今回は100時間

ペルソナ5 ザ・ロイヤル - PS4

ペルソナ5 ザ・ロイヤル - PS4


 前回無印の時は、初クリア76時間、リアル時間約10日。今回は102時間、リアル時間約20日。リアル時間はともかくとして、クリアタイムの方は(金策や経験値稼ぎ、コープ攻略の差はあれ)、追加要素分が丸々増えたためだろう。前作の熱烈なファンである私はもちろん今作も楽しめたし、追加要素の分についても高く評価している。
 今回は今までと違い、完全にクリア後を前提とした、ストーリーの超絶ネタバレありでいくのでもちろん折り畳む。しかし、ストーリーのネタバレ付き感想に入る前に、ネタバレに関係ないゲームシステムについてどうしても言いたいことを2点ほど書いておきたい。

 まず、追加キャラについて。うちの怪盗団では、結局加入後もレギュラーメンバーにはならなかった。理由は簡単。追加キャラはDLCの適用外となり、追加衣装が着れないからだ。DLCとして別売りだ、とかではなく、存在しない。前作から継続のDLCはまだしも、ロイヤルで新規追加された衣装もだ。これには非常に納得がいかなかった。明智には追加衣装があるのに、何故彼女には存在しないのか。うちの怪盗団はベルベットルーム衣裳で揃えていたので、衣装を替えられない彼女は浮きまくってしまう。結果、スタメンには入れられなかった。
 もう一つは、今回追加された新要素、他のゲームでいうところのギャラリーモード「マイパレス」の仕様についてだ。ゲームデータとして無印版のセーブデータが使えないのは仕方がないとしても、マイパレスの実績としては、無印版のクリア情報を引き継いで欲しかった。正直、ギャラリーを埋めるだけに無印版と同じエンディングをもう一度見るのはキツい……。
 と、ここから後はストーリーのネタバレに関連してくるので、一旦折り畳むことにする。


(この先、ペルソナ5ロイヤルのストーリーを含むネタバレがあるため、プレイする予定がある、もしくはプレイ中で未クリアの人は絶対に回避推奨です)












(この先、ペルソナ5ロイヤルの重大なネタバレがあります)










 前作同様、アルカナごとに感想を書いていく形にする。ただし今回は、追加ストーリーがあった3つのみだ。



<信念>芳澤すみれ(かすみ)
 遊び始めた当初に書いたが、本作冒頭、惣治郎がジョーカーを学校に送っていくシーンで「同い年くらいの女の子が事故で死んだ」という前作になかった台詞が出てきた。この時点で私の脳裏に浮かんだストーリーは「芳澤かすみは事故で死んだが、ヤルダバオトの手によって、ジョーカーと明智に対するもう一人のトリックスターとして仮初の生命を与えられて蘇生した。追加されるパレスは彼女のものであり、それをクリアすることで彼女はあるべき姿に戻る=死ぬ」というものだった。
 P5Rをクリアした人は「それって今回の明智……」と思ったかもしれないが、別に私はストーリーの先読みをしたわけではなく、思いついたストーリーは初代ペルソナのヒロインのほぼそのままである。パレスの存在の有無や、事故死か病弱かの違いはあるが。
 あのタイミングで出てくる台詞が伏線でないことはあり得ないわけで、こういう展開が浮かんだけれど、その後ストーリーは二転三転し、私の当て推量は大外れ──かと思いきや、まさかあんな形で半分当たるとは思っても見なかった。
 とはいえ、双子の姉妹が出てきた時点でその後の展開は読めた人が多かったのではないだろうか。私が今までP5Rのエントリで追加キャラの名前を書いてこなかったのは、そういったストーリー上の事情があったからである。というわけで、以下の文章ではパーティメンバーとして追加されるキャラ及びコープキャラについては「芳澤すみれ」という本名で統一し、双子の姉の「芳澤かすみ」とは意図的に区別して記述する。

