誰得?


 さて、ちょっと引いた視点から見てみよう。この記者はTGSの会場に行っているわけでもなければ、ゲームに詳しいわけでもないのだろう。行っているなら最初に現場の状況について言及するはずだし、今回の一件で「社会批評の著書を持つフリーライター」にコメントを求めたりはしないはずだ(なお、この記事では件のフリーライターの他、バンナムの広報担当にしか取材していない)。なによりかんなぎの例を挙げていながら、今回の騒動により近い「下級生2」の騒動にはかけらも触れる様子がないのはゲームに詳しくないからではないか。


 騒動の直後、確かに「騒ぐことだけが目的の、ファンでない人間」が大量に掲示板に流入して来たのは確かだ。しかし、それ以上にゲームを実際にプレイしていなければわからない情報を書き込みつつ今回の騒動を嘆いていたファンが多数いた。あくまでも主流はその嘆きの声であり、便乗ではなかった。
 重要のはバンナム広報がいうプロデュース可能キャラが減ったことに対して多数の意見が寄せられた、という点だ。この記事ではあたかも、煽っているネットユーザーの声が本当のファンの意見に対して空回りしているように書かれているが、そうではない。最初からネットの声もそれが主流だったのだ。空回りしているとすればそれは、多数意見が寄せられているにも関わらず「新たな動きはないので公式に伝えることはない」というバンナムのコメントの方だろう。


 「以前からのユーザーにはほとんど関係ないことでしょう」というフリーライターのコメントにも疑問を感じる。関係ないのは新しいユーザー(つまり前作を知らない、減ったキャラに思い入れもないユーザー)であって、今回の騒動は、まさに以前からのユーザーにこそ関係があるのだ。
 なお彼のいう「アイマスをやったことないけど、と前置きして批判している人がいる」というのは、前後の文脈を読むと「自分はアイマスをやったことがないが、自分の好きなキャラが不当な扱いをされるという境遇には大変共感する。だからバンナムの今回の決定は腹立たしい」という主旨の書き込みが一番多かった。これは煽りといえるのか?


 何よりも、ネットユーザーを煽るのが目的ではないとしたら、なぜこのタイミングでこの記事をアップする必要があったのか?


 サイゾーは芸能人のゴシップ記事を面白おかしく取り挙げるのを主とするニュースサイトだ。現にこの記事に対しての関連記事でゲームに関するものはラブプラスの1件しかない。記者にネットで表層をなぞった程度のアイドルマスターの知識しかないのは、元々の知識がほとんどなく、取材に時間もかけていない(また、そのつもりもない)からだろう。

 
 このタイミングで「この騒ぎはネットだけ、大したことはない」と喧伝することで得をするのは誰か?


 それはバンナムだけとは限らない。幸か不幸か、アイマスプロジェクトは大きくなりすぎた。もしプロジェクトが失敗したら、影響を受けるのはバンナムだけではない。
 ここで、記事の最後の言葉にもう一度注目だ。


 サントラもバカ売れ。


 さて、なぜこの記者はシングルの売り上げのことを知っているのだろうか? メーカーから公式に発表はされていないのに。取材したから? ではなぜ本文中にコロンビア広報からのコメントが掲載されていないのか?


 つまり……?


 もちろん邪推だ。しかし、邪推されても仕方がない程度の、底の浅い記事ではないか。