ん? なんかおかしくない?

Role&Roll Vol.106

Role&Roll Vol.106


 クトゥルフカルト・ナウの最優秀賞受賞作品が掲載されてるんだけど、最初読んで「え?」と疑問符が浮かんだまま消えなくなってしまった。なお、この応募シナリオを作った人に関しては一切批判するつもりはない。プロではなくアマチュアの作品であるし、素人にしてはよくできている、というのは十分に賞賛に値すると思うからだ。体裁も整っているし用語の間違いもほとんどなく、完成度は高い。


 問題はロール&ロール編集部の方だ。この受賞作には寸評がついていて「探索者の動機、行動の選択肢、シナリオクリアの達成感などに改善すべき点があります」と書かれている──にも関わらず、なぜかそこが一切修正されないまま掲載されている。
 例えば小説の新人賞などを取った作品だって、出版される際には編集部からの校正が入る(入らないと自費出版版の「リアル鬼ごっこ」みたいな羽目になる)。もちろん校正しきれず残ってしまう場合もあるにせよ(だからエラッタがある)、“問題点があると判っていながらその部分をそのままで掲載する”のはどうなんだ?
 これが文芸作品なら「それも作者の個性だから」とか言えるかもしれないが、TRPGのシナリオで「導入が弱い」「行動に選択肢がない」「達成感がない」ってのは、かなり致命的だ(特に一つ目と三つ目)。個人的には、これまでのロール&ロールに掲載されたプロが執筆したクトゥルフのシナリオに比べて格別導入がまずいようにも見えないのだが、他のゲームに比べれば動機が弱いのは確かだ(例えば、ある人物の日記に興味があるという動機しかない探索者に対していきなり窃盗犯を取り押さえろ、という導入がくる)。
 また、シナリオの概要と背景の説明も改善の余地があると書かれていて、確かにその通りだ。ありがちな話だが、概要が予告編になっている。概要はあくまで概要でアクトトレーラーではなく、プレイヤーに見せることを前提には普通しないだろう(そもそもFEARのゲーム以外ではシナリオをプレイヤーに見せる行為そのものが特段の注意書きでもない限りありえないはず)。キーパーが読んで「このシナリオが次のセッションで使えるかどうか」という判断をしたいのであり、そこに結末までの概要が書かれていないと結局背景やシナリオ本編を読むしかない。このシナリオの概要でいうと「探索者は神話的存在と遭遇する」としか書かれておらず「登場するのは何か」すら記載されていない。もしこのシナリオの結末が「探索者たちは全員ダゴン密教団の一員になったのであった、ハッピーエンド」だったとしたら、自分の環境では使えないと判断するキーパーも多いだろう。概要ではそこを知りたいのだ。
 そしてここはシナリオの内容ではなくフォーマットの部分であって、本来応募者というより編集が手を入れて直さなければならない部分のはずなのだが……。


 なぜ、こんなことを一々指摘するかといえば、最近出版された某ゲームもまた、このクトゥルフのシナリオと同じ状況に陥っているからだ。製品として直すべき部分を直さないのは、作者の意思を尊重しているわけでもなんでもないと、私は思う。