 芳澤すみれの最大の問題は、パーティへの加入時期が遅すぎることだ。追加された3学期までは、コープはあるが本格的なイベントやパーティメンバーへの加入はない。ただでさえ無印版の奥村春が9月で遅いと言われていたのに、彼女は1月である。オープニングのニイジマパレスのシーンで登場するので、てっきりその前にも怪盗団に絡んでくるものと思ったが、ちょこっと出番があるだけだ。なので、パッケージの中央にデカデカと描かれている割には存在感が薄い。DLC衣装すらないこともそれに拍車を掛けている。
 すみれについては、フタバパレスあたりでパーティに一時加入してもよかったと思う。彼女は──というよりその背後にいる<顧問官>がだけれど──認知訶学とも一枚噛んでいることだし、一色若葉のことを調べる名目あたりで目的を明かさないまま一時加入して離脱、その後3学期に再登場、とか。怪盗団に入らない一時的協力なら、ニイジマパレスでの台詞とも矛盾しない。というか、あの台詞を聞いたら普通そういう関係性を想像すると思う。まさかアレだけしか出てこないとは。
 ここでフタバパレスを挙げるのにはメタ的な理由もある。実は、P5のストーリーの中でフタバパレスとシドウパレスのみ、仲間が増えないパレスなのだ。双葉はパーティメンバーではないし、しかも加入するのはクリア後だ。カモシダ、マダラメ、カネシロときて、ここだけゲームシステム的な変化が起こらない。キャラクター的には完全に<顧問官>と表裏一体なので、3学期まで本格的なイベントが起きないのは仕方ないと思うが。
 一つだけ気になっているのは、1月以降の<顧問官>が作り出した願望世界で、芳澤かすみが生き返らなかったことだ。一色若葉や奥村邦和は双葉や春の願望を汲んで生き返ったのに、だ。つまり、一見健気でいい子に見えるすみれだが、彼女はかすみが生き返ることを望まなかったことになる。こういうのをサラっと描くのがいかにもという気がする。


<正義>明智吾郎
 彼については前回も取り上げたので、2回目ということになる。
 「明智を本当のパーティメンバーとして加えたい」「ロビンフッドではなくロキを使う明智を仲間にしたい」「でも、適当に仲直りして一緒にやろう、じゃ明智のキャラじゃないし物語的にも矛盾する」というプレイヤーの願望とストーリーのジレンマをほぼ解決するには、この方法しかなかったのではないかな、と思う。
 クリスマスイブに明智が登場して自首すると言い出した辺りで「おいおい、追加ストーリーの3学期でジョーカーが動けないといけないからってご都合主義すぎるだろ」とプレイヤーに思わせる、それ自体が伏線だったというのは流石だ。一色若葉が登場してくる辺りで怪しんだプレイヤーも多かったのではないだろうか。
 モナは人間になり、杏は志穂が元気になり、竜司は走れるようになった。祐介は斑目がまともになり、双葉は若葉が、奥村は父親が戻ってきて──ジョーカーにだけ「願望」がない。この時点で自分が明智のコープを上げていることを思い出せば「もしやこの明智は……」となる。ただ、私が確証を持てなかったのは、明智が「一旦逮捕されて釈放された」と言ったからだ。<顧問官>のやり方からすると「そもそもどちらも逮捕されない」世界にしそうな気もしたので……。後は、仲間が変化するタイミングが年が明けてから、明智が出てくるのがクリスマスと、一週間近くタイムラグがあったせいもある。

 「世界があるべき姿に戻れば、自分は消えていなくなると分かっていながら──それでも世界をあるべき姿に戻すために戦う」というと、FFXのティーダなどは私の琴線に触れまくるキャラとストーリーだったのだが、では明智が同じ立場に置かれたからといって思い入れができるかというと──本編ストーリーからいって、簡単にそうはいかないというのが正直な感想だ。繰り返すが明智は大量殺人者であり、主人公を殺した人物である。しかし、明智ティーダと違い、誰かのために、世界のためにそうしたわけではなく、自分だけのために主義を貫いた。他人の思い入れなど気にしない、最後まで安易な同情など拒むキャラクターという意味では、これ以上なく表現されている。

