全然違ってた

オネアミスの翼  王立宇宙軍 (朝日ノベルズ)


 昔出版された、王立宇宙軍オネアミスの翼のノベライズが復刊された。ずっと前にこれを読んだことがあり「劇場版と全然違うじゃん!」と驚いた記憶がある。


 以下はネタバレ。「前に劇場版を見たが小説版は読んでいない、読む予定もないがどこが違うのかだけ簡単に知りたい」という人だけ見てほしい。小説版を読む予定がある人は自己判断で。










 大きく違うのは今は亡き鈴置さんが声を当てていたドムロット、そしてマジャホの設定だろう。
 劇場版では「王立宇宙軍のやる気のない仲間たちの中でリイクニに感化されたシロツグだけが突然奮起する」設定だけど、小説版ではドムロットが終始真面目に王立宇宙軍の任務に従事しており、パイロットに選出されるはずだったにも関わらず何者かの妨害によって怪我をし、パイロットになれなくなるという設定になっている。小説前半では明確にシロツグのライバル的な位置にいるキャラクターとして造形されている。
 そしてマジャホ。劇場版では老け顔だけどアイスを頬張って「無理だ」と言ったり、割と子供っぽい部分のある仲間として描かれているが……。

 なんと、小説版ではシロツグの暗殺を図る共和国の刺客という役回り。

 パン屋の息子というのも偽装で、毒入りパンをシロツグに渡したことから偶然正体が発覚することになるのだが。ドムロットの怪我もマジャホが仕組んだものということになっている。


 これを知ってから劇場版を見直すとなかなか興味深い。前半、鬱憤晴らしに町に出かけたシロツグたちが娼館の女たちと出会うシーンがあるが(シロツグがリイクニに会う直前のシーン)、ここでマジャホと会話している娼婦が共和国のスパイだという設定なのだ。改めてみると、彼は確かにわざと間抜けな人間を演じているように見えなくもない。ウィキペディアにも


オネアミスの翼-王立宇宙軍 I・II
 ソノラマ文庫より1986年、1987年に発売。内容の大筋は同じながら映画では描ききれなかった多くのエピソードが加筆されている。著者は飯野文彦。


 とあるように、当初劇場版にも存在したプロットが、様々な事情から省かれたのだろう。確かそのような話をどこかで目にしたような記憶がある。

 それを踏まえた上で。

 そのプロットはカットされてよかった、と思う。
 ジョジョの奇妙な冒険荒木飛呂彦氏がかつて第5部について語っていたように、物語に裏切りという要素を仕込むのは非常に難しい。ジョジョは少年漫画でありオネアミスは違うジャンルの作品だが、それでもオネアミスに「仲間の裏切り」という筋書きを入れると「シロツグが宇宙に飛び立つ」というテーマがぶれて「共和国との闘争」に比重が移ってしまう気がする。それこそまさに尺がこの倍はないととても描写しきれないだろう。
 敵の死、という意味では作中で既に老婆に化けた刺客の襲撃とその死が描写されているし、仲間であるマジャホの死、という意味でいうとグノォム博士の死が語られているので、どうしても印象が被ってしまうというのもある。


 ただ、だからといって小説版がよくないというのではなく、オネアミスのアナザーストーリーとしてみれば一見の価値はある。劇場版の尺の制限から解き放たれた小説という媒体であれば、ドムロットとシロツグの相克と和解、そしてマジャホの最期の台詞は胸に迫るものがある。


 ところで、貴重な女性キャラでありサービスシーンまで頑張ったはずのエルフト博士が存在ごと抹消されたのは何故なんだろう。映像化されていたらリイクニより人気が出たであろうキャラだと思うのだが。いや、むしろそれがまずかったのか?(笑)