辛かった……


 さて、今日は先日書くといった「逮捕しちゃうぞTheMovie」の話である。かなり昔の作品ではあるが、完全に結末まで含めたネタバレあり、かつかなり辛口になるので、折り畳む。ネガティブな感想を見たくない方は回れ右してほしい。














 先日の話の続き。当時、今のように細田監督がダメアニメ映画のスマッシュヒッターになる前、個人的にダメアニメ映画の三巨頭といえば「銀色の髪のアギト」「星を追う子ども」そしてこの「逮捕しちゃうぞTheMovie」だった。

 この三作品には共通点がある。「明らかに特定の先行作品を参考にして製作されているようにしか見えないにもかかわらず、どれも先行作品の劣化コピーにしかなっていない」という点だ。先の二作品はジブリ作品(もっといえば「ラピュタ」)、そして「逮捕しちゃうぞTheMovie」は「機動警察パトレイバー」である。
 ただ、「逮捕しちゃうぞTheMovie」だけにしかない特徴もある。他二作品、また後続の細田監督作品を含めてもよいが、それらは「劇場版オリジナル作品」であり、原作やTVシリーズが存在しない。これに対し、この「逮捕しちゃうぞTheMovie」だけは、原作が存在し、TVシリーズが存在する。TVシリーズ作品の劇場映画化といえば、ダーティペアパトレイバー機動戦艦ナデシコなど、既存の展開である程度人気を集めたタイトルの集大成的な存在であり、それなりに気合を入れて作られた作品が多い。
 ところが、「内容はともかく主題歌だけは素晴らしかった銀色の髪のアギト」「内容はともかく静止画像だけは美麗だった星を追う子ども」に比べても、この作品には見るべきものが何もない。作画レベルすら、スーパーハイクオリティアニメといわれた最初のOVAシリーズに及んでいない。まさか劇場版アニメで、アクションシーンで「止め絵」で演出をごまかすシーンがあるとは思わなかった(冒頭の武器取引のシーンや警察署襲撃シーン、クライマックスの船での追跡シーンなど随所で見られる)。


 さて、肝心のストーリーであるが、何故この作品が機動警察パトレイバー(旧OVA5,6巻、劇場版1,2)を参考にしていると感じるか。以下のような共通点があるからだ。


・犯行内容が警察や自衛隊など、公的な権力を対象にしたテロリズムである。

・テロの結果、都市機能が麻痺し、特に情報網を寸断される。

・主犯が主人公自身ではなく主人公の上官に縁の深い人物である。その上官は警察上層部から行動を制限される。

・主犯は元警官であり、上層部から不当に扱われたことが犯行のきっかけになる(状況はパト2の柘植に似ているが、外見は1の帆場にそっくり)。

・本来治安維持にあたるべき部隊、動くべきセクションではない人間が解決にあたる。
 
・主犯と上官が単独で会おうとするシーンがある。

・上官が哲学的なことを語るシーンがある。

・「橋」がキーワードとなり、これを爆破するシーンがある。

・BGMを担当しているのが川井憲次さん。

・南雲隊長を演じる榊原さんが南雲隊長によく似たキャラで登場する。


 当時は今と違い、アニメ映画の本数が限られていた時代である。「警察官が主人公のアニメーションの劇場版」といえば、極めて限られた作品しかなかった。その数少ない作品同士でこれだけ共通項があれば、比べられるのは必然だ。製作スタッフがパトレイバーなんて知らなかったというなら勉強不足だし、知っていたのなら似せすぎた(特に下4つは酷い)。
 ただ、先行作品を参考にするのは必ずしも悪いことではない。アイデア著作権保護の対象外だし、先行作品に似ていても、オリジナルの部分がちゃんと面白く作れていればむしろ評価の対象だ。
 問題は、相違点がことごとく劣化していることだ。
 優れた作品には無意味なシーンはない。逆にいえば、先行作品にあって後発作品にないシーンがあれば、それは「必要なプロットが足りていない」ことを意味する。


