そして明日の世界より レビュー

 友人のSさんに勧められてプレイしてみた。エロゲは結構久しぶりのような気がする。

 ここから先は超絶ネタバレありなので、ネタバレが駄目な人は緊急回避すること!

 さて、まずは簡単に全体の印象など。

「三ヵ月後に地球に彗星が衝突し、人類のほとんどは死滅する。さて、君ならどうする?」

 というのが基本のストーリーコンセプト。これが受け入れられないと、この作品はきつい。彗星衝突といっても、衝突回避のために主人公たちが何かできるわけではないし、するわけでもない。つまり、世界がもうすぐ滅亡するという状況で、どのように日々を過ごすか? という話。
 で、私は常々言っているとおり「バッドエンドは無条件で星2つ減」という主義なので、この作品についてもその補正付き評価であるということを最初に断っておく。

 グラフィックは最高。特に背景が。原色系の背景を使うゲームが多いなか、このゲームの背景は徹底的に淡い色の中間色で固められていて、島の雰囲気が素晴らしく表現されていた。
 音楽もいい。さすが貫禄のI’ve。EDがヒロインごとに違う曲なのは贅沢な作りだし、グランドフィナーレでアメイジンググレイスとか反則すぎるだろ(TT

 次に、個別のストーリー(攻略順)。

 一番気に入ったキャラだったのと、攻略サイトに「夕陽は最後のほうがいい」と書かれていたので青葉から攻略を開始。
 ごめん、失敗だったかもw 青葉を最初にやったせいで評価が爆落ちしたキャラがいる。夕陽のことだ。
「自分は女としては夕陽に勝てないから、主人公が求めていた、同性同年代の友人のように振る舞っていた。でも本当は…」
 これを聞いて、るろうに剣心鎌足の独白をちょっと思い出したり。
 でも、このゲームで一番好きなキャラは性格も容貌も変身前の青葉だったりする。ポニテ最高!
 
 次に御波。
「死を恐れない狂信者の死刑囚に、音楽を聞かせ演劇を見せ、生きることの素晴らしさを教え、死の恐怖を育ててから殺す」
 という話を「キャラクターコレクション」(富士見書房)という本で読んだことがある。このヒロインはその恐怖すらも最後には克服するわけで、一見はかなげだが、実はヒロインの中で一番強靭なのではないかなぁと思う。ノーマルストーリーのがんちゃんの授業で、最後にじいちゃんが引用した言葉も実は御波の言葉だったし。
 
 そして朝陽。
 前の二人に比べるとストーリーの評価は落ちる。どうしても最後ご都合主義に見えるし。あと最初に青葉をやったせいで、夕陽の言動がどうにも黒く見えてしまってしょうがないw 私は主人公の庇護者ポジションにいるキャラは好きなんだけど、朝陽に関してはかなり序盤から弱さが見えていたので、青葉より評価は低いまま動かなかった。

 最後に夕陽。
 世界の終わりという状況にあって「強さを見せるキャラ(御波)」「弱さを見せるキャラ(朝陽)」そして「本性を見せるキャラ(青葉、夕陽)」という感じ。
 青葉の話を最初にやると「青葉は主人公のそばにいるために必死に背伸びをし、仮面を被っていたのに、夕陽は主人公のそばにいるためにわざと手を抜いていた」ことになる。その違和感は最後まで拭えなかった。朝陽の時は「お姉ちゃんにがんちゃんを取られる」といって最後は両方一緒というエンドだったにも関わらず、夕陽エンドでは朝陽は身を引いてるというのもある。
 まとわりついてくる妹系幼馴染みキャラの扱いはどの作品でも難しいな。

     ◇

 さて、ここからがこのゲームの真骨頂。っていうか、どのヒロインとも結ばれない、普通のゲームならバッドエンドがトゥルーエンドって卑怯すぎるだろう…w
 このルートが一番、主人公他全てのヒロインが輝くストーリーだと思う。あと、主人公の周りの大人たちが格好良すぎる。父親しかり、じいちゃんしかり。じいちゃんの奥さんの病気の話(これは他のルートでもあるが)とか、鯛を釣る話とか…涙腺刺激しまくり。
 あと、他の村人たちの姿が一番描かれていたのも大きかった。やはり、ヒロインルートではそれぞれのヒロインと向き合うしかないけれど、このルートでは一番「終わり」と向き合っているからなのだろう。

 本当のこと言うと、各ヒロインルートを終わった時点では「これって『彗星激突』を『ダムで村が水没する』に変えても、話がほとんど成り立つなぁ」と思っていた。
 主人公にとって世界の滅亡というのは、自分を取り巻く閉じた世界の滅亡を意味する。島の外の世界というのは、主人公にとってはテレビの向こうのどこか、でしかない。だからこそ世界の滅亡を知って、主人公は自分の周りの小世界を守ろうとするのだけれども…。

 で、このノーマルルートとその後のグランドフィナーレ「After」で、ようやく外の世界が描かれる。
 
     ◇

 After。
 希望は遺された。「We’ve been there」に涙する。

     ◇

 総評。
 結局、全てのルートで主人公を含め、村の人々は死に絶える。それが彼らの望んだ結末であり、彼らは最後の瞬間まで幸せだっただろう、ということもわかる。
 これは作品の評価というより、個人の死生観や哲学の域に踏みこむ話になってしまうが、理解はできる。共感もできる。しかし、納得はできない。(*1)主人公の行動に対してというより、作品のプロットそのものに対してだ。
 主人公に感情移入すれば、当然結末に殉じることに異はないのだけれど、一観客として見たときにはそれでも「生きていてほしかった」と思う。島の描写が素晴らしいだけになおさらそう思う。

 「風よ、龍に届いているか」という本がある。
 逃れられない世界の破滅を前に、主人公が「本当に自分のやりたいこと」のために困難に立ち向かう話なのだが、この物語の場合はそれが巡り巡って、世界の破滅を回避することに繋がる。そんな話だった。

 この「そして明日の世界より」のノーマルストーリー、あるいはアフターストーリーが、願わくばそんな終わりであってほしかった。温泉を掘ることが破滅の回避につながるような。
 生き延びた人類に一縷の希望を遺して去るのもいいだろう。しかし観客としては、この作品の美しい世界に魅せられた一人の人間としては、もう一度、破滅の去った世界で、あの島で、彼らが笑う姿を見てみたかった。それがいくらご都合主義であってもだ。
 もちろんそれが、この作品の素晴らしさをいささかも減じるものではないし、単なるわがままに過ぎないことは承知しているけれども、それだけが心残りだ。

(*1)たぶん、Sさんは「これは紛れもないハッピーエンド」と評するだろう。それぐらい個人の価値観に根ざした話だと思う。