オーソドックスなファンタジーとは


 本当は昨日のエントリで書くべきだったが、前提として、この本が指すところの「オーソドックスなファンタジー」とはなんだろうか。
 かつて、SNEの「コレクションシリーズ」が上梓されていた頃──日本語で遊べるファンタジーTRPGが指折り数えるほどしかなく、コンピュータRPGのそれも知名度がほとんどなかった頃であれば、「オーソドックスなファンタジー世界」の解説本には存在意義があった。多くの日本人にとってファンタジーとは初めて触れるものであり、そこには共通認識がなかったからだ。ゴブリンとは、オークとは、マンティコアとはどんなモンスターなのか。エルフとは、ドワーフとはどういった存在なのか。それを知るには、そういった本に頼る以外には原作を一つ一つ当たっていくくらいしか選択肢がなかったからだ。
 今はどうだろう。エルフもドワーフも、オークもゴブリンも、解説本どころか、動画のサブスクサービスにでも入ってロード・オブ・ザ・リングでも見れば迫力満点のビジュアルで満喫できる。それらが登場するファンタジー作品は、ゲームでもライトノベルでもコミックでも枚挙に暇がない。だから解説本には意味がない──というのとは少し違う。
 
 かつては、ソードワールド1.0のような世界が「オーソドックスなファンタジー」だった。しかし時代を経るごとに、オーソドックスなファンタジーは変質してきた。共通認識が生まれたからこそというべきか、そこから数々の変化球が生まれたのだ。剣と魔法が存在しながら、帝国兵がマシンガンで武装するような世界を、アルシャードは「スタンダードファンタジー」と呼んだ。ソードワールド2.5には列車も銃も登場する。アリアンロッドにも銃はあるし、D&Dですら、魔法で走る列車が都市と都市を繋いでいる。
 そんな時代の「オーソドックス」、つまりファンタジーの平均値を割り出すのは難しい。今、汎用的なファンタジーのガイドブックを作ろうとしても、結局はどれかのタイトルに偏ったガイドブックにならざるを得ないのではないか……そんな話を、前にセッション仲間としたことがある。

閑話休題

 では、このガイドブックはどうなっているか。
 全体としては、ミニゲームブック方式というか、シチュエーションごとに選択肢が提示され、誤った選択肢を選ぶとバッドエンドになる形式だ。ファイティングファンタジーのような複雑な選択肢ではなく、間違っていれば即不正解とわかる。
 そして、冒頭からゴブリン退治とドラゴン討伐その他から選択肢を選び……ドラゴン討伐を選んだら即死。

 「D&Dのよくわかる本」ですよね! わかりますわかります! 私も最初はそうでしたからね!

 脳内で次のツッコミを思い浮かべながらページをめくったら、そこには失礼ながら意外な、そして真っ当なことが書かれていた。

 ただ、適切な依頼がいつも複数存在するとは限らず、選択の余地がないこともあります(ゲームマスターGM)がシナリオを作っているならば、特にそうでしょう)。GMはプレイヤーが操るキャラクターのレベルに合わせてシナリオを準備するのが普通ですから、もしあなたがプレイヤーならば、ヘンにごねたり選り好みをせず、その依頼を請けるのが楽しむための第一歩となるでしょう。
──「異世界冒険ガイド」初版P39より。そのほかの出典情報は上記のAmazonリンクを参照


 いや、まさしくおっしゃるとおり。それをツッコもうと思って身構えつつ読んでいた私は拍子抜けしてしまった。*1ちなみに、ここでは引用しないが、この後に書かれているGM向けの注意事項も、とても真っ当で役立つ内容である。


 ドラゴン討伐を受けたら即死なんていう超展開からこの内容。まるで「クロちゃんのTRPG千夜一夜」の後にカオスフレアの「なぜなに未来侵略」を切って繋げたようだ。私が困惑した理由がお分かりいただけるだろうか。(まだ続きます)

*1:ブレカナの「輪廻の十字路」などは、実質初心者向けのシナリオでありながらいきなり赤竜ロヴレンドと戦う羽目になるので、最初だからドラゴン討伐を請けてはいけないというのも、ゲームによる。