サムライVSガンスリンガー

 ここに、TRPGだが対照的な例がある。


 アメリカで作られた「シャドウラン」というゲームと、日本で作られた「トーキョーN◎VA」というゲーム。
「近未来の地球を舞台にし、少しファンタジー世界のフレーバーを加えたサイバーパンクRPG」と表現すると、両作品のコンセプトはほぼ同じなのだが、その雰囲気は驚くほど違う。


シャドウラン 4th Edition (Role&Roll RPGシリーズ)


 シャドウランにはエレメンタルやコカトリストロールやオークが登場し、PCたちは「ランナー」と呼ばれる冒険者(?)で、あらかじめパーティを組んでいることが多い……と、図式はファンタジーRPGそのままに近いのだが、登場する武器のほとんどは銃器であり、刀で戦うランナーはあまり一般的ではない。ストリートサムライと呼ばれるサイボーグですら、サムライという名前がついていながら武器はほぼ銃だ。フィジカルアデプトという、魔力で肉体を強化して戦う格闘戦を得意とするクラスが存在するものの、その威力はとても銃器の類に及ぶものでなく苦しい戦いを強いられる(最新版の未訳アプリなどで状況が変わっていなければ)。


トーキョーNOVA The Detonation (ログイン・テーブルトークRPGシリーズ)


 トーキョーN◎VAではどうか。PCがバラバラな立ち位置からアクトを開始するゲームの図式など、キャラクタークラス/スタイルの一部にファンタジー要素がある点(魔術師の「バサラ」、モンスターの「アヤカシ」)以外はサイバーパンクRPGそのものなのだが(正確には「アーバンアクションRPG」)、剣や格闘技の位置づけは高く、武器の届く範囲にさえいるのなら、刀でも格闘技でも、重機関銃を構えたプロの傭兵を倒せる。特にこのゲームは技能の組み合わせによって他のことをしながら弾雨の中を走り抜けられるので、剣を構えて自分に向かって突進してくる剣士を止めるのは至難の業だ。
 また、相対的に銃の地位の低下に一役買っていそうなのが護衛/カブトの存在だ。このスタイルの存在は、このゲームが発売された当時の私にとっては驚くほど斬新だった。今でこそコンピュータRPGでも「他人を守るキャラクタークラス」は珍しくないが、あの当時「守る」ことを主目的とするクラスはどのゲームを見回してもほとんど存在しなかったからだ。透明なクリスタルウォール・シールドを構えたカブトに目標の前に立たれると、軽機関銃の一斉射撃ですら無傷にされてしまう。もちろんそれは剣の攻撃だって同じだし、対抗する技能があればカブトごと目標を蜂の巣にすることもできなくはないが、ハードルが高いことは確かだ。
 さらにこのゲームの剣士が《リフレクション》という技能によって「弾丸を撃ってきた人間にそのまま跳ね返してくる」というのも銃使いにとっては脅威となる。


 こうしてみると、日本人は特に銃が嫌いというより、剣と銃を区別していないと言った方がいいように思う。リアリティを重視すれば当然軍配が上がるはずの銃を、剣と並ぶ存在として見ている。「サムライ・レンズマン」のクザクとデイルズ、「カウボーイビバップ」のスパイクとビシャスのように「刀と銃が伍して戦う」シチュエーションの作品は枚挙に暇がないし、その二つを同列に見ることに、フィクションとしての理由付けを必要と感じていない。銃を特別視しないと言ってもいい。JRPGでは銃で何十発も撃っても敵が死なないというのも同様。HP制のシステム(その源流はアメリカのD&Dだ)を採用し、剣で何十回切っても死なない敵を登場させた、その剣が銃に置き換わっただけだ。


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 私は、銃と剣が並列して存在する世界の方が、選ぶ自由があって面白いと思う。フィクションにリアルリアリティを持ち込んでも仕方ないじゃないか。


 余談ではあるが、リアリティを重視した前の版のシャドウラン(今の版はどうなっているかわからない)の戦闘には、個人的に物凄く寒い部分があった。このシステムは戦闘時に遮蔽が取れるかどうかで射撃の目標値が大きく変わるが、そもそも戦闘の舞台となっている場所に遮蔽となり得るものが存在するかどうかが、GMの任意だったりする。PCに遮蔽を活用する能力のような技能やパラメータが設定されているのであればまだ話はわかるが、そうではなく、PCの戦闘能力の根幹部分をGMが恣意的にコントロールするシステムなのだ。やろうと思えばいつでもどこでも、敵側に完全遮蔽、PC側に部分遮蔽しか認めないことで大幅に不利な判定を強制することもできる。逆にPCとしては何がなんでも遮蔽を確保したいため、PCの能力ではなく口プロレスで有利な状況を作り出さなければならなくなってしまう。(*1)


 逆に、トーキョーN◎VAの場合はPCの能力値の一つに「外界のものを利用する能力」が設定されており、この能力値を使って判定に成功したのなら、舎弟を盾にしようがガードレールの陰に隠れようが、あるいは新製品のサイバーウェアに頼ろうが、演出は自由にできる。ニューロエイジでは、周りの物を有効に活用するのも立派な「能力」の一つなのである。


(*1)ただし、私のシャドウランの評価には多分に偏見が混じっていると思われる。何しろシャドウランに関してはロクな目に遭った記憶がないもので……。その話は、またいずれ。