3枚の絵の「謎」


 2回目を観に行って参りました。
 今回は、3枚の絵の「謎」の話を。




(以下、現在公開中の「のんのんびより ばけーしょん」のネタバレがあります)










 前回、1回目の鑑賞の感想の時に、原作にはないオリジナル要素として、新キャラの「新里あおい」のことについて書いた。実は、本作には原作にないオリジナル要素がもう一つある。それが、れんげが描く「3枚の絵」のエピソードである。

 沖縄に着いた直後、れんげがスケッチブックを取り出して「3枚の絵」を描きたい、という(もちろん、れんげは沖縄に着いて突然絵を描き始めたわけではなく、劇場版の冒頭でスケッチブックを持っており、故郷の絵を描いているという伏線がちゃんとある)。

 一枚が「海」の絵。

 もう一枚が「灯台」の絵。

 最後が「イルカ」の絵である。

 この話題を出した時点で、イルカに遭遇するのは難しい、というフリがある。つまり、故郷でも沖縄でも、れんげは「実際に見たものしか、このスケッチブックには描かない」。
 実際、作中では「海」にも「灯台」にも行き、2枚の絵を描いている。

 問題は「3枚目の絵」である。

 この映画を観た人は、どれが「3枚目の絵」だと思っただろう。
 ──などと書くと「お前は本当に劇場版を観たのか」と言われてしまいそうだ。そう──エンディング直前にれんげが夏海に一枚の絵を手渡す。夏海とあおいの二人がバドミントンをしている絵だ。この絵が3枚目の絵に決まっている──果たして、そうだろうか。
 1回目の鑑賞の時に、一緒に観た人とこの3枚目の絵の話になった(1回目の感想では意図的に触れなかった)。私が2回目を見直したのは、時系列をもう一度確認したかったからだ。箇条書きにすると下記のようになる。なお、この旅行は作中で言われているとおり、3泊4日だ。


・1日目の昼、れんげが「3枚の絵」を描きたいという話をし、イルカに遭遇するのは難しいと言われる。


・1日目の昼から夕方にかけて、一行は海で遊ぶ(れんげは「海」の絵を描く)。


・2日目、カヤックシュノーケリングの2手に分かれてアクティビティ。シュノーケリング組は、終わった後灯台に(れんげは「灯台」の絵を描く)。


・2日目の夜、れんげの描いたスケッチブックをあおいに見せる。


・3日目、年少組はあおいに沖縄を案内してもらう。*1その途中であおいと夏海がバドミントンをする。


・3日目の夕方(夜?)、れんげは蛍との会話で「3枚目の絵の題材が見つからない」というニュアンスの話を(れんげらしい独特の表現で)する。


・3日目の深夜(?)、あおいが年少組を夜光虫が見れる美しい海岸へと案内する。


・4日目の朝、れんげは蛍との会話で「イルカは描けなかったが、代わりにいい絵が描けた」という。


・帰宅後、れんげが夏海に絵を手渡す。


 ……いかがだろうか。ネックなのは「3日目の夕方、れんげは絵の題材がないという話を蛍としている」という点である。

 もちろん、あおいと夏海が絵の主題であることはまったく問題ない。問題はその背景だ。「題材がない」と言ってから「代わりの題材が見つかる」までの間にあったのは、夜光虫のイベントだけだ。つまり「3枚目の絵」は「夜光虫の絵を背景にした二人の絵」でないとおかしいのだ。少なくとも、あおいと夏海のバドミントンの直後、れんげがそれを絵の題材だと思っていなかったことは確かだ。1回目の鑑賞で、作中で絵が飾られるその瞬間まで、私はその絵は夜光虫の絵だと信じて疑わなかった。
 もしくは、れんげと蛍の会話が3日目ではなく、2日目の会話だったなら話は合う。ただ、このままの流れでは辻褄が合わない。

もう1枚の「3枚目の絵」

 ただ、もう一つ可能性がある。夏海に手渡した絵の他に、れんげは別の「3枚目の絵」を描いていた、という可能性である。突拍子もないようだが、あながち根拠のない話ではない。実は、れんげは「3枚しか絵を描かない」とは一言も言っていない。あくまでも「その3枚は描きたい」と言っているだけである。現に、描いた絵を見せるシーンでは「海」「灯台」の他に「マンタの絵」などもチラリと映っている。
 また、もう一つこちらの説を採る理由がある。れんげの目的は単に絵を描くことだけではなく「故郷の絵に沖縄を見せ、沖縄の絵に故郷を見せること」だ。夏海に絵を手渡して、それを部屋に飾られてしまったのでは「沖縄の絵に故郷を見せる」目的が果たせない。そう考えるとやはり「3枚目の絵」がもう1枚ある可能性もなくはなさそうだが……。

 しかし、ストーリーの「オチ」としては、れんげが描いた「3枚目の絵」をわざわざ「視聴者に隠す」意味がない。実も蓋もないことを言ってしまえば、「短い間だったけれど、あおいと夏海の友情は、珍しいイルカとの遭遇よりもさらにかけがえのないものであることを、れんげが学んだ」というのがこの作品のテーマだから、3枚目の絵はやはりあおいと夏海の絵であるべきだ。
 「美しい情景」が売りの作品であるならば、やはり最後は夜光虫をバックにしたあおいと夏海の絵が良かったと思う。

夏休みの最後の週に


 この公開前特番で言われているが、本作のアフレコは6月末に終了しているのだそうだ。
 しかし、公開は8月の最終週である。いくら本作の時期が夏休み後半の話だからといっても、もうちょっと前に公開してもよかったはずだ。もし直前まで内容の推敲を重ねていたのであれば……この伏線だけが見過ごされてしまったのかも知れない。繰り返すが、れんげと蛍の会話が2日目夜にされていたなら、なんら矛盾はないからである。


 なお、この3枚目の絵の謎を差し引いたとしても、私にとってこの作品は高評価である。
 昔の日記を読み返したら、ゆるゆり劇場版のときにもけいおんのアンサームービーという表現を使っていて自分でも笑ってしまった。自分が気に入った作品に抱く定番の印象なのだろう。


 まぁ、直前に見たのが「未来のミライ」だったので、ハードルが目茶目茶下がっていたというのもあるかもしれないが……。

*1:実は、3日目に年長組が何をしていたかは一切描かれていない。