おおかみこどもの雨と雪

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 観てきました。ネタバレ&辛目の感想全開なので嫌な人はここで回避推奨です。











 最初に浮かんだ感想は「子育て日記+中学生日記+生き物地球紀行/5」というものだった。母親である花の物語と、姉である雪の物語、弟である雨の物語が完全に平行して進行するため、監督が語りたい「物語」の中心、視点がどこにあるのかよくわからないのだ。*1
 モノローグが雪の台詞として挿入されていることを考えると、これは本来、雪の物語だと考えるべきなのだろうか。しかし、それなら花と二人の父の出会いやその後の交流に関する描写はまったく不要であり、3人の母子が田舎に越してくるシーンから始めればいい(父親の来歴は母親から台詞として語らせればいい。実際作中でも「○○と母は語っていました」と言っているのだし)。2時間の長尺でありながら、伏線らしきものが幾つも張られるにも関わらず、ほとんどが投げっぱなしで解決しないまま終わるのも、物語としての主題がブレてしまったからではないだろうか。
 例えば、花に農作業のノウハウを教えてくれた韮崎老は、多少の交流があるもののまったくイベントがないまま。
 雨が先生と呼ぶ謎めいた山中のキツネもただ出てくるだけ。
 中でも一番酷いのが雪の物語のキーパーソンになる草平で、雪の秘密を知るほど親しくなった人物でありながら「自分の母親の再婚に際しての不安」を語るだけ語って解決しないまま物語は終わってしまう。要するにどれもこれも消化不良なのだ。
 例えば、雪視点で物語を語るなら──


・ラストシーン近く、いつまでも迎えにこない母親に不信感を抱く草平。しかし、実は母親は学校に向かう途中で車の事故を起こし、雨の中で立ち往生してしまっていた。お腹の子供に流産の危機が迫る中、雪はおおかみとしての本性を明かし、獣身で病院に送り届ける。草平の怪我を巡り確執のあった二人だが、雪の秘密を受け入れ、和解する。


 とか。当然こういった展開が待っているものと思いきや、まったく何も起こらない。

 少なくとも、ちゃんとした起承転結を用意し物語を綺麗に終わらせるのなら、焦点は花か雪か雨の誰か1人に絞るべきだった。それも恐らく、雪にスポットライトを当てた方がよかったはずだ。監督としては人の道を選んだ雪と狼の道を選んだ雨を対比させるつもりで両方を描写したのだろうが、二人の相克も非常に中途半端な状態で終わっている。雨と雪の関係は姉弟の関係で考えると相当に酷い。お互いの抱える悩みや課題に対してもう片方が気遣いをするシーンはほぼ皆無、しかも二人の別れは「取っ組み合いの喧嘩で弟が姉をボコボコにし、独り風呂で傷と心の痛みに泣く姉とそれを無視する弟」で終わってしまう(この後二人が同時に出てくるシーンはない)。監督は本当にこれでいいと思ったんだろうか。これだったら雨自体登場させなかった方がよかったのではないだろうか。
 一緒に観に行った先輩は「花が最後に、雨が山に向かったことを許容したのは育児放棄だ」と言っていた。そう言われても仕方がない。雨が山へと帰っていくに至る、納得のいく心理描写がされないからだ。あれじゃ登校拒否の末、山に逃げ込んだようにしか見えない。サマーウォーズの時と同じく、本来絶対に必要なプロットや描写を丸ごとすっ飛ばしているのだ。
 劇場内には子供もいたが、なぜか父親が黒いゴミ袋に放り込まれてごみ収集車でミキサーされるシーンとかあるので、これを子供向けのおとぎ話と呼んでいいのかはかなり疑問である。このシーン、もうちょっとなんとかならなかったのか……。ちなみに子供の1人が、終了後「結局何が言いたかったの〜?」と親に聞いていたのがあまりにも的を得た疑問すぎて思わず頷いてしまったことを付け加えておく。

*1:逆に、物語以外では「子育てって素晴らしいよ!」とか「田舎暮らしって素晴らしいよ!」と言いたいんだろうな、というのが少々押し付けがましく感じるほどよく読み取れるが……。でもそれって本当は「物語」で訴えないといけないメッセージのはず。