ついに到着してしまった……ロンダルキアに……。
なぜサイバーパンクといえばロッカーボーイ&ガールなのか
先日書いたエントリの続きである(長くなりすぎて当日に上げられなかった)。
「サイバーパンク2077のライフパスにロッカーボーイ&ガールやメディアがないのは何故だ」と私は書いた。これには理由がある。サイバーパンクの世界においては、本来、彼ら(特にロッカーボーイ&ガール)こそが主人公だからだ。
例えば、ファンタジーRPGには「王道」のストーリーテンプレートがある。地下迷宮に潜り、財宝を溜め込むドラゴンを倒してこれを手に入れて戻ってくる。あるいは、悪い魔法使いを倒し、攫われた姫を奪還する。陳腐? もちろんそのとおり。昔から様々な作品で語られ、使い古されるほど有名だからこそ陳腐なのだ。
しかし、サイバーパンクやスチームパンクのようにジャンルそのものがマイナーである場合、その王道もまた無名だ。変化球を投げようにも直球がまず知られていない。まずそのジャンルの王道を行ってこそ、変化球が生きる。
例えば、天空の城ラピュタとスチームボーイ(ふしぎの海のナディアを含めてもいい)の主人公が、どちらも発明好きの少年であり、ヒロインがお姫様なのにはれっきとした理由がある。産業革命の時代、科学に未来と希望があった時代の物語を描くためには、それが必然だったからだ。
スチームパンクについてはまた日を改めるとして、サイバーパンクはどうか。
サイバーパンクの物語の主人公たちは、善人ではない。悪事に手を染めることも厭わない者たちだ。では、彼らの物語の王道は、グランドセフトオートのような、P&E(ペネトレーションアンドエクストラクション)、ブッ込んで殺して奪ってくる、そんな物語なのかといえば、違う。
実は、サイバーパンクのストーリーで、主人公がギャングという例は決して多くない。
古典サイバーパンクの主人公に最も多いのは、サイバーパンク2020、2077でいう「ネットランナー」、トーキョーN◎VAでいうニューロである。
彼らハッカーが事件を通じて人類を凌駕する存在(AIだったり、人造人間だったり)に出会い、新時代を垣間見てそれぞれの道を選ぶのが、サイバーパンクの一つの王道の物語だ。「ニューロマンサー」のウインターミュート、「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」のレプリカント、「攻殻機動隊」の人形遣い。だからこそ、トーキョーN◎VAのラストナンバー、「世界」を表す21枚目のスタイルは「ニューロ」なのだ。
そして、サイバーパンクにはもう一つの王道がある。サイバーパンク2020のレフェリーズアクセサリに掲載された最初の物語──そう、「ジョニー・シルヴァーハンド」の物語。それは「ロッカーボーイ&ガールが歌をもって巨悪を暴き、体制に反逆する」物語だ。同様に、メタルヘッドシナリオ集「サイクロン」の最初のシナリオ「FIRSTALBUM」は歌手と企業犯罪を巡る物語であり、サイバーパンクを題材としたアニメであるバブルガムクライシスの主人公、プリスもまたロッカーガールなのだ。
やらなきゃいけないことが何か、最初からわかってた
わかりすぎるぐらいさ
世界を汚すクズどもがいた
人間を殺し、大地を犯し、
現場を押さえられてもいけしゃあしゃあと嘘をつき続けやがった
ヤツらのケツに火をつけて冷や汗をかかせてやろうと決めただからオレは、ロッカーボーイになったんだ
音楽ってのは、いつも3つのAから成り立ってる
Axe、Attitudeそして…Audience
“ギター(アックス)”と“主張(アティテュード)”は持ってた
オレにとって必要なのは3つめの“聴衆(オーディエンス)”だけだったというわけさ…──ケリー・ユーロダイン
これが、サイバーパンク2020のルールブックで最初に紹介されるロールのサンプルキャラクターのセリフ(クオート)だ。なお、このケリー・ユーロダインは、2077に登場するジョニー・シルヴァーハンドとSAMURAIというバンドを組んでいた、伝説的なロッカーボーイである。
殺し屋(ソロ)でもなく、ネットランナーでもない。ルールブックの最初に掲載されているのがロッカーボーイだ。そして、トーキョーN◎VAの22のスタイルの最初の1つ、ナンバーゼロは「カブキ」(ロッカー)である。
これは偶然ではない。スチームパンクにおける少年少女のように、サイバーパンクにおける「構造・機構・体制に対する反発(いわゆるパンク)や反社会性」の象徴、つまり「主人公」にあたるのがロッカーボーイ&ガールであり、カブキなのだ。
だから私は、サイバーパンク2077のライフパスにロッカーボーイ&ガールがないと聞くと、まるで戦士が出てこないファンタジーRPGを見ているような気分になってしまうのである。