実は一言しか


 やっぱりこの脚本書いてる人は原作おちょくりたいんだとしか思えない(笑)。


 今回は今までのよりはツッコミにくい(私も先輩に言われて気がついた。動画コメントでも指摘している人が数人いる)。
 確かにロードス1巻でディードリットはヴァーク(「醜い」の意)というエルフ語を喋るシーンがある。で、このアニメでは「それ以外のエルフ語は?」とツッコまれて逃げ出している。普通に考えたら「原作には他にもいろいろエルフ語が登場するのに『ヴァーク』しか覚えてないからツッコまれた」と思うだろうが──実は、原作にはこれ以外にエルフ語がほとんど登場しないのだ(笑)。*1

そもそもエルフ語とは?

 さて、ロードス(笑)ではなく、ファンタジーの本当の原点にして原典の一つである「指輪物語」では、エルフ語には特別な意味がある。 そもそもJ・R・R・トルーキンが架空言語であるエルフ語、シンダリンとクウェンヤを発表するための場として「指輪物語」を書いたという伝説が残るほど、指輪物語とエルフ語は切っても切れない関係なのだ。
 あの「サウロン」も「モルドール」もエルフ語、「シルマリル」もエルフ語、ガンダルフを現す「ミスランディア」もエルフ語だ。これらは全て架空の言語体系が作られ、作中では明確な意味を持って使い分けられている。


 これらを踏まえて作られたクラシック・ダンジョンズ&ドラゴンズでは、プレイアビリティを優先してのことだろうと思うが、「共通語」が設定されている。エルフ語やドワーフ語そのものは登場し、INT(教養)の能力値によっては他種族の言語習得も可能だが、基本的にPC同士は共通語で意思疎通ができるようになっていた(能力値によっては読み書きができないことはある)。そして、エルフはドワーフと同等の「デミヒューマンの一種」という設定になったため、エルフ語に特別な意味は持たされていない。
 ただし、例えばガゼッタを舞台にした小説「魔術師の遺産」では、カレンデリとイライアンというシャドウエルフの王族姉弟がエルフ語で話すため、エルフ語を知らない登場人物には言葉の意味がわからない、というシーンがある。似たような描写はドラゴンランスでも見られる。言語の違いは異種族間のディスコミュニケーションの演出の一つ、という位置づけだ。


 さて、話を戻してロードスを含むフォーセリア世界ではどうか。実は、フォーセリア世界には「指輪物語」でいうところのエルフ語、『力ある古代の言葉』としての言語がエルフ語の他に存在している。「上位古代語」と「下位古代語」だ。これらは下手をすると発音するだけで魔法が発動するような、それ自体が意味を持つ言語として設定されている。ちょうど指輪物語のエルフ語のお株を奪う形でこれらの古代語があるといってもいい。このため、エルフ語自体の存在感はより薄れている。
 また、異種族間のディスコミュニケーションの描写もほとんどない。そもそも作中に登場するエルフ同士、ドワーフ同士がエルフ語やドワーフ語で会話するシーンが、なぜかほとんどない。ピロテースとディードリットがエルフ語で罵り合うような場面などあってもよさそうなものだが、作中には存在しない。どんな文法なのか? 文字は存在するのか? シンダリンとクウェンヤのような「種類」があるのか? 何も明らかにされていない。


 ロードス島戦記を取り上げるのであれば「五色の魔竜」だとか「マーファとカーディスの相克」だとか「ハイランドの竜騎士」だとか、わかりやすくて取り上げやすいものは他にもいろいろあるだろうに、よりにもよっていきなり原作1巻に出てきたっきりの「エルフ語」とは……(笑)。

*1:数少ない例外のひとつがピロテースの使う偽名「シェール」。意味は「いつの日か」。