10年来の衝撃


 色々書こうと思っていたことが、この一冊で全部吹っ飛んだ。
 まさかこのタイミングでマイナスナンバー・スタイルが4つも追加されるとは。それも、非常に論議を呼びそうな、つまり掟破りを常套とする、いかにもNOVAっぽいスタイルである。


 イブキ。カブトのマイナスナンバー。救命士や消防士をあらわす「命を救う」スタイル。
 シキガミ。マネキンのマイナスナンバー。特殊な武器を扱う「式神使い」のスタイル。
 エトランゼ。ハイランダーのマイナスナンバー。未来人や宇宙人、異世界人など「存在しないもの」のスタイル。

 そして

 コモン。カブキのマイナスマンバー(つまりカブキ同様ナンバーなし)。一般人をあらわすスタイル。

 古参のNOVAプレイヤーとしては非常にショックが大きい、NOVAについての認識を根底から覆すマイナスナンバーだ。

イブキ

 イブキとシキガミの印象は、最初にアラシを見た時の印象と同じである。つまり「あ、わざわざ既存のスタイルと分けるんだ」というものだ。イブキは救命士や消防士をあらわすというが、では古参のNOVAプレイヤーに「NOVAで医者といえばどのスタイルに該当する?」と聞けば、恐らく(チャクラなどの変化球でない限り)「タタラ」と答えるだろう。実際、今回掲載されているパーソナリティーズの芳華玲は医者でありタタラである。
 もちろん、既存プレイヤーが抱きそうな危惧は使用上の注意として本文に明記されている。イブキのそれは「あらかじめ活躍できるようシナリオを作らないと扱いが難しい」というもの。万能なタタラですら導入が難しいものを、さらに狭い範囲に特化したスタイルだから当然だろう。イブキ向けのオーガニゼーションとしてシルバーレスキューが挙がっているのも順当なところだ。

シキガミ

 シキガミは、既存のスタイルで言えば旧版のバサラの使い魔やマヤカシの分心を単独のスタイルとして独立させた感じ。言い方を変えればブレカナのエルスである(タロットの「恋人」なのも共通している)。NOVAでクロガネが追加された時、あくまでも道具をあらわすスタイルだったので「あれ? ブレカナのディアボルスと違って“魔剣使い”はできないのか?」と思ったが、別のスタイルとして単独で成立したわけだ。 本文中の説明どおり、武器を持っていればカタナやカブトワリとして仕事が来るだろうから、イブキよりもむしろ扱いは楽だ。細分化されただけで、既存のスタイルに近いものはあるので、細分化された分導入などに気を使う可能性はあっても、それほど抵抗はないスタイルである。

コモン

 とりあえず、エトランゼは置いておいて、新スタイルのコモンである。正直、このスタイルには度肝を抜かれた。まず、ナンバーのないスタイルであるカブキにマイナスナンバーがあるというのにも驚いたのだが。

 そもそも「NOVAに一般人は存在するのか?」という疑問がある。この疑問文は本文ではエトランゼに対して提起されていて、それももちろん問題なのだが、コモンにも同様の、より大きな問題がある。
 トーキョーNOVAのニューロデッキは「トーキョーN◎VAに集う人々の性質を22種類に大別したもの」(セカンドエディション12ページ)というのがかつてのルールブックの記述である。この記述に従えば、NOVAに一般人は存在しなかった。いや、一般人ですら22のスタイルのどれかに分類されていた、というべきだろう。鈴吹社長が先日ガイドブックで語っていたように、NOVAのキャストは「このゲームのキャストは○○である」という定義ができない。刻まれし者でもないし、オーヴァードでもない。何らかのプロフェッショナルであるという定義もあるが、では「マネキン◎、ハイランダーハイランダー●」で、自分の力を全く自覚していないキャストがいたとしたら、果たしてプロといえるか? という疑問もある。つまりキャストとは「NOVAに集う人々そのもの」のことだ──というのが、今までの定義だった。
 既存のリプレイでも、一般人に限りなく近い一般学生のキャストなども登場したが、例えば人から慕われていればミストレス、報道部ならトーキー、不良学生ならニューロ……22のスタイルのいずれかには分類されていた。強いて言えば、学生なら誰かに頼るスタイルだからマネキン。サラリーマンならクグツ。「その他」はなかった。
 こうも言える。セッションでスポットライトがあたり、エキストラからキャストになった時点で、22のスタイルのいずれかには必ず分類されていたのだと。それが「キャスト」というものなのだと。


 ところが、コモンの存在はその認識を根底から覆した。NOVAには「どれにも分類されないただの一般人」がいることになったからだ。しかし、これも本文中で言われているが、一般人でありながらキャストとしての力は持っている。そこに矛盾をはらんでいる──いや、コモンでありながら残り2枚のコモン以外のスタイルを有している時点で、既にただの一般人であることはあり得ないのだ。
 エキストラを装うためのコモン? いやいや。エキストラを装うだけならコモンという「生き方」(スタイル)は必要ない。「意図的に隠し装っている」だけであれば、それは<無面目>を習得した「カゲ」であり、既存の組み合わせで表現できる。コモンのスタイルを選択するということは「一般人としての生き方を選んでいる」ということに他ならない。
 しかも、である。今まで私たちは「マイナスナンバーは、NOVAではメジャーな生き方ではないからマイナスナンバーなのだ」と思っていた(過去にそういうエントリも書いた)。アヤカシ然り。ヒルコ然り。人権が与えられていたりいなかったり、細かい差異はあれど、これまでのマイナスナンバーはNOVAでは絶対数も含め希少な存在だった。
 その認識もまた覆った。コモンが「一般人をあらわすスタイル」なら、当然絶対数も含めてNOVAでもっともメジャーな存在であり、生き方だ。一般人でありながらあえてアクトに関わってくる「コモン」は、単なるマイナスナンバーというよりも「カブキ」に並び立つ「もう一つの切り札」(ワイルドカード)である。


 コモンというスタイルは「キャストとは何なのか」「NOVAで生きるとはどういうことなのか」という根本的な命題に、今までとは全く異なる切り口で切り込んだ“革命的な”スタイルである。そして、もちろんゲーム的には、これまでNOVAではやり辛かった「普通の人が巻き込まれるシナリオ」が非常にやりやすくなった。これが一番大事なことだろう。

エトランゼ

 コモンとは別の意味で、このエトランゼもまた論議を呼びそうなスタイルである。
 コモンとは異なり、エトランゼはこれまでのマイナスナンバースタイル同様、間違いなくNOVAでは希少な存在である。似たような存在であるカオスフレアのフォーリナーアルシャードストレンジャー、オーヴァーランダーは、元々多元宇宙を舞台としたTRPGで、次元移動したPCをあらわすクラスだった。ところが、NOVAではこれまで宇宙──少なくとも宇宙人の存在するような──や異次元、未来世界などについては明確な設定がなかった。にも関わらず、スタイルだけが存在することになる。

 とはいえ、私自身としては、エトランゼについてはルールブック内の説明で、十分だと感じた。NOVAは何が起きてもおかしくない場所だ。これもまた、NOVAの遊び方や世界観を広げるためのスタイルなのだと思えば納得できる。

結びに

 私個人としては、今回のサプリメントを目にした時の衝撃は、かつてカムイSTARやグランドクロスを初めて見たときにも匹敵するものだった。書きたいことはまだまだあるが、それは別のエントリに譲ることにしよう。