F-ZeroAX探索日記(後編)


 私は千葉県柏市に向かうことにした。情報の信頼度は、半信半疑よりちょっとマシ、という程度だと思っていた。書き込み主を信用していないというより、稼働から20年も経って大型体感型筐体がまともに動作しているとは、にわかに信じられなかったのだ。

 スポッチャ内にある、とチラッと書かれているが、私には比較的近くにあった(それもかなり前の話)ラウンドワンの知識しかなく、スポッチャというのがどういうものか知らなかった。到着してフロアに向かおうとすると、入場手続きがある。──入場料を取られるのか!? 料金は最低料金で大人一人3000円である。3000円……。これで現物がなかったらかなりショックだ。
 が、しかし。



 DX版の筐体が、ちゃんとプレイ可能な状態で設置されていた。あれだけ探していたものを目の前にし、思わず言葉を失う。
 そして、料金がフリープレイに設定されている。ここで私は初めてスポッチャのシステムを理解した。入場料が3000円かかる代わりに、中にあるゲームをフリープレイで遊べるシステムなのだ。全体的な雰囲気は、ゲーセンというよりダーツまである体感アミューズメントの集合体のような感じだが、その一角に大型体感型筐体のゲームがわんさとある。ゲーセン版スーパーマリオカートルイージマンション。かつて見かけ、そして消えていったゲームばかりだ。とはいえミカドほど古くはなく、集められているゲームのベクトルも違う。
 プレイ料金を1回200円と計算したら(当時はそうだったはず)、15回遊べば元は取れる計算である。格安のドリンクバーも付いていたので、ドリンクバーを頼んで休憩を挟みつつプレイしたらなおさらだ。割高と思うかもしれないが、20年前の大型体感型筐体をメンテナンスし続ける手間を考えれば、むしろ安いと私は感じた。
 とはいえ、やはり完全とはいかず、Wikiにあるとおりステージの切れ目で奇妙な挙動をする。それより気になったのは、視界チェンジボタンの1番(主観視点)が全く利かなくなっていたことだ。
 しかし逆に言えば、気づいたのはそれだけだ。それ以外はほぼ、往年の挙動のまま動作する。ライバルカーに体当たりされるとガクガク揺れるのも、強力なGで体が傾くのもそのままだ。

 ──素晴らしい!

星と翼の……

 帰路、私はとあるゲームに思いを馳せずにいられなかった。もちろん、星と翼のパラドクスのことだ。


w.atwiki.jp


 実は、ゲームカタログの星と翼のパラドクスのページには「スポッチャなら見かけるかもしれない」という記述がある。今回の経験まで、この記述の意味が分からなかったのだが、今ならわかる。体感型筐体ばかりを集めたこういう店舗なら、メンテナンスもまとめて面倒が見れる。普通のゲーセンでは持て余してしまうような筐体でも、ここなら残っているかもしれないというのもわからなくはない。
 ただ──F-ZeroAXはインターネットランキング以外通信に拠るところがなかった。スポッチャにあったゲームをわかる範囲で片端から調べたが、通信機能はすべて切られていた。鉄拳ですら。それが悪いこととは思わない。通信にかかる手間を捨て、その分を古い筐体のメンテナンスに充てるというのは、一つの選択肢だ。だからこそF-ZeroAXが残されていたのだろう。昨日のWikiの情報にあるその他の設置店舗も、ミカドを除いてほぼすべてスポッチャだ。
 ネットワーク機能に大きく拠っていた星と翼のパラドクスは、F-ZeroAXとは事情が異なる。実際、可能な限り検索してみても、スポッチャに星と翼のパラドクスが残っているという情報は得られなかった。ただ、F-ZeroAXについても公式ホームページには設置情報が一切ないので、行ってみたら実はある、という店舗があってもおかしくはないが。


 それにしても、皮肉なものだ、と思う。20年前のゲームが、通信機能をほとんど持っていなかったがゆえに今でもメンテナンスされ、非常に希少とはいえ遊べる環境にある。なのに、たった1年前の最新の通信機能を持ったゲームがどこにも見当たらないとは。