・夏美と美幸が応援を呼ばない理由が不明

 視聴者からすると、最も意味の分からないのがこれだろう。何故夏美と美幸は適切なセクションに連絡を取り、出動を要請しないのか。パトレイバー2では、ここで「主人公たち以外事態の解決を図れない状況である」ことを、幾つもの伏線を張って必然性を持たせている。東京各所に自衛隊の部隊が展開しており、どの部隊が敵か味方か判然としない状況であること(これも柘植の計画の一部である)、警察の上層部が己の保身のため、事態の打開に動くつもりがないこと、そして、主人公たちがレイバーという実効兵器を保有すること。パトレイバーの旧OVA版と劇場版2の両方に、南雲隊長と上層部の決裂シーンがあることは、偶然ではなく必然なのだ。
 対して、本作はどうかといえば、警視正という高位の警察官が現場にいながら、適切な部署に適切な連絡を取ろうともせず、所轄の交通課の警官二人に事態の打開を任せてしまっている。ご都合主義は、それを成り立たせるための伏線を張らなくていいという免罪符ではない。ここまで規模の大きな事件を設定してしまうと、墨東署が独立愚連隊と呼ばれているというだけでは、夏美と美幸がスタンドプレイを繰り返す理由としては全く足りない。東京中の電話が不通になったからと言いたいのかもしれないが、普通に東京タワーに観光に来ている呑気な客がおり、人々もパニックを起こしておらず、描写がちぐはぐだ。東京全域に戒厳令まで敷いたパトレイバーとは天と地ほども差がある。Wikipediaによれば東京各所を取材して描写をリアルにしたらしいが、もっと別の場所にリアリティを持たせるべきだった。


・敵が情けなさすぎる

 視聴者から見て、次にツッコむのはここだろう。都市機能を麻痺させるほどの高度な計画と技術を持つ組織が、実弾を装備して警察署に乗り込みながら、交通課の警官にオモチャのペイント弾で撃退されるのはあまりにもアホすぎる。なろう小説ではないが敵がアホすぎるせいで、作中人物たちが深刻な事態に対処しているはずのシーンが茶番にしか見えない。
 加えて、本作で組織が警察署を襲撃した理由も不自然だ。警察に押収された蜂一号改のデータを取り戻すためというが、本庁のデータベースにハッキングしてデータを消去できるような存在が、コンピュータ上のデータを取り戻すためわざわざ警察署を武力で制圧しようとするのは整合性が取れていない。データなんて複写されて警察内部で共有されてしまえば終わりな訳で、わざわざ物理的なメディアだけを「取り戻す」ことに一体何の意味が?
 この辺りの説得力も、本作と先行作品では雲泥の差がある。


・主犯の存在感がない

 パトレイバー2の冒頭に、柘植の属する部隊が壊滅するシーンがある。武器の使用が許されなかったために、無為に部下を死なせ、全てが終わった後に天を仰ぐと、神の像に見下ろされる。あれが柘植というキャラクターを表す極めて重要なシークエンスだ。
 それに相当するシーンが、逮捕しちゃうぞTheMovieには存在しない。主犯の柄本の動機を示唆する過去の場面はなく、課長との繋がりを示すのは科白だけ。このため、本作の視聴者にとっては柄本は「終盤にポッと出てきたよくわからない人」以上の存在になり得ない。そもそも、柄本はスーパーハッカー(笑)なのか、それとも低強度紛争における戦術立案の天才なのか、経済犯罪に通じたプロの警察官僚なのか、描写がブレまくっていて説得力が皆無である。「柄本はどんな人物か」という筋の通ったバックボーンがないためだ。柄本の存在感が薄いせいで、犯行全体、ひいては作品全体が、それっぽいシーンを連ねただけの、ひどく薄味なものになっている。


 逮捕しちゃうぞTheMovieは、それまでの同タイトルとは全く違う雰囲気の作品である。これを逮捕しちゃうぞでやる必要があったのか。先行作品の模倣を、無理矢理既存のIPに突っ込んだだけではなかったか。私と、一緒に見た友人は、そんなモヤモヤしたものを抱えて帰路に就いたのである。
 そして、それまで熱心に逮捕しちゃうぞを追っていた私は、TVシリーズに食傷気味だったことも相俟って、本作を追うのをやめてしまった。そんなファンは私だけだろうか? 先日の復活記事を見て、そんなことを思い出した次第である。