。コンプRPGの副編集長自ら「たくさんのTRPGを作って売ったけど一番面白かったのは赤箱(D&Dのベーシックルールセット)だった」などとのたまうような、テストプレイすらろくにされておらず使えないルールブックが何冊も積み上がる状況より、ルールブックの隣に何冊もシナリオ集が並び、基本ルールブックを買えばシナリオ作りに頭を悩ませなくともすぐにシナリオができる今の環境の方が、ずっとセッションはやりやすい。
 しかし、今の環境は彼にとってはビジネスになっていないという。つまり、彼が言っている「TRPGがビジネスになるかどうか」というのは、「TRPGに託けて実プレイの役に立たない関連商品でどれだけボロ儲けできるか」なのではないか? 何しろ彼自身が「かつてコンプRPG編集部では正社員は自分と編集長の2人だけで、あとは全員アルバイトで適当にお茶を濁してごまかしてた」と語っているのだから、これ以上説得力のある話はない(アルバイトだからダメだ、と言いたいのではないので念のため)。
 だから、彼はツイッターライン上に「現役TRPGプレイヤー」がいなくても気にしないし、ミクシイで若いプレイヤーがコミュニケーションを取っているという話題を振られてもほとんど興味を示さない。彼の目標はあくまでも「雑誌」、そして彼の標的は現役プレイヤーではなく、かつてお金を落としてくれた「昔のプレイヤーたち」だからだ。
 言い方を変えれば、彼はTRPGバブルの申し子のような人物であり、あの頃見た夢を今も忘れられないでいるのだろう。バブル崩壊後、彼が他の業界に逃げ出した頃、井上純弌氏は何社もの出版社を回ってはルールブックの発売を断られ続け、最後にたどり着いた小学館で悲壮な決意を固めていたことは前のエントリでも書いた通りである。


 もちろん、これは単なる私の憶測に過ぎない。しかし、こう考えていくと、彼の発言の真意、意図がなんとなく見えてくる気がするのだが、いかがだろうか?


 付け加えておくが、私のいう「実プレイの役に立つ」とは、追加ルールやサプリメントのことだけを指しているのではない。彼は「TRPGはプレイ時間が長い」「GMの負担が大きい」というが、かつてこれらの雑誌で「プレイ時間を短くするための記事」「GMの負担を軽くするための記事」が掲載されたことはほとんどない。驚くべきことだが、日本でTRPGが遊ばれ始めてから十五年間、バブルの真っ最中ですら、もちろんazukiglg氏が副編集長を務めていたコンプRPGが携わったゲームも含めて、TRPGはこの点において微塵も進歩しなかった。──トーキョーNOVA・Rが登場するまでは。


(*1)ちなみに「大手出版社から関連雑誌が3誌以上発行されていること」がジャンルが隆盛している証であるとするなら、彼自身がTRPGの完成形、進化形として挙げているMMORPGの専門誌がファミ通コネクトオン一誌しかない(電撃オンラインゲームズは2006年に休刊しており、コネクトオンは2007年創刊なので、MMORPGの専門誌が二誌以上同時に存在したことはない)という時点で既に理論が破綻している。この程度のこと、ウィキペディアで調べるだけでもすぐわかるのだが。要は彼はTRPGのことだけじゃなくてMMORPGのことも、たぶん麻雀のことも、よく知らないのだ。 


(*2)では、ゲームデザイナーではない編集者の仕事とは何かといえば「時流を読み、正確な情報を収集し、才能のある人間を見つけ出してそれを発揮する場を与える」ことだと思うが、azukiglg氏の場合はどれも落第と言わざるを得ない。彼の文章には一つの特徴があり、「老人にも訴求する市場」だとか「説明10分、1セッション30分で終わるゲーム」だとか、ぶち上げる話はどれもこれもハードルが高く景気がいい割に、自分自身が持っているアイデアとして具体的に出てきたのは「ルールブック無料で、能力やキャラクターをカードゲームのように売るゲーム」だけだ。彼は日本で「ソードワールド・カードTRPG」が失敗し、海外で「ドラゴンランス・カードTRPG」がどのような道を辿ったかも知らないのだろう。この企画を没にした彼の上司は実に慧眼だったといえる。この「やたら景気のいい話をする割に正確な情報すら集めていない」とか「他人に求めるハードルが高いにも関わらず、自分では具体的なアイデアを何一つ持っていない」「初心者/業界外部の人間という立場と元業界人という立場を話の流れによって自分の都合のいいように使い分ける」あたりが、私が彼を「業界ゴロだ」と断じる理由である。こんな人物が業界中枢に巣食っていたのだから、TRPGに冬の時代が来たのは当然の帰結だったのだろう。


 さて、もう一点。このまとめに登場するツイッターで喋っている人たちのほとんどは、「自分の周りの人間がどうだったか」「自分の主観でどう思っているか」というイメージでしか語っていない。売り上げ部数や総発刊点数という重要な情報でさえ、実数を出している人は皆無だ。
 しかし、その2に登場するpiyopooさんという人は、実例に即した的確なツッコミを入れている。この人の名前、今もTRPGに関わる人なら見覚えがあるのではないだろうか?

 そう、アルシャードの製作にも関わっている“ラッキー・ホラーショウ”こと金澤尚子さんである。

 彼女だけは、今の若いプレイヤーがどのようにセッション仲間を見つけているか等、まともな発言をしている。azukiglg氏が彼女に「TRPG冬の時代とは具体的にいつのことなのですか?」と聞かれて即答を避ける辺りは非常に笑える。


 あと、まとめの最後に「今の国産TRPGはキモい」と書いている人に反論しておこう。
 今のTRPGは、イラストこそ今風だが中身は非常にまともだ。「特定のキャラのファンにだけ訴求するような、アニメ雑誌みたいな記事編集をしていたバブル時代のTRPG雑誌のほうがよっぽどキモかったよ」と。


 最後に、昨日のアルシャードFFの後書きの続きを引用しておこう。


 そして、僕がそう思えるようになったのは、継続してきたからである。むろん僕だけではない。TRPGを愛し、TRPGを作り続けてきた同志たち、なにより、遊んでくれている君たちの存在が、堅い数字という現実となって積み上がっていった結果なのである。

 だからまぁ当たり前の話なのだが。この歳になって、10年以上TRPGを仕事として続けてきて、あらためて思うのだ。

 継続は力なり。

 誠実な仕事の積み重ねに勝るものはない。

 (中略)

 そしてこの努力は、もちろんこれを手に取ってくれている貴方。貴方のために積み上げてきたものなのである。
 貴方が「TRPGってなんて楽しいものなんだろう!」と感じてくれることが、すべてに勝る僕らの力の源なのだ。

 TRPGは最高の娯楽である。貴方がいる限り、僕はそれを信じられるし、そう言い続ける。
 わけしり顔の連中の戯言など、どうでもいいのである。

 そして貴方のために、僕らはこれからも仕事を積み上げよう。次も、その次も。
 貴方がそれを遊んでくれることで、世界は変わるのだ。

 確実に。

 それがこの3年、アルシャードで僕が学んだ真理である。


 ありがとう、井上純弌。TRPGの灯が今も消されることなく残ったのは、間違いなくあなたたちのお陰だ。