「もう一人の少年」のテレビ遍歴

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 短い動画だったので思わず見てしまった。「かつては世界が自分を中心に回っていると感じていた」と語り、今は「ネット動画は自分にとって敵である」と言い切る彼の姿を見て、まぁ、彼ほどのスターならばそうなのだろう、とも思った。
 そして同時に、かつて抱いていた疑問がふつふつと再燃してきた。

あなたは自分の部屋で、テレビ番組が見れましたか?

 今の若者はテレビ番組を見る習慣がない、という。私はとっくに若者ではないが、テレビ番組を見る習慣はない。今の若者がテレビ番組を見ないのは、テレビよりネットの方が面白いからだろう。しかし私の場合は、ネットが普及するより前から、テレビ番組を見る習慣がなかった。


 一言で言えば、私は自室でテレビ番組を見れる環境がなかった。だからテレビ番組を見る習慣が身につかなかったのだ。


 そもそも、自室でテレビ番組を見るには、基本的には自室に同軸ケーブルを引き込まなければならない。アンテナから分線して自室までケーブルを延ばす必要がある。子供時代にそれが許される家庭が、一体どれくらいあるだろう。もちろん室内用アンテナという選択肢もあるが、当時のそれは、自宅ではとても使用に耐える画質・音質ではなかった。

 私の場合は次のような経緯である。

それはポータブルと呼ぶにはあまりにも大きすぎた

 前に、小学校低学年まで食事時間にテレビの電源がついていなかった、と書いた。その後テレビが当たり前になり、ビデオデッキが導入されても、それらは全て家族と一緒にリビングで見るものだった。当時から好きなアニメはあり、録画していたタイトルもあるにはあったが、らんま1/2とパトレイバーの二つだけである。共有のビデオデッキでは、他のアニメを録画するどころかチェックする気すら起きなかった。しかし前述のとおり、あるTRPGがきっかけで、アニメにハマることになる。私は、ゲームボーイと同じように自室で一人で使えるテレビはないか探し回った。
 そこで当時の私が手に入れたのが、近所のDIYで展示品処分になっていたブラウン管式6型ポータブルテレビと、再生専用の小型ビデオデッキだった。再生専用というのがミソである。当時の先進的なアニメのほとんどはOVAだったから、テレビ番組を録画する必要がなかった。
 ちなみに、このポータブルテレビ。6型といってもブラウン管式なので、今の6型液晶テレビとは比較にならない大きさだ。特に奥行きが長く、羊羹のようなシルエットだった。この記事を書くにあたって、製品の画像がないか探したが、さすがに記憶にピタリと合うものは見つからなかった。
 当時既に私はPCエンジンGTゲームギアを持っていたから、それらが使えればわざわざこんな嵩張るものを買いはしなかっただろう。しかし、どちらも外部入力端子がついておらず、ビデオデッキを繋げられない。それがついていたのはPCエンジンLTだが、さすがに10万は出せないし、なぜかLTはほとんど中古市場に出回らなかった。そもそも出荷が少なかったのではないだろうか。


 大学生になって使えるお金の額が増えてから、一人でキネマの木根さんと同じようにテレビデオを買い、それがソニーの映像入力端子つきのCRTディスプレイに変わっても、やはり自室でテレビ番組を見る習慣は生まれなかった。そして、その後一人暮らしを始めてから、ついに私のテレビ番組視聴時間は「年間に1時間以下」*1となったのである。意識してテレビ番組を見た最後は、東日本大震災の後のテレビ特番だろうか。それ以降はほとんどリアルタイムでテレビを見ていない。
 そんな私には、冒頭の記事は、理解はできても共感は湧かなかった。知らない世界の話にしか思えなかったからである。そして私の疑問は、ネットでユーチューブを見る今の若者ではなく、それより上の世代に向く。子供時代、みんなそんなに好きな番組が見れたのだろうか。テレビ番組を見ることが習慣づいていたのだろうか。私の環境は、そんなに特殊な環境だったのだろうか、と。


 なお、ソニーのCRTディスプレイについては、また別のエントリで。

*1:リアルタイム視聴に限った数字。