第4のスタイル……?


 この間書いた、追加ルール「ワークス」の話である。
 本書の帯には「“第4のスタイル”ワークス」と書かれている。この「第4」というのは、もちろんペルソナ、シャドウ、キーに続く第4という意味だろう。これが個人的には非常に引っかかる点である。
 トーキョーN◎VAブレイド・オブ・アルカナではスタイル/アルカナを3つまで選択できる。これは、他のゲームのマルチクラスルールとは少々異なる。単にクラスを複数選べるというだけでなく、それぞれに意味が与えられているからだ。

ペルソナ・そのキャストの“表の顔”、すなわち職業や他人に知られている(見せている)自分を表している。これは風体や物腰といった表面的なものから第三者が知る(感じる)ことができるスタイルである。


キー・そのキャストの“本質”である。潜在意識や信念といってもよく、基本的には第三者が(外見や観察によって)そのスタイルを知ることはない。


シャドウ・キーでもペルソナでもないスタイルはシャドウと呼ばれる。シャドウは、あなた自身からも完全に隠れているもう一つの面である。


──トーキョーNOVA・ジ・アクセラレーション(初版)P126(その他の出典情報は下記Amazonリンクを参照)



 ブレカナにおけるアルカナは分かりやすいので引用は省略するが、PCの「過去・現在・未来」を表している。

 N◎VAにおける3枚のスタイルは、人から見た自分、自分から見た自分、自分さえも気づかない自分と言い換えられる。つまり、これらのデータは単なるマルチクラスではなく、ロールプレイの指針だ。クグツ◎、カゲ、カブト●とカブト◎、クグツ、カゲ●は全く異なるキャストである。前者は「一見サラリーマン(あるいは企業の非合法工作員)風だが、心の中では誰かを守る信念を持ち、自分でも気づいていないが人に気づかれずに行動するのが上手い」後者は「一見護衛に見えるが、本質的にはスパイ(隠密)であり、人知れず組織にも貢献している」というキャストだ。
 ここに4枚目の入る余地があるだろうか、という話である。

ブランチルールとの違い


 実は、今回のワークスルールに似たルールが過去にあった。N◎VA・Dの「ストレイライト」に掲載された「スタイルブランチ」のルールである。このブランチは文字通り「ブランチ(枝)」のルールである。それぞれのスタイルを細分化するものだ。ハイランダー(軌道人)にジーンリッチ(優秀な遺伝子)とか日本人などの設定が追加され、データが付随する。
 こちらのルールは、内容的に既存のスタイルを細分化するというだけのものだったため、違和感はあまりなかった。例えばカブトというスタイルに「どんなカブトなのか」という説明が付け加わるだけだからだ。


 しかし、今回のワークスルールはこれとは異なる。ワークスはスタイルと関係のないものを取得できる(所属できる)からだ。バサラ=バサラ=バサラ◎●というスタイルで、千早重工後方処理課第三班(一般的にはクグツが多い)所属というキャストが作れる。
 そして今回、ハンドアウトでスタイルではなくワークスを指定してもよい、となったため、上記のキャストに千早重工所属キャストとしてのシナリオ導入を用意してもいいことになったのだ。私が引っ掛かると言ったのはこの部分である。
 上のキャストは、人から見ても、自分から見ても、そして自覚のない自分もバサラ(魔術師)である。そのキャストに企業の仕事を振るだろうか(これは「プレイヤーがそれを望むのか」という意味も含まれる)。
 私がN◎VAを気に入っているのは、スタイルが単なる能力ではなく、生き方を表しているからだ。ペルソナに社会的立場を表すスタイルを選ばず強さのみを基準に作成したキャストは、データ的には確かに強力だ。その代わりに導入には自分なりの工夫が必要になったり、ハンドアウトが限定されたりする。逆もまた然りだ。
 そして、少なくとも私自身について言えば、ハンドアウトを用意するスタイルには神業の使いどころまで考えた上で導入を作るので、ただ単に仕事が受けやすいというだけで社会技能もスタイル技能も神業も持っていないというスタイルには、導入を用意しづらい。上のキャストについていえば、仕事は千早重工で受けれたとしても、社会技能はバサラ基準、コネもバサラ基準になるわけで、企業キャスト向けのリサーチも不得意、クライマックスを彩る神業も持っていないときたら、セッションが進めづらいのが明白だからだ。


 そして、所属組織が既存のスタイルに対してどういう位置づけなのかも掴みづらい。「所属組織なんだからペルソナ(人から見える自分)に近いんじゃないの」と思う人もいるかもしれないが、それは違う。例えば、所属組織には「浄化派のテロリスト」も含まれる。テロリストが「自分はテロリストです」と看板を掲げて歩くわけがない。
 そもそもキャストという人格をイメージするのに「3」という数字は非常に秀逸である。そのそれぞれが「人から見える自分」「自分にとっての自分」「どちらでもない自分」という3種類である以上、そこに4つ目というのはイメージしづらい。カゲ◎、カブト、クグツ●で所属組織がブラックハウンドだとか言われたら、「どれかの代わりにイヌを取ってくれ」と言いたくなってしまう。
 要するに、このワークスの存在を厳密に考えていくと、既存の3枚のスタイルの位置づけがブレてしまうのではないかというのが私の危惧であり、だからこのワークスルールは採用しないだろうな、と思ってしまうのだ。せめてそれぞれのワークスのデータが特定のスタイルと結びついていたらまた違うだろうが……。
 
 

実際の運用では

 先程、ワークスに似たようなルールとして、スタイル・ブランチルールを紹介した。実際、自分のプレイグループでスタイル・ブランチルールを導入した時、かなりの異論が挙がった。前項の危惧は主にルーラーから見た危惧であり、プレイヤーからの意見はまた異なる視点によるものだった。

 スタイルブランチや今回のワークスルールは、プレイヤーにとってほぼ完全なマスクデータになるのだ。

 ゲストの能力は「スタイル感知」である程度見破れる。装備も知覚判定やサイバーウェアなどである程度判別できる。しかし、ブランチやワークスは既存のスタイル技能のルールの範疇を超えるため、見破るにはすべてのルールに優越する能力──つまり神業を使わなければならない。これが、カリッカリにチューンしたシビアなシナリオだと非常に辛い。
 一応断っておくと、これまでのルールでも「スタイル感知」で所属組織は見破れなかった。ただそれは、所属組織がフレーバーテキストだったからだ。今回のワークスルールを採用すると、所属組織によってデータが異なるので話が変わってくる。
 しかも、ブランチであれば見破ったスタイルから推測が可能だったが、ワークスはスタイルとは完全に独立したデータのため、この方法も使えない。トライアンフのウォーカー「ウィル・オー・ウィスプ」に搭乗していてもスタイルはカリスマ3枚かもしれないし、テラウェアのタップ「ジャバウォック」を使ってハッキングしてきていても、相手のスタイルがトーキー3枚である可能性を否定できない。

 千早重工のワークスデータなどは、パッと見ただけでも「スキルパーティ2」などという、他のスタイルの秘技が習得できてしまう能力があるので、敵ゲストがこれを十全に活用してきたら、プレイヤー側にはかなりの脅威になるのではないか、という気がするが……。