 とはいえ──私自身の感想としては、本来は芳澤かすみこそが、明智の立場だったのではないか、とも思うのだ。<信念>の項でも書いたとおり、私は最初そういうストーリーを予期していた。「世界があるべき姿に戻ることで、芳澤かすみは消えていなくなる」──そういうキャラクターとして造形されたのではないだろうか。なぜなら「ペルソナ5のストーリーをできるだけ大事にして改変しない」というスタッフの言を信じるなら、これが一番「収まりのいい終わり方」だからだ。追加パレスが彼女のものであるかどうかはともかくとしても、それを消滅させることで彼女は「元通り」死ぬという物語。それによって、P5の物語は「全て元通りになる」。
 しかし、それでは悲劇的に過ぎるし、明智の再登場する余地がなくなってしまう。だから芳澤かすみには「すみれ」という双子の妹ができ、かすみは死ぬがすみれは死なないという物語になったのではないか、というのが私の完全なる「邪推」である。



<顧問官>丸喜拓人
 さて、ここでまたメタな話をしよう。前作のプレイヤーには、本作の評価があまり高くないという話をたまに聞く。私自身は本作のストーリーも高く評価している。いかにもペルソナっぽいとも思う。しかし、本作の評価が低いというプレイヤーの気持ちもわからなくはない。というのも、今作の追加ストーリーである3学期に到達するまでに、私はこれで3度目でありながら、前回同様70時間以上掛かっている。追加部分は折角面白いのに、そこに行くまでに前作とほぼ同じストーリーを長時間かけて進める必要があるからだ。
 では本作を、ペルソナ3フェスと同じように、エンディング後の追加ストーリーにすることは可能だったのか。実のところ、丸喜と明智のプロットだけであれば不可能ではなかった気もするのだ。「前作のエンディング後、一旦帰郷したジョーカーが久しぶりに怪盗団のメンバーに再会してみると、どうも様子が変で、しかも死んだはずの明智が──」という感じだ。だが、芳澤すみれが入るとこうはいかなくなる。彼女の物語はエンディング後にポッと出てきても成立しない。結局本編をもう一度なぞるしかないのだ(ここまで同じなら「強くてニューゲーム」はできてもよかった気がするが)。

 というわけで、丸喜について。彼は「前作ボスのバックにいた真のラスボス」ではない。ストーリーも、前作の続きというより外伝である。その意味では今作エンディングは前作で噂されていた「真エンド」というより「ちょっとだけ回り道をしたエンディング」とでもいうべきものだ。ただし、怪盗団メンバーのエンディング後の進路はより進歩した形で変化するので、丸喜と戦う方が成長する、とはいえるかもしれない。
 個人的には、この丸喜の存在は前作への世間の評価に対するアンチテーゼだと思っている。前作で散々言われた「改心とは洗脳ではないのか。怪盗団は相手を都合よく洗脳しているだけではないのか」という批判に、丸喜のパレスの存在は真っ向から衝突する。今回のパレスの主、丸喜は「紛れもない善人」であり「自分もトラウマを抱えながら」「それでも人々の幸福を願い」、しかし「世界を歪ませる存在」である。
 今回、マルキ・パレスを見て私が思い出したのが、ペルソナ4の「天上楽土」だ。特に調光器を操作するエリアはそっくりである。生田目の「救済」は本人の勘違いだったから、それを糾すのはいわば当然だった。しかし、今回の丸喜は本当に人々を救済している。不慮の死を遂げた人は生き返り、不幸な出来事はなかったことになる。怪盗団のメンバーにとってもだ。
 怪盗団のメンバーにとって都合の悪いことをした人間を改心させるから洗脳に見える。だから、それを反対にすることで構図がはっきり見えてくる。「改心」とは何か? それは「欲望によって歪んだものをあるべき姿に戻す」ことだ。その歪みがたとえ──怪盗団のメンバーが幸福になるものであったとしても。

 丸喜は追加キャラとして紹介された時から、いろいろ事前予想されていた。「実は悪人」「実はラスボス」等々。結果としては「実は悪人」ではなかったが、それゆえにこそラスボスだった。「パレスを持つのは悪人」という本編の常識を逆手に取った(あるいは例外としてのフタバパレスを発展させた)、外伝だからこそ許される特異なストーリーだったと